第5話 入学編
「まずは、空島の異能についてあんた自身がよく理解をしなくちゃな」
「理解、ですか?それなら炎を操る能力じゃダメなんですか?」
浅っ!?
それじゃあ、あんぱんはパンであるって言う説明と同じだろうが!もっと表現するものがあるだろう!?“餡子がしっとりしているが下に絡まるようなことなく、下にとろけるような上品な甘さ。その甘さを引き立てるようにパン生地もしっとりしているが柔らかいだけじゃなくしっかりとした重さもある。”みたいなこともいえねぇのか?!
「それじゃあ、浅すぎる。例えるなら空島はどのようにして生きている?という質問に呼吸していますって言うのと同じ感じだな」
「私も生きるためにもっとたくさんしてますよ!」
「そうだな、沢山あるだろう。だがそれを表現出来ていない。それは異能においても同じ事が言える。この異能は何々が得意で何々が苦手、何々が出来るけど、何々がしたいとか、色々あるんだ」
「そうなんですか!知りませんでした!でも、まるで生き物みたいですね」
「その答えは空島 白自身が答えを出す必要があるな」
そこに気がついて、初めて自身の足でスタート地点に立てる。今のままだとラジコンの説明書を読みながら機体を操作していたのと同じ状態だ。
そこまで思考すると、自身の体に異変を感じた。
この感じはーーー。
「疲れた。だからじゃあなー」
「え?!何がだからなんですか?!」
「だから、俺疲れたの。精魂も尽きたの。だから休む。おーけー?」
「ノットオーケーです!もうちょっと教えて下さいよー!」
「えーーーー、俺善意でやっただけだしー」
「何が善意ですか!興味があるからやるだけだって言ってたじゃないですか!」
チッ、好奇心は猫をも殺すとはよく言ったものだ。まさに今、俺の学校生活のやる気を殺しに来ている。
「そもそも、俺には空島に教える義務はないはずだ」
「じゃあ、興味本位で私に近づいて来たんですから最後まで責任を持って教えて下さい!」
「くっ、ここで責任の話をするか……」
俺を言い負かすとは……、親友であるユウトですらなかなか出来ないのに……っ。こいつ、出来る!
「はぁ、分かった。けどな、異能の事について、自分でもっと考えて答えを見つけないと結局この続きは出来ないんだよ。それにちょうど時間も来そうだし」
「そうなんですか!だったらそう言って下さいよ!」
本当だけど、あのまま休みたかった方が大きかったんだがな。訂正するのもめんどくさいし、このままでいいや。
「あ、そうだ!なるべく自分で考えるつもりなんですけど、相談に乗ってもらいたい事があるかもしれないので連絡先を交換しましょうよ!」
「そうだなー」
手首に巻いていた俺の持っている携帯の腕輪型遠隔操作機を操作してお互い腕を突き合わせる。
早く終わらして休みたいなー。てか寝たい。
「はい、ありがとうございました!」
挨拶するとすぐに走って行った。なんか、元気なやつだったなぁ。
背が小さいんだからあんなに元気が有り余ってます!って感じだと中学生と間違われてもおかしくないとおもうんだが。まぁ、確かにこの前まで中学生だったけど。
ま、いっか。もう関わることもないだろう。電話番号もフェイクの方を渡したし。
更衣室に入ると既に着替え終えたのか制服姿のユウトがいた。
「ふぁ〜、帰ったら寝よ」
別にあったからって一々挨拶をしなくても良いだろうと思い適当に手を挙げてお互いを労いつつ、俺は自分の荷物を持つとカーテンだけの簡素な個室に入った。
「おう、ハルトどうしたんだ、ってまた眠たいだけか。お前いつもダラダラしてるくせに眠たいとか吸血鬼かよ」
吸血鬼は日光に当たって眠くなるんじゃなくて灰になるんだけどな。昼間に眠くなるだけの吸血鬼とか弱点がほとんど無いようなもんだろ。無敵じゃねえか。
「仕方がないだろ、疲れるんだから」
「この虚弱体質め。あ、そうだ。お前、デカイの倒した後暫くしたら俺のクラスの奴と一緒にいただろ。あれ、どうしたんだ?」
「あの娘、異能が不安定だったから不思議に思ってな。だから教えてた」
「ほう!お前が興味を持つなんてな!あの娘、何か特別な娘なのか?」
なんだよユウトの奴。声を聞くだけで機嫌が良くなっているのが分かるほど、嬉しそうにしやがって。俺はゲイとかレズとかは気にしないが何故かこの嬉しそうな声を聞いたらあまりの気持ち悪さに殴りかかりそうになる腕を抑えるのに苦労した。
「いや、ただあの娘の中にいる奴をゼベルが知ってたみたいだったからな。まあ、挨拶みたいなもんだ」
「ふーん、お前の中のがねぇ。ま、あんま会話した事がないから特に感想もねぇや。で?どうだったんだよ、その娘」
興味津々過ぎだろ。まぁ、俺が何かをやらかすんじゃなくて何かをしに行くのは珍しいからな。
「あれは異能を全く理解してないな。今まで何で異能があんなに強く発現出来ていたのかが不思議なくらい異能のことを何にも知らない。多分、あの娘は普通よりも相性が良かったから能力を使えてたんだろうけどな。ただの才能の暴力だ」
「ふーん、まだ振り回してるだけか。俄然面白くなってくるじゃねぇかっ。振り回すだけでこの学園に受かったって事だろっ。しかもお前が教えるって事はかなり期待が出来そうだなっ」
「お前って、戦闘狂だったっけ?」
「勝負事が好きなだけだよっ」
こいつ、戦闘狂の素質を十分にもっていやがるっ!なんてこった!親友がこんな奴だったなんて……。いつか俺にも申し込んでくるかもしれねぇじゃねえか!!クッソめんどくせぇ!!
