第3話 入学編

屋上に吹く爽やかな春風に煽られながら、美しく夕焼けに染まる都会の街を見下ろす。

この美しくも切ない、愛すべき風景をじっと見つめているが何も変化など起きず、世界中が静寂に包まれているのではないかと勘違いしまうほど静かな空気に包まれていた。

上から見下ろす下校中の生徒たちは和気藹々と楽しそうにお喋りに興じており、その姿は今生きている事を全力で楽しんでいると伝わってくるが、真逆に俺は誰とも語らわずにポツンと1人でいるため、とてつもない分厚い壁で彼らと分かたれているような気もしてくるが彼らのことを羨ましいとは思わなかった。

上を見ると茜色に染まる大空はいつもと変わらず今日の空を照らす仕事を終えようとしていた。

そんな世界を見ているからか、俺は別の世界に旅立ってしまったのかと錯覚しそうになる。何故かその感覚を、俺は嫌いには慣れないらしい。

だが、世界は俺を孤独にしようとは思っていなかったらしい。

屋上にある唯一の扉が重い音を鳴らしながら開いた。


「一人でそんな気持ち悪いことしてるなよ。吐いちまうだろうが」

「ん?ユウトか。いや、俺は今この気持ちいい風を感じていただけさ」

「それが気持ち悪いってんだよ。なんだよ世界に一人きりって。寒すぎて鳥肌立ったじゃねぇか」

「ん〜、やっぱ向いてないな。俺も言いながら何百回も吐きそうになったし」


いや〜、なんかやってみようかなって思ってやってみたら俺も気持ち悪すぎてもう少しで屋上からリバースするところだった。

ユウトが来てくれなかったら終わり時を見失ってマジで汚い雨を降らすところだったな。


「で、なんでこんなところに呼び出したんだ?」

「聞いてくれよ、ユウト!うちの担任何かと俺を目立たせようとしてくるんだ!」

「そりゃあ、いつもの事だな」

「いつものことだから困ってるんだよ!俺はめんどくさいのは嫌なの!」

「んー、じゃあ一層の事さらに有名になってファンクラブでも作らせたら?」

「馬鹿言うんじゃねぇ!それが嫌だって言ってるんだよ!」

「まだ話は終わってねぇよ。ファンクラブが出来たらお前と接点を持ちたくなるだろう?で、ファンじゃなくてもお前と接点が欲しいって奴はいるはずだ。そういう奴には言ってやったらいいんだよ。『ファンクラブを通して話しかけろ』って」


そいつは、何様のつも………。


「はっ!」

「気づいたか。嫌な奴になったら近づいてくる奴も居なくなるんだよ。そしてファンクラブも邪険に扱う。そしたらもうお前に関わりたいと思う奴もいなくなるだろうな」

「成る程!流石ユウト!いや結衣崎様ー!」


こいつ天才か!

ファンになるかも知れない人には申し訳ないが、これも俺の楽な人生を送るため!


(こいつ学校にほとんど来なかった癖に見た目はすごく良いから、偶々ハルトを見つけた奴が何人もいたのに2度目は見つからなかったせいで幻の妖精って呼ばれてたからな。しかもこいつの知り合いってバレたせいで毎日俺の教室に詰め寄って来る奴とか居てめんどくさったし。今回は幻が取れるはずだから前みたいなことは免れそうだ。はぁ…)


「よし、なら明日から頑張るか!じゃ、また明日!」


帰ったらいろいろ頑張らなきゃな!下に降りるのも面倒だ。

このまま、ジャンプ!


「とうっ!」

「おいっ!危ないぞ!?ちゃんと階段で降りろ!」


ユウトが何か言ってるみたいだけど俺を止められるものは何もねぇ!!


「はっ!」


俺は翼を生やして空を飛べるのだ!

俺を縛る事は重力ですら出来ねぇんだよ!!


