第4話
稲葉が再び軸足をセットすると球審がプレイを宣告する。捕手のサインは変わらない。その時稲葉は直感的に感じた。
「1球目から奴は来る」
稲葉は振り出した足を高くあげると、神から与えられたゴッドボールを渾身の力で島原に投じた。球は鋭いスピンの風切り音を立てて捕手の要求通りのコースでミットに収まった。ミットから砂ぼこりが立ち、球審のストライクのコールが甲高く響く。稲葉の予想に反し島原はピクリとも動かなかった。稲葉に残された球はあと1球。
稲葉の動揺を見透かしたように、島原は一度打席を外すと、今度は素振りもせずに悠然とバッターボックスに入ってきた。2球目の捕手の要求はアウトコース低めのスライダー。打者を押さえるセオリー通りの配球だ。
しかし稲葉は悠然と構える島原に心底怯え、単純な恐怖心から、神から与えられた最後の1球を投じてしまった。2球目も同じく島原は微動だにしなかった。球審のストライクコールを背中に聞きながら、彼の口元が僅かながら微笑んでいるのを稲葉は見逃さなかった。
島原は神から与えられた一振りをより劇的にするために舞台を整えていたのだ。その事を悟った時、稲葉は神から与えられた球をすべて使い果たしていた。
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