「言っとくがお前とは絶対にやらんからな。絶対に勝てない勝負は勝負じゃなぇから」
「俺たちやっぱり親友だな!」
俺は信じてたぜ、お前が良い奴だってな!よしっ、着替え終わったし早く帰ろ。
「もう帰るのか?」
「ああ、早く帰ってダラダラしたいからな」
「うーん、悪いがちょっと付き合ってくれね?」
「何にだよ」
「買い物」
「はあぁぁぁぁぁ!!!お前まじで言ってんのか!なんでそんな面倒な事に付き合わなきゃいけねぇんだよっ」
ふざけんなよっ!なんでそんな事しなきゃなんねぇんだ!!俺はお前の彼女じゃねぇんだぞ!
「今までどんだけ助けてやったと思ったんだ!偶には付き合ってくれよ」
「チッ、貸しを作り過ぎたか」
仕方がない、これも過去の俺からの挑戦状だと思って……、無性に破りたくなるな。まぁ
、迷惑をかけることもあるし偶には付き合ってやるか。
「分かったよ、付き合ってやるよ!」
「サンキュー!じゃあ、俺日直だから先生のところに行ってくる。少し遅くなるかも知れんがなるべく早く行くようにするからハルトは校門前で待っててくれ」
「オーケー」
はぁ、めんどくさいけど貸しを返すと思ったら少しは幾分かマシに、ならんな。尚更気分が滅入る。本当、最近良い事が無いなぁ。日頃の行いは、悪かったわ。じゃあ仕方がないな、仕方がないったら無いんだ。これ以上考えるのがめんどいからとかそんなんじゃ結してない。
お、校門に着いた。意外に近いんだな。それにしても、改めて校舎を見るととんでもなくでかいな。流石国営。
ん?なんか空島が走ってきた。
「久遠さーん!」
「はい、ストップ。そんな猛スピードで走らなくても良いだろう」
「なんかやった方が可愛いと思って」
「君、ちゃっかりしてるね。まぁ、全く感動とかしなかったけど」
「むー、意識されてないみたいでちょっとショックです」
「いや、スカートがめくれて後ろの奴とかは意識しまくりだが」
「キャーーーーーーーーーー!!!!」
この娘は馬鹿なんだろうか。可愛くしたいって気持ちは知識としては理解できるが、スカート履いてるんだからあんな爆走なんてしたら軽く捲れる事ぐらい分かるだろうに。
「で、何か用?」
「女の子のパンツを見たのに軽くスルーされた……。結構傷つきますね……。久遠さんがこんな目立つところで誰かを待ってるみたいだったのが以外だったので。誰か待ってるんですか?もしかして彼女ですか?」
「いや、ちょっと親友の付き合いで買い物に行くんだよ。ついでだし、一緒に行くか?」
「良いですけど、誰と待ち合わせなんですか?」
「君と同じクラスの結衣崎 悠人だよ」
「え!?あのイケメンの!?」
「そうそう、あのイケメン」
「すごいです!2大2トップが親友関係だったなんて!」
「2大2トップ?」
「本人なのに知らないんですか!?今、この学園で最も女性に人気がある人間が、貴方達2人なんですよ!!」
「俺、凄い人気だったんだな。どうでも良いけど」
「入学式の演説の時と、今のだらけきったキャップが萌える人が多いんですよ!因みに結衣崎さんの場合は、爽やかな容姿なのに情に熱いところが良いって人が多いんです!」
なんか有名になってたな。この前入学したばかりなのに。俺は挨拶したから分からなくもないが、あいつが有名なのは何かしたからか?入学早々目立つとかラノベでもそこまで早くはないぞ。
それよりーーー
「俺の容姿なんかそこら辺で見る平凡ななやつと同じだろ」
「そんなわけないじゃないですか!怠そうに見えるそのタレ目がフィットしている整った顔に、肩まで伸ばした漆黒と見間違う様な色の艶やかな髪。しかも、相手に不快感を与えないくらいの丁度いい身長!十分過ぎるくらいイケメンですよ!!」
そこで、今来たユウトが会話に参加してきた。
「おうっ、確かにイケメンだな。普段の行動がなきゃさらに良いのに」
「ユウト……、知ってたなら先に言え!」
くそがああああッ!こんな事なら卒業式後に整形に行っとけば良かった!今更整形しても違和感しかないし、何より母さんが怒るじゃねぇか!
「お前鏡見た事が無いのか!?」
「毎日風呂とか洗面所の前で見てるに決まってるだろ!」
「だったらなんで気付かねぇんだよ!お前の目は腐ってんのか!?」
「自分の顔なんかどうでも良いから殆ど注意して見てねぇよ!」
「注意して見なくても分かるだろうがぁぁぁぁぁぁ!!!」
と、2人が怒鳴りあうのを空島は意外そうに目を大きくして見ているのだった。
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