第10話 入学編

時は、相手がハルトに本気で潰す宣言したところまで遡る。



「了解しました。全力で敵を倒すぞ!」

『はっ』


あ、隊長っぽいやつのセリフを部下が取った。

にしても本気、か。

見たところ異能解放までは使えない雑兵のようだが。

いや、そうでもないか。

連携や技術を上手くする事で魔物や人外を殺して生き延びてきたのが人間だ。

侮不要じゃ足をすくわれてしまうな。

陣形は前方に2人、後方に隊長1人、左右に1人ずつ、最後の1人が遊撃か。

まぁ、普通に面倒な陣形だな。

ただ、モンスターほど俺がでかくないから人間相手にするような陣形をとってるが、これはこれでそれぞれのカバーの仕方でかなり相手の仕方が変わる。

こっちを完全に格上と思ってかかってきてるところが厄介になる、わけがない。

連携ってのは崩せば楽なもんだ。


「前方のやつ邪魔」

「チッ」


風を纏ってスピードと鋭さが上げてこちらに迫ってくる前衛に、影を鋭く低空に伸ばして攻撃した。

前方のやつらは左右に避けるが、影をそのまま直進させ、すぐにくるとは思ってなかったのか目を見開きつつ対応しようとしていた隊長?の両手両足にさらにスピードを上げた影が抉りながら貫通させる。

動脈を避けつつ神経網を刺激するように上がったため、正直訓練していても耐えられないほどの痛みを与え気絶させる。


「油断大敵」

「誰がだよ」


俺はすぐ後ろにまで迫ってきていた奴に肘で突いた。

だが、流石に訓練を受けている相手だ。

組手に関しては圧倒できるとは思っていなかったがそのまま肘突きを手で弾いて接近してくると右手で目潰しをしつつ、雷を纏った左手でフックを打つように視界に入りづらい位置から攻撃してきた。

両手で攻撃するとか器用だな。

俺は冷静にそれぞれの攻撃の通過点を見極めると拳に当たらないように頭を下げつつ蹴りを腹に当てて吹き飛ばした。

溝にハマったはずだから意識が飛びかけのはずだ。

蹴りを放ったやつの影に隊長?を攻撃する時に残していたよく見ないと分かり難いほど薄くした影を当てる。

すると、すると意識を半分手放していたから体を操ることに成功した。


「!?」

「ほれ、お仲間の方に帰りなさい」


影を操作して気絶しそうなヨダレを垂らしている奴を右の敵に走らせて、俺は左の敵に対処するために走り出した。


「くそっ、なんだよあれ!」

「ぼうっとするな!こっちにも来てるぞ!」

「悪いが沈め」


やられた仲間が気絶しながら仲間だったやつらに攻撃している事が信じられないのか、動揺して喚いていた前衛が居た。

そんな奴を叱っていた奴がいたが、注意が散漫になっていたから隊長?を襲撃した影を回り込ませて背後からそいつを強襲した。


「なに!?」

「前方ご注意ー」


そして、背後からの攻撃に驚いて背後を向いていた前衛の首を締める。

暴れていたがしばらくすると気絶したのか大人しくなった。


「これで4人、と」


全員気絶していることを確認し、操った奴をしむけたほうを見てみると、少し押されていた。


「へぇ、仲間でも平気で殺りに行くんだ。あいつは手加減せずに全力で行かせたけど、全く怯んでないし、相当な訓練を受けてることが分かるな。まぁ、さっさと終わらせたいし援護するか」


俺は1度影を俺のところに戻らせて最低限まで薄くした影を苦戦している敵の方は高速移動させる。

いくら本気で殺せる覚悟があったからと言って、そこまで実力差がある訳もなく、目の前の仲間だった敵に集中していた。

だから背中を見せて、爺ちゃんでも絶対避けきれないタイミングで影を針状に変化させて攻撃させる。

そして、それぞれの針を隊長と同じく両手両足を神経網を抉るように貫通させて気絶させた。


「ふぅ、しばらく運動したくないなぁ」


ポツリと愚痴を呟いた瞬間、上の方から何階も貫いて何かが落ちてくる音が聴こえてきた。

そして4階分ぐらい落ちた音がすると、ユウトたちが逃げた方向からアスファルトの匂いと共に少し熱い風圧がやってきた。


「この階で止まるとか、もう嫌な予感をするとか関係なく確定的過ぎて苦笑するしかないな。よし、決めた。今日を厄日と命名しよう」

「それはこちらのセリフだ」


引き攣った苦笑をしながら変な命名をすると、アスファルトの匂いがする方の奥から落ち着いているが冷たく聞こえる声が響いた


「ああ、あんただったのか。うちの親友をボコボコにしてくれたあの」

「…なに?」


おう、驚いてるな。

そりゃそうだ。

俺も同じ立場なら……驚く以前に面倒そうだから全力で逃げたな。


「もう築く以前に怪しんでいると思うが、俺の異能でやった事だな」

「敵に異能の能力を教えてどうする気だ?」

「特にないが?だってこれ、俺の能力じゃ無いし、教えても対策をとられる様なチャチな能力でも無いからな」

「自分の能力じゃない…?まさかっ」


すげぇ、自己完結で気付きやがったよ。

嫌だなぁ。

絶対異能解放使えるじゃん。

なんで今日はこんな殺伐とした奴ばっかとやらないといけないんだよ!

