第9話 入学編

姿の変わったハクに対して男たちはとそれぞれの反応をした。


「異能解放、か」

「楽しくなってきたあ!」


冷静な男が言った言葉にユウトは意味を理解できず冷や汗を流しながらも必死に思考した。


(異能解放?直訳だと異能を解放するって意味だが、それだとなにから解放するんだ?こんなことが出来るとしたら異能だけだと思うが…、ハクの異能はまだ分かってないことが多いけど、固有名詞があるってことはハクだけって事はないはず。ますます分からなくなってきたな……)


考えれば考えるほど分からなくなったユウトは、どのような状態なのか分かっていないハクの為に死ぬかもしれないという思考を振り払って男たちに問いただした。


「おいっ!今ハクの状態は大丈夫なのか?!」

「何故俺たちがお前などにーーー」

「まあまあ、ちょっとくらいいいじゃねぇか。仲間がどんな状態かぐらいなら気になってしょうがないだろう?それに知ろうと思えば知れる程度のことな話だからよ」

「貴様は戦闘が絡まなければいつも甘いな。………はぁ、仕方がない、教えてやる。」


上司らしき男は大男からの甘言に苦言を返し、少し考えると徐ろに溜息をついてハクについて教え始めた。


「あの娘の状態は異能解放と言って異能を自身の魂から解き放った状態だ。つまり普段よりも異能の出力が上がっている状態と考えろ。これは当然ながら普段よりも強くなれるが普通に異能を行使するだけでも多少は疲れるんだ。出力が上がれば負担も増える事になるのは必然。その上がり具合を調整するのが異能者なのだが、あの娘はその調整が出来ない状態、所謂暴走状態だ。今どのくらいの負担が掛かっているのかは分からないが、かなり心身共にダメージがきてるだろうな」

「クソッ、どうすればーーー」


どうすればいいんだ、と言おうとしたところで男たちから殺気が飛ばされ、ユウトは口すらも動かなくなった。


「貴様がどうこうするのを許可した覚えはないが?」

「俺もそこまでは許す気はねぇよ」


勘違いをするな、先程はただの気まぐれだと言外を告げていることをユウトは理解した。

そして今危ないのはハクだけじゃない。

自分も同じなのだと認識した。

今何もされていないのは白の方が脅威だからだったのだ。


「あああああああああああああ!!!!!」


ユウトが思考も停止しようとしたところでハクが大声を上げ、子供がイヤイヤと首を振るように様々な方向へ炎を飛ばし出した。


「おっ、やっと動いたか!待ちくたびれたぜ!!」

「油断するなよ。実力差があったとしても手負いの獣は何をするか分からんからな」

「おうよ!」


男は返事をするとハクに向かって走り出した。

だがハクも暴走しているとは言え異能が強化されているのだ。

敵を認識すると手を男に向けると、空中に複数の青い炎の弾丸が現れる。

それは男よりも離れているユウトにさえ、熱いと思わせるほどの熱量を放出していた。

そして青炎弾が出現し終えると同時に男に向かって発射された。


「熱っ!?さっきよりも熱いぞ!?

「当たり前だ、馬鹿者め」


熱いと言いながらも男は気にした様子もなく走った。

そこでユウトは気づいた。


(今だから落ち着いて観れるが、あいつ肉体を強化しているにしては遅すぎるな。しかしこんなプロ集団で慣れていないって事はないはずだ。さっきの殺気はそれほどの圧力があった。ならもしかしてハルトと同じ、何かに干渉する系統か?)


