第2話 入学編

「今年も爽やかな好青年たちが我が校に入学してきて、大変嬉しく思います。

また、逆ハーレムをしそうな可憐な少女達が持つ若さ特有の初々しさがとても妬ましく殺意が湧いてきます。

この様な晴れやかな天気の日に様々な感情が入り乱れるのも一重に私達が生き物である証拠です。私達には感情というーーーー」


自分の欲望を上手く演説に組み込みやがった!

流石理事長。伊達に歳は経ってないな。


「あの理事長頭がおかしすぎるだろ。何で入学式に自分の性癖を暴露してるんだよ。

ハルトはどう思う?…ハルト?」


ユウトがこっちを向いたらしい。

だが!

俺は異能で背筋を伸ばして真面目に話を聞いているように見せかけて、半分寝ている状態!

これこそが話を聞きつつ体を休めさせるという高等テクニックだ!!


「テメェ…、また寝やがったな…!

見つかったらどうしてくれるんだよ…!一緒にいる俺も巻き込まれるだろ……っ!」


ふははははっ、この久遠 晴人に抜かりはない!

なぜ1番前ではなく2番目の真ん中より4つ隣にある微妙な席にしたと思ってる?人間の視界は全体を見ようとしたら必ず死角ができる。しかもこの暗闇で瞼を閉じているかどうかなど分かるわけがない。

よってこれでバレる事などありえない!


「このドヤ顔ウゼェ……!クソッ、なら最終奥義、お前の家族にチクるぞ…!」


このど素人が!

お前が俺の家族にチクることなど想定内だ!だがまだ甘い!この程度チクったところでよくバレなかったと褒められこそすれお咎めなどあるはずもない!

完・全・勝・利!!!!!


「動じない、だと!?なら良いや。直接先生に言えばいいし」

「すみませんでした……!許してください…!」


流石俺の親友、こんな隠し球を持っていたのか……!

くっ、認めてやる!今はお前の方が強い!しかぁし、次は負けんからな!!

完・全・敗・北!!!


「次は、新入生代表ーーー」

「お、次は俺らの代表挨拶か。そういえば誰が首席かは発表されてなかったな。俺次席だったから結構気になってるんだよ」

「久遠 晴人による挨拶です」

「お前かよ…!?」


こんなのもあるんだ。

めんどくせぇ。

流石にこれはやらなきゃ爺ちゃん達に叱られる。

あーあ、ほんとめんどくせぇ。

ユウトはそんな驚いた顔をしてどうしたんだろうか?

挨拶したいのか?


「はいっ」

「お前、勉強してないくせになんで主席になれたんだよ…!このキチガイめっ……!!」


こんなもの、めんどくさいだけで良いことなんてカケラも無いのに。本当、ユウトは変わってるよな。

そろそろ壇上に着くし意識を切り替えるか。


「晴天に見守られながら桜が美しく舞う、今日という日に入学式のこの場に立つことが出来た事に感謝します。

新しく始まる学園生活に心を奪われ、春休みという準備期間はとても長く、しかし恋をしたようにドキドキとする毎日でした。

そして今も、私と同じように新しい日常に想いを馳せている人は多いと思いますが、その時間はもう終わりました。

これからは太陽学園の生徒として様々な技能を収め、私達を教え導いてくださる最高の先生方が手本として、普通では学ぶことが出来ないような多くのことを教えてくださるでしょう。

しかし、私達はこの日本という先進国に生まれ、何10年という長い歴史を持つ太陽学園の末席に座り、これからどのような生活を送っていくのかと不安に思う方も多いのではないでしょうか。

かく言う私も、新しい生活に期待と不安を寄せる生徒の1人です。ですが私達は将来、人類を危機から守るために強くならなくてはいけません。私達にはこの学園に入れるよう、応援して下さったご両親の期待に応え、強くなる事への義務があります。

200年以上前に起きた巨大隕石の落下や異能の悪用、さらにはモンスターの出現による世界の未曾有の危機。それらは私達が知る、あの英雄たちの力により様々な事件を解決してくれました。

さらには私達のこれからのために異能力協会やこの学園の設立を貴重な報酬として提示してくださったのです。

私は学園に入学した、この瞬間から彼らの期待に応える義務があると思います!

皆さんはどうですか?

かの英雄たちが示して下さった道を、我が物顔で歩くことが正しい事だと思いますか!?

それは断じて違う!!

私たちはかの英雄達のように颯爽と世界を救うことは出来ないっ。

しかし!

少しでも多くの危機から市民の皆さんを守らなければならない!

それこそ人々に安心を与えた英雄としての力を振るい、

私達に作ってくれた未来に対する恩返しのため!

英雄たちに誇れるような人生を送るために必要な事だと思います!!

ですが私たちはまだ弱い…!このままではモンスターを倒すどころか護るべき市民すら守れない……!!

だから私達は学ぼうと思った!

私たちは強くなろうと思った!!

先程私は私達のことを弱いと言いました。

それが何だ!!

私達には無限大な可能性がある!

学ぶための場所もある!

ならあの最高の英雄たちを超えてやろうじゃないか!!

私達は新たな歴史に己の名を残すぞ!!!

ーーー以上で挨拶を終わります。ご静聴ありがとうございました」

『