拗ねるぞ!


「貴様の異能名を言うつもりは?」

「流石にないわ!アホか?!そこまで言ったら殆ど能力を言ったようなもんだろうが!!まあ、特別大サービスで教えてやるよ。来い、“ゼベル”」

『はーい』


特別な名前をよぶと、頭に直接聞こえる声が返事する

その返事と同時に俺の影に突如目が現れて、蛇が頭をもたげるようにに影が上がった。


『こんにちは、僕ゼベルって言います』


子供のような丁寧かつ拙く感じる喋り方だが、あの男は相当な圧力が来ている筈だ。

その証拠に先程の落ち着き払っていた余裕が無くなり、顔が強張っている。


「チッ、化身かっ」

「流石に分かったか」


あの大災害が起きた原因の巨大隕石には元々物語に出てくるような、規格外な奴らの魂が寄生虫の卵のように多勢取り付いていた。

そして地球に落ちて隕石が破損した瞬間全ての卵が割れ、世界中に飛び散った。

その飛び散った魂は自身が気に入った様々な生物に取り憑いたが、当然生きている奴らにも魂がある。

だから魂たちはその肉体の持ち主の魂と混ざり、その副作用で俺たちに異能をもたらした。

そこで先ほどの化身の話に戻るが、異能は様々な能力があるが、大まかな種類で分けられている。

例えば【〜の獣】とかという異能だったら神獣、【〜の男】や【〜の女】とかだと神、それ以外を化身と表されている。

因みに母さんも化身だな。


「化身は神獣や神と比べても汎用性が高い上に能力を捉えることが難しいからな。本当、厄日とはこの事だな」

「え、じゃあ逃げてくれるの!?(人のこと言えんのかよ)」

「逃げるわけないだろう。こちらにもそれなりの理由という物があるのだ」

「えーーー、別にいいじゃん」

「では、様子見だな」

「勝手に始めんな!?」


男の体から光の粒子が溢れ、瞬きをする間も無く男の隣に集まり、人型になった。

その姿は幾多もの着物を着飾り、高貴さを感じさせる飾り物などを身に付けていた。

本来はあのように多くの飾り物を着けるとゴテゴテしたように感じ、飾り物としての役割を果たせなくてもおかしくはない。

だがその女性は全く品位を全く落とさず、全てを自身の魅力として取り入れ昇華させていた。

何着も着物を着ているため、本来は体型はわからないがそれでも有り余るほどの魅力を周囲に感じさせ、それが当たり前のように思ってしまうほどの自身カリスマと言うべきものがあった。


「よう、小僧」

「アマテラス、仕事だ。手を貸せ」

「任された」

「チッ、面倒な奴を」


数々の神話で主神的な立場にある太陽神。

その太陽神の中であの女は日本神話において数々の神を従え、そのカリスマによって様々な日本の神々から畏れられた神だ。

チッ、太陽の主神かッ!

クソ面倒な奴が来やがった。

俺のゼベルとは最悪なほどに相性が悪い。

こっちが冷や汗ものだ。

だが、


「関係無いけどな。行け、ゼベル」

『あいあいさー』


ゼベルは自身の本体とも言える影をさらに大きく広げ、竜の形を模した姿になった。


「アマテラス」

「分かっておるわ、小僧」


アマテラスは手のひらに小太陽を作り出すとレーザーのようにゼベルに向かって放った。

それはまさに光の速度と言えるような速度であり、常人ではその攻撃動作すら見えないほどの速さでザベルの顔面に直撃した。


『眩し〜』

「何!?」


だが、煙が晴れるとそこには無傷ザベルがいたのだった。

本来ならば影であるザベルは光に弱く、太陽の化身とまで言われるアマテラスの一撃は様子見程度の一撃とは言え、大打撃を与えてもおかしくは無い。

だが、かすり傷どころか無傷とは予想外どころか常識の埒外のため、男は動揺を示した。


「ゼベル、疲れたから早く終わらせてくれ」

『分かったー』


主人共々のんびりした会話をしており、既に終わった雰囲気を醸し出していた。

ゼベルは尻尾を振り払うように圧倒的な速度で持って男たちを攻撃した。


「アマテラス!!」

天岩戸あまのいわと!」


チッ、天岩戸か。

確か伝承ではアマテラスが隠れたとあったが、神々にとって主神とは大切な存在だ。

だからそこからだそうと力技をしていてもおかしくは無い。

だが伝承ではそれなりのの年月が経ってから自分で出てきたとあった。

つまりかなり強い神でも壊す事が不可能な程の強度があったからこそ隠れたアマテラスを引っ張り出せなかった可能性が高い。

そんなの面倒くせーっ。

結局はめちゃくちゃ硬い岩って事だろうが!