「わはははは!これでもくらってろ!」


男は笑いながらハクに殴りかかった。

だがハクは炎を袖から急放出して、ホバリングするように距離をとった


「チッ、また距離を取られたか」ドンッ


男がまたハクとの距離を縮めようと足を踏み出した時、足元が爆発した。


「ガハッ」


男は不意を突かれて対応出来なかったようで、爆発の勢いそのままに壁にぶつかり、地面に倒れた。


「おい、起きろ」

「なんだよあいつ!意識あるんじゃねぇのか?!地雷源とか想定してなかったぞ、クソッたれ!」


勢いよく壁にぶつかった筈だが無事だったようで、倒れてすぐに起き上がった。


「貴様も異能解放をすれば良いだろう」

「いや、なんか負けた気分になるじゃねえかよ…」

「知らん、やらんのなら俺がやるぞ」

「分かった分かった、だがな!完全にはしないからな!」

「どうでもいいからさっさとしろ」

「へいへい、【風神】!」


男が叫んだ瞬間、足元から大量の風が巻き起こった。そして、再び目を開けた時には風の衣と言うべき物を纏った男がいた


「これ出しちまったから勿体ねぇがさっさと終わらせるぜ!」


また同じように男がハクに向かって走り出すと、ハクが青炎弾を撃った。

だが今度は男に青炎弾が触れるか触れないかというところで青炎弾が急に向きが曲がり男に触れる事なく壁に直撃した。


「え?!」

「黙っていろ」


ユウトはその光景に驚くが男がユウトを蹴り無理やり黙らせた。

ハクに接近した男ハクに殴るために拳を振りかぶった瞬間、ハクが袖から炎を噴射して男に突進した。

だがハクは男を避けるように飛ぶと、その勢いを落とす事なくユウトを掴むとさらに勢いが増して階段を上がって行った。


「あ!?逃げられた!」

「チッ、意識が戻ってたか」


ユウトがさっき驚いたのは男に炎弾が当たらなかったことにではなく、ハクの目に理性の光が戻っていたからだった。

そんな驚きの連続のユウトはとっさに捕まったハクと会話していた。


「おいハク!体は大丈夫なのか!?」

「いえ、メチャクチャヤバイです。今すぐ寝たいくらいの疲労と身体がバラバラになりそうな程の力が溢れてるを今必死で抑えてます」


ユウトはさっきの男たちとの会話を思い出してハクに問うと、ハクは会話するのも辛いと早口に自分の状態を呟いた。


「ならさっさと下ろしてそれを解けよ!」

「下ろしたらすぐに捕まりますよッ?」

「そうだがっ」


ユウトはハクを心配して辞めさせようとするが、次の策が思いつかなかった。


「なら予定変更だっ!そこの壁に穴を開けてくれ!」

「え?なんでですか?」

「いいから早く!そろそろあいつらが追いついてきてもおかしく無いぞ!」

「わ、分かりました!はっ」


ハクは先ほどよりも威力の弱い青炎弾で壁に穴を開けて外に出たが、


「あ、やばっ」


その瞬間、ハクの異能が解かれて、ユウトとハクは仲良く落ちていった


「いきなりかよーーーーーーっ!!」

「ごめんなさーーーーい!!!」

「くそっ、ギリギリ間に合うかっ」


ユウトは自身の異能を使い空気抵抗を高めてゆっくり落ちるようにしたが、それでもまだ速度は高いままだったり


「チッ、これならどうだ!」


さらにユウトは先ほどの異能を持続したまま、逆風の壁をいくつも作った。


「はぁ、焦ったがこれなら大丈夫そうだな」

「ふぅ、良かった。それにしても異能が持たなくてすみません」

「いや、もともとこうやって飛び降りる気だったから、予定を少し早く繰り上げただけだ」

「じゃあ、なんで最初から壁に穴を開けなかったんですか?」

「それはあいつらに逃げましたよって教えることになるだろう?そうしたら他の客が逃げにくくなる。まぁ、殆ど意味は無かったみたいだがな」

「なるほど、でも降りたらどうするんですか?」

「真下にいるエデンの人たちにここの中の状況説明と相手の情報を伝える。そしてあいつの家に連絡して応援を呼ぶ」

「情報を伝えるのはよく分かったんですが、ハルト君の家は大きい家なんですよね。それなら準備とかに時間がかかって遅くなるんじゃないんですか?」

「それはないな」

「なんでですか?」

「簡単な話だ」


そこで久遠の家系について詳しいユウトは呆れるように溜息をついた。


「あの家は大きいから強かった訳じゃない。家族を、身内を、自身の大切なものを守る為に個人で強くなっていったんだ。だからどんなにあいつが強くて信頼していてもその家族はあいつのために飛んで来る」


そこでユウトはまた溜息をついた。


「ほんと、意味が分からねぇよ。そんなアニメの主人公みたいな理念で強くなるなんてよ」


ハクは絶句した。

そんな異常な家族は自身の経験から絶対にありえないと言えるような事だったからだ。

だが今このような状況でユウトが巫山戯て言っているとは思えず、本当だと考えると頭が真っ白になるほど衝撃を受け、思考停止した


「はぁ、こいつの家族構成が異常だからしょうがないっちゃしょうがないんだがこれは…、仕方がない。疲れてるだろうししばらく眠ってろ」


ユウトがそう言うとハクは何かに導かれるように意識を暗闇に落とした


「ハルトとハクの仲が悪くならなきゃいいんだが…。はぁ、なんでいつもいつも俺が損な役回りなんだろうな。偶には良いことが無かったら嫌になるぞ」


ユウトはそう呟くと、ハルトがイライラしているとハゲるぞと言っている様子が頭に浮かびさらに胸がムカムカしてきたのだった

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