第7話

「お前がやろうとしていることの方がよっぽど生半可だ。そんなに自信が無いなら交代だ」


「いや、誰が出てきても島原のゴッドスイングで満塁サヨナラホームランですよ。だから、このままやらせてください」

「お前の言ってることはめちゃくちゃだ。俺達はプロだ。この試合に自分たちの生活が掛かってるんだぞ。この試合に勝つと負けるとでは、その後の生活が違って来るんだ。そんな試合を分け解らないこと言ってる奴に預けられるわけねえだろう」

「替えないで下さい。やらせて下さい」

「駄目だ。何考えているかしれねえが次の球で捕手を立たせるつもりなら交代だ」


稲葉は返事をしなかった。そんな態度を見てピッチングコーチは、交代のサインを出すためにベンチを振り返った。


「解りました。言うとおりにします」


 稲葉はコーチの背中に呟いた。ゆっくりと稲葉に向き直ったコーチは、はかるような目で稲葉の顔を覗き込んだ。


「本当に解ったんだろうな」

「はい…」

「お前の持ち味は高速スライダーだ。次の球で臭いところへ思いっきり放れ。島原は追い込まれているんだ、絶対にバットを出してくる。しかしお前の球威なら大丈夫だ。力でねじ伏せろ。いいか次が勝負だ」


 ピッチングコーチは稲葉が頷いたのを確かめるとやっと安心してベンチへ戻った。

 コーチは解っていない。島原にゴッドのスウィングを使われれば、どんな球でもスタンドに運ばれる。捕手が座って構えたら勝ちはない。しかし、もう捕手を立たせるわけには行かなくなってしまった。

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