第4話 入学編

学園の地下にある訓練室

この学園の土地はは横500メートル、縦1500メートルある程の超巨大化学園だが、殆どを森や憩いの場、そして図書館が占めている。

では、どこで運動をするのか?と言われれば、勿論森でもできるがそれ以上にここ、地下空間を大改造して作った訓練施設で行われる。

理由は簡単。

ここは水中や砂漠、溶岩なんてものがあるほど、様々な環境を用意していろんな訓練が出来るからだ。(本物に近づけているがそっくりなだけであり本物と同じでは無い。ただ、触った感触は同じだ。そして、溶岩など危険な環境は3人の教員の許可と学園長の許可が必要である。さらに、近くにもしもの為のスタッフがいるため、怪我や迷子などを気にせず訓練が出来るようになっている)

そんな訓練施設内の運動場のようなエリアである鍛錬エリアと呼ばれている場所に、上下動きやすい紺色のジャージを着た(学園指定であるジャージ。このジャージは勿論伸縮性は抜群のうえ、ある程度の耐熱性も持っている。それにそこらの服が目じゃ無いくらいの防御性能を持っている。ただ、いくら凄い服と言っても所詮ジャージだ。刃物なんかできられたら普通に破れるから実戦にはあまり使えない)俺たち生徒が集まっていた。今日は全5クラスのうちの我ら4組と5組の2クラスでの合同訓練をするらしい。というかこれからずっとこの同じ2クラスでするらしい。

補足すると、この学園では体育という運動する事しか頭にない科目は存在しない。

あるのは理由は理解できるが絶対したくない訓練という科目だ。

そのため、着ているのは昭和時代のブルマやましてや水着でもない。

近代の殆どの服装に使われている化学繊維で作られた服で、上下ピッチピチだ。

まあ、そこは訓練を想定して作られたものだから、動くのに支障はないし、異能でもそう易々と破くことは出来そうにないほど丈夫な作りになっている。その上から見た目のためにジャージを着る。正直熱いので脱ぎたい。

因みにこの繊維、軍関係にも採用されているほど金がかかっている。売ったらダメですか?


「皆さん、全員いますか〜?いたら教えて下さいねーー!突撃テレビのようにその人の場所を見つけて脅してでも連れてくるのでーー!」


サボらなくて良かったーー!

サボったらあの先生が何をするのか分かったもんじゃないと思ってきて見たら見事に当たったよ!ナイス俺の感!


「はい、全員揃ったみたいで良かったです。では今日は訓練をします、と言いたいのですが皆さんこの演習を楽しみにしていたみたいなので、親睦を深める意味も込めて今日は適当に組んで模擬戦をするのもよし、訓練をするのも良し、という感じで自由にしてくれて良いですよ。ただし、この時間は2時間あって全部自由で良いのですが時間は守りましょう、以上です。演習開始!」


さあて、どうやって保健室に行こうかなぁ。

あ、そうだ腹痛って言えばーーー。


「おい、お前」


うーん、親にチクられそうだから没だな。

じゃあ、どうしよーーー


「おい、お前だよ!」


どういう手で休むかを考えていたら、肩を掴んで強引に後ろを向かされた。掴まれた瞬間、意外とかなりの力で掴まれてるかんじがしたから下手に抵抗すると肩を痛めそうなので抵抗しないで振り向くと、そこには昨日の大男がいた。


「どうも、大男君。俺に何か用事でもある?」

「用事があるかだぁ?あるに決まってんだろ!昨日、よくも俺の肋骨を折りやがったな!保健室に行かなきゃ入院する所だっただろうが!」


え、保健室に行ったら骨折でも治るのか…。くそっ、腹痛で休んでも2、3分で戻ってこなくちゃいけねぇじゃねぇか!ここの医師、腕が良すぎなんだよ!もう少し手を抜いてもバチは当たらないだろうに…。

しっかし、よく叫ぶなぁ。おかげで耳がキンキンするじゃねぇか。


「今日は昨日の借りを返してやるから、ちょっとツラかせや!」

「いやいや、そんなの返さなくて良いから、気持ちだけで良いから。どうしても返したいならそこにいるユウトに返してくれればいいから」

「おい!俺を生贄にしーーー」

「うるせぇ!さっさと来れば良いんだよ!それにあいつには後で返す!」

「結局こっちにも来るのかよ!チクショウめ!」


はぁ、昨日のツケが今日に来たのか。面倒な……。

そうして、俺は大男の後ろについて行くとここの訓練エリアの丁度真ん中ぐらいに来て、お互い3メートルぐらい開けた。おお、見物人がたくさんいるなー。


「俺の名は倉田 剛(クラタ タケシ)だ。テメェの名は?」

「久遠 晴人だ」

「久遠 晴人か、それがテメェの最後の言葉だ!」

「悪役のセリフトップ10に入りそうな程の使われっぷりの言葉を言ったにしては最後の言葉が自己紹介とかダサすぎだろ。それだけは嫌だ。てか使い所を弁えろよ。恥ずかしいぞ」

「うるせぇよ!模擬戦開始だ!【天に吠える炎獣】!」


大男が異能名を唱えると男の体から豪炎のようなオーラが出た。

へぇ、これが大男の異能か。能力は分からないが案外出来そうだな。

それと、別に名前を呼ばなくても異能は使える。だが異能名を唱えないと100%の力は鍛冶場の馬鹿力でも絶対に引き出せない。その代わり、相手に気取られる確率が下がるし、消費する力も減る、と良い事ずくめだ。

ちなみに、能力名を唱えずに使える力は人によるが大体30%だ。

めんどくさいけど、やらなきゃやらなきゃで後でめんどくさそうだから俺もやるか。


「【暗闇に住む怪物】」

「くっ、何だよ。異能を発動しただけでこの圧力は」

「能力の説明をすると、俺の能力は影を半物質化して操る事が出来る。これは舐めてるとかじゃなくて能力を教えても塞がらない程の力の差があると理解してくれたら助かる」

「ふざけやがって、後悔させてやる!ウォラァ!」


大男は腕から放出した炎を掌に集めて投げてきた。が、その程度カスみたいなもんだな。

俺は自分の影を伸ばして盾のように展開した。


「ちっ!これならどうだ!」


男の掛け声と共にアッパーのように手を振り上げると俺の足元が赤熱化した。

この程度、見てからでも反応できる。

俺は影を全身を包むように展開し、下から火山のように吹いてきた炎から身を守った。


「はっ、炎を影で覆ったとしても中は蒸し焼けだぜ!お友達をやった後はテメェだ、結衣崎!」

「いや、あいつがこの程度でやられるわけないだろ。あの中をよく見ろよ」

「何を言ってーーー」


ユウトめ!せっかく逃げれると思ったのに!

まぁ、実際ノーダメージ出しな。影は金属じゃないんだから、中が蒸し焼きになるどころか熱さえ遠らねぇよ。

俺の【暗闇に住む怪物】は俺の影を操る能力だと言ったが、影だから当然光などには弱い。それが唯一の致命的な弱点だ。

だが、その代わりと言ってはなんだが弱点以外の方法では反物質化した物は物理的には絶対に壊せない。

今回の場合、炎が光っているから弱点に入る訳だな。だけど光に濃淡があるように影にも濃淡ってのはある。俺は影を重ねて濃くする事で光に対する抵抗力を上げている。

今回は炎が迫って来たから通常より濃くなった影をそのまま使用したが余裕で耐えられたようだ。まぁ、通常のままでもかなり強い懐中電灯ぐらいなら余裕で耐えれるがな。

それでも問題がないわけじゃないんだよな。

なんで俺こんなことをしてんだ?

はぁ、なんか怠くなったしもうさっさと終わらそ。


「俺はピンピンしてるぞー。もう満足しただろ。じゃあ、さっさと終わらせるか」


俺は普通じゃ反応出来ない速度で影を男の方へ伸ばす。影は大男の足下まで迫るとその勢いを殺さないように影を先を潰した槍のような形状で反物質化し、影の槍をアッパーカットの要領で顎をかすめる様に殴りつけた。

が、思ったより反射神経が良いらしくギリギリ顔を横に倒して避けた。


「速ぇっ」


ギリギリ当たらなかったから安堵したのか驚いた声を上げているが、その程度の避け方じゃ甘いぞ。

アッパー状に伸ばした槍の側面から槍と同じくらいの太さの影を伸ばして顔面をスイングすると大男を思いっきり吹っ飛ばした。


『オォォーーーーーー!!!!!』

「よく飛んだなぁ」


野次馬どもうるせぇな。

大音声の歓声に辟易しながら円から抜け出すように歩くとユウトが近づいて来た。


「ハルト!もっと手加減しろよ!」

「してたぞ。だから影をわざわざ伸ばしたりしたんだ。本気ならもっと影を速くしてるぞ。こんな風にな」


俺は掌を上に向けると袖から出てきた影を掌に集めて小さい槍を何本か造り、空中に垂直に向けて連続で突いた。

その速度は常人の肉眼では観察出来無いほどに速く、そのあまりに速すぎる速度によって残像が作られていた。


「な?手加減してるだろ?」

「……ああ、これを見た後だとあれはしてたと思うわ」

「誤解が解けて良かった良かった」


俺はユウトの説得に満足すると周囲にバレないようにさり気なく壁際によって見学を始めた。

大男の方を見ると救急班が来て担架に乗せて行った。仕事熱心だねぇ。

訓練なんかするつもりがないから、暇つぶしに壁に寄りかかりながら同級生たちの異能の練度を観ていると1人気になる娘を見つけた。

背が小さくて可愛らしい見た目の割に炎の異能を使うらしいが、どう見ても能力的に強力な技が使えてもおかしくないのに異能のコントロールが甘いせいか強弱が変な割合になっていて使いこなせていない。炎の威力が。安定してないから無駄に出力だけ使ってロクな威力も出ずに疲れるだけの結果になってしまっている。

あまりに無駄過ぎて少し笑ってしまったが俺の影が波立っている様子を見て考えを変えた。

俺は立ち上がってその娘の所に行くと話しかけた。


「なぁ、あんた」

「え?」


まぁ、いきなり話しかけたらえっ、てなるよな。俺は嫌な顔をするが。


「俺は久遠 晴人、さっきそこで暴れる暴漢から自分の身を守ってた奴だ」

「あ、はい知ってます。私は、空島 白(ソラジマ シロ)って言います。で、何か用ですか?それとも私何か失礼な事をしました?」

「いやいや、失礼な事をしたならもっと厳しく言ってる。ただ君の異能、もっと威力が上がってもいい筈なのに上げられなさそうだったから気になって。異能って発現したら使い方は無意識に分かる筈だからな」

「気にしてくれて、ありがとうございます。その前に良いですか?」

「何?」

「入学式の時と覇気って言うか喋り方と言うかそんな感じのが違い過ぎませんか?」

「あんなの猫被ってたに決まってんじゃん。何?地であんなこと言ってたと思ってたの?そんなのどこの英雄だよ。あんなのめんどくさくて地でできる奴の気が知れない。と言うか近付きたくない。本来の俺は面倒なことはしなくて楽に生を貪りたいだけな奴」


ほんと、親が、と言うか母さんが恐くなかったらサボってた所だよ。しかもユウトまであっちサイドだし。世の中不公平だ!!


「でも、私に教えてくれようとしてますよね」

「ただ単に気が向いただけだ。教えなくて良いなら辞めるけど」

「教えて下さい!私どうしてもこの異能を使いこなしてエデンに入りたいんです!」


何か事情がありそうだな。めんどくさそうだから絶対その話題に触れないようにしよう!!心のメモ帳のトップページにメモメモ、と。


「じゃあ、教える前に異能を名前を声に出して発現してみて」

「はい、【夢に燃える少女】」


異能名は適当に付けているわけではなく、その異能を発現したと同時に頭に入ってくるものだ。さっき名前を声に出さなくても良いと言ったが、その名前自身にもきちんとした意味がある。異能の名前を宣言してから戦うというのは昔にーーー昔と言っても異能が発言されてから200年くらいしか経ってないがーーー一対一の勝負をするときに正々堂々した勝負をしようと言うことで名乗りのような感じでされていたものだ。異能の意味はまた今度という事で。


「ふーん、やっぱり炎が出てるな。これ、どうやって炎を出したんだ?」


異能を使うにはその異能にあった事象を想像する必要がある。そこから様々な使い方をイメージして技に繋げるわけだ。

因みに、俺の【暗闇に住む怪物】は影を支配するイメージで操っている。


「えーと、漠然と炎を出すとしか…、すいません」

「別にこの年頃なら普通だろ。だがエデンは異能力者協会を名乗っているほどだからそれ相応の能力が無ければ仕事を貰えない。空島の能力はその基準と比べると全然届いてないんだけどな」


回りくどく言うのはめんどくさいし、本人の為にはっきりと言ったが、思ったより心を抉っていたのか項垂れてしまった。


「うぐっ、やっぱりそうですか……。私、異能力を使うの向いてないのかなー……」

「それはありえない。戦う事に向き不向きはあるが、異能が発現したと言うことは空島にはその異能の素質が絶対にある。だから異能を使うにあたって天才的に上手いやつはいても非才と言う概念は決して無い」


そう、異能とは決してガチャガチャのように偶然手に入るものではない。その異能が発現するにはその異能と発言者は相性が良いという証でもある。まぁ、その異能が強いか弱いかは別れるがな。

幸い、この学園に入学したのだから空島の異能は強い部類なのだろう。

もっとも、強くなかったら俺の中のあいつが興味なんて持たなかっただろうから俺も近づかなかったと思うけど。



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