「フハハハハハハっ!!!!!!」


太陽の輝く青い空に俺の嗤い声が響いた。




20分後


「誠に申し訳ありませんでした」


今現在、俺は東京都奈々日市内にある高級マンションの屋上にて実の母に土下座をしていた。

理由は簡単だ。それはーーー


「ハルト、異能があるから空を飛ぶことは法律で禁止されてないからいいわよ。でもね、あんな高笑いしながら空を飛んでたら犯罪者と間違われて攻撃されるでしょう?」

「はい、されました」

「で、貴方はどうしたの?」

プルプルプルプルプル

「震えてないで、お母さんに教えてくれる?」ギロッ

「はっ、攻撃を完全回避した後、唾を飛ばして高笑いをしながら逃走しました!」

「それをした感想は?」

「それはもう清々しーーー」


その言葉の続きを俺は言えなかった。

何せ母さんの異能【彩る銀世界】で母さんの足元から俺の地面についている顔面の前まで凍っているからだ。

この異能は触れた任意の場所が凍るだけじゃなく、凍った場所から次々と凍る面積が広がっていく。しかもこの氷には触れた熱の通る物体は全て凍らせることが出来る性質がある。


「声が小さいからよく聞こえないわ。貴方の言葉がよく聞こえるように、大きな声でもう一回言ってくれる?」

「心から反省しております!」

「よろしい、次からはしないように」


母さん怖ぇぇぇぇぇ!!!

あの世から来た死神と思った!

いつもは温厚で笑顔を絶やさない人だけどさっきはニコッじゃなくてフッて感じ冷笑してたよ。

父さんや爺ちゃんが母さんの尻に敷かれていた理由がわかった。

まぁ、いつも俺は怒られてばかりだがな。


「ハルト?」

「はぃ!?」

「風邪引くから早く入りなさい」

「了解であります!」


あー、確かにこれは風邪引くわ。

主にさっきの氷で。

うちは、高層の高級マンションのマックス50階中45階〜50階までを全て買い取っており、49階は元々広場だったが買い取ってからはリビングとして使ってる。

だから別に近所迷惑とかを考えずにお仕置きが出来るから俺の生活はいつも結構ハードモードだ。

因みにこのマンションはエレベーター式。

つか当たり前だな

誰が50階も階段で歩いて上がるかよ。

毎日そんなことしてたら足だけ半端ないことになるぞ。


ここで、我が家の家族構成を紹介しよう。

まず大黒柱である父、久遠 宗次郎(クオン ソウジロウ)40歳。

異能力者協会、通称エデンに属する超特級レベルの異能力者だ。

分かりやすく言うとエデンに属している能力者のトップ10に入るほど実力者だ。

そんな父はなぜかハードボイルドにハマってるらしく、顎髭が似合った生かしたオジサマフェイスで所構わずマフィアのボスっぽい格好をしている。

そして、その妻の静奈(セイナ)は黒髪ロングのツリ目美人お姉さんっぽい見た目をしているが、これでも年齢はーーー

はっ!?殺気?!