あれ、絶対防御とかA◯フィールドとかそんな感じ名前にするべきだろ!

そっちの方が色々考えなくて済むから分かりやすいぞ!?

そんな硬い奴を壊せるかボケっ!

そんな風に愚痴っていると、光線が煙を貫きながらハルトに迫った。

その攻撃速度に僅かに反応が遅れ、ザベルが手をかざして防御したが少し逸れ晴人の肩を深めに削った。


「っ!やられたな」

「逆にあの不意打ちに反応されたこっちプライドが傷ついたぞ」


攻撃された傷から声の方に目を向けると、先程の一撃で煙が吹き飛んだのか周囲に岩が落ちていらこと以外変わっていない男とアマテラスの姿があった。


「いや、プライドってかそんなの見えないし。俺の方がダメージ受けてるだろ」

「だがそちらも行動に差し支えはないだろう?」

「まぁ戦うのには全く支障はないが、気を付けろよ?」

「?何を言っている」

「お前、耳が遠いのか?」


ハルトは男との会話を辞め、意地の悪い笑みを浮かべつつ耳を指す動作をした。

その動作の後に自身の後ろを指した瞬間、壁が粉々に粉砕された。


「俺の援軍が来たんだよ」

「っ!?いつのーーー」

『兄ちゃん、大丈夫!?』


男の驚愕した声は弟たちによって遮られ、その言葉を続ける事が叶わなかった。


「おう、大丈夫だぞー」

「良かったーっ」

「全く、ヒジリは焦りすぎなんだよ。兄ちゃんは滅茶苦茶強いんだからさ」

「カイトこそ焦ってたのにっ。ねぇ聞いてよ兄ちゃん。カイトってばさ、兄ちゃんがテロリストに襲われてるって聞いたら急いで走っていたんだよ?なのに私の方が焦ってるって言うんだから酷いよねっ」

「ちょっとヒジリっ!それは言うなよ!ていうか僕よりヒジリの方が焦ってたぞ!」

「はいはい、どっちも心配ありがとう。でも、敵も居るんだから騒ぐのは後にしような」


俺は心配してくれた少しだけ自分より背が低い愛しの兄妹たちの頭を撫でた。

すると、喧嘩をしていたのが嘘のように2人は嬉しそうにはにかんだ笑顔を見せた。


「当然っ」

「当たり前だよねっ。…あれ?」


するとヒジリがカイトを撫でている腕の肩にある傷に気づいた。


「兄ちゃん、怪我してるよ?」

「あ、本当だ」


おそらく俺は今、顔が強張って誰が見てもヤバイと思っていると分かるような表情をしているだろう。


「多分アイツだろ」

「アイツしかいないね」

『許さないっ』


この2人は身内が怪我をすると、それをした奴を絶対許せないと周囲が引くほど怒るのだ。

少しアニメ調に言うと、『仲間に手を出しただと?カッチーンっ!許さん!戦争だ!!』って言う感じになる。

ていうか現在進行系でなっている。


「爺ちゃん母さん助けて!」

「諦めい。儂も孫に手を出されて怒らんほど寛容ではない」

「私も家族に手を出した事を少し反省してもらう必要があるという意見なので諦めください」


NOーーッ!?

爺ちゃんと母さんまでもそっちサイドか!?

うちの家族って身内にそんなに優しかったっけ?!

ふざけて言っているんじゃないのか?!

俺爺ちゃんと母さんに怒られてばっかだった気がするぞ!

てかヤバイ!

俺が生け捕りにしようとしたのにアイツ死ぬんじゃね?!


「ちょ、ちょっと待って!アイツは多分貴重な情報を持ってるはずだから生け捕りにしたいんだけど!?」

「生け捕りにしてどうするつもりじゃ?」

「情報を絞って国にふっかけて売る」

「流石兄ちゃんクオリティー!」

「タダでは働かないよね」

「じゃあ、生け捕りって言うことで」

『ゴー!!』

「戦略的撤退っ」


男と久遠家による壮絶な鬼ごっこが始まった。

結果発表


謎の男の勝利


「くそっ、俺の情報が!」

「次見かけたら殺す」

「絶対許さないんだから!」

「ふむ、あやつの顔は覚えたぞ」

「次こそは細胞の一片まで凍らせてみせます」


まさにカオス。

これこそ久遠家クオリティー。これこそハルトがいつも自由奔放である秘訣なのかもしれない。

そんなカオス一家を空気と一体化した人質たちがジト目で見ているのだった。

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