これ以上言うと本当に死を覚悟しなきゃいけないから言えない。知りたかったら母さん死神に聞くんだな。

次に祖父の清九郎(セイクロウ)。

ぱっと見は規律に厳しそうな爺さん。

祖母を魔物との戦闘の時に亡くしてからは一度も結婚をせず祖母に操を立てて独身を貫いている

齢70を迎えようとしているが年齢を感じさせないくらい元気である。

何しろ勝手にマンションを改造して自室だけだが忍者屋敷みたいに罠を仕掛けて遊ぶほど元気なのだ。

だが、異能力者としての実力は父に拮抗するほどで、まだまだ現役だ、というのが口癖だ。

弟の海斗(カイト)15歳。

目つきが少し鋭くて髪もツンツンしてる。鼻筋も狼のように尖っているように見えるが、実際には見えるだけでそんな事はない。雰囲気がそうさせるんだろう。当然イケメンだ。

いつも首にヘッドホンを付けて音楽を聞いているから一見チャラい奴に見えるが、横断歩道などで足腰の弱いお年寄りの歩行の手伝いをするほど根は優しい奴である。

妹とは双子の兄貴だ。

妹の聖(ヒジリ)15歳。

元気溌剌とした口調で、髪もよく動くためか肩より少し低いくらいで切っている。当然美少女だ。

本が好きで46階を丸々書斎にするほど色んな本を集めている。

本で気になったことは調べたり実験したりするほど好奇心旺盛でカイトとは双子の妹だ。

因みにこの2人、仲は悪くないのだが俺の前では何故か時々お互いの隠し事を暴露しあい喧嘩する。

後は久遠家専属の従者とか使用人はいるけどそれはとある事情で俺は知らないから省くとこれで俺の家族は全部だな。

何?

俺の説明?

そんなめんどい事しなくてもその内分かるだろう。

まぁ、今言うとしたらめんどい事が嫌いで楽な人生ーーー出来ればニートなんかが理想だなーーーを送ることが夢、以上。


そんな説明をしながらエレベーターで1つ下の49階に降りると双子の兄弟が待っててくれていた。


「ただいま」

『兄ちゃんお帰り!』

「兄ちゃん何したんだよ」

「お母さん激おこだったねー!」

「まぁ、めちゃくちゃ嬉しい事があったから仕方がなかったんだよ」

「なになに?」

「どうしたの?」


ふっ、これを聞いたら驚くだろうな。

何せこの世で最も素晴らしい事を実現出来るんだからなっ。


「聞いて驚け!今日、親友のユウトと相談の末、やっと俺の夢の第一歩が踏み出せるための計画が出来たのだ!」

「え……、あの…?」

「兄ちゃん良かったね!」

「ああ、もしかしたらニートになるのも夢じゃないかもしれないぞ、これは!」

「ニートになるぐらいなら氷漬けにして永久保存するわよ?」

「ごめんなさい許してくださいお願いします!」


くそぉ、母さんがいるところで話すんじゃなかった!

神よ、なぜ見捨てたんだ!


「これこれ、セイナさんや。せっかく美味そうな飯ができとるのにそんな話をしとらんとさっさと座って食べんかのぉ」

「はぁ、分かりましたよ」


おお!神は存在した!


「後で話の続きをしますからね」


ちくしょうっ、騙された!!神の皮を被った悪魔だったのか!


『いただきます』


…………後で嫌な事があるとしても、今日もご飯は美味しかった。






「おはよう……」


俺は教室に入ったが、気分は優れなかった。

それは何故か?

昨日の計画が全部母さんにバレたから、もし本当に実行したら何されるか分かったもんじゃないんだ。

だからもう頓挫したも同然なのだ。

仕方がないから今日もユウトに学校まで運んでもらった。


「おはよう、久遠君」

「あ、そうだ。みんな聞いてくれー!久遠って言われるのなんか嫌だから呼ぶ時はハルトで良いからなー!じゃ、俺寝るわ」

「ええ!?いきなり何なの?」

「おお、どうした」

「なんか久遠って呼ばれるの嫌らしくてハルトって呼べって」

「まぁ、呼び方ならなんでも良いしな」

「私達女子は少し抵抗があるけど…。まぁ、本人が呼ばれたくないって言うんなら仕方ないね。みんなー、慣れるまで頑張ろう!」


なんか呼び方で盛り上がってるけど。

ま、いいか。


そして、俺は授業であろうと寝まくった

たまに起こそうとする人も居たが寝まくった。

まぁ、そうすると先生も怒るわけで授業で習っていないところを聞いてくる人がいたが10秒以内に答えて寝た。

音読させられたが暗記していたから寝ながら言った。

そして、短気な教師は問題になるかもしれないのになんか覚悟を決めて体罰で起こそうとしていたが隠しカメラをカバンから出したら大人しくなった。

そうして午前中の座学の時間は終わり昼食を食堂食ってから異能の実習の時間になった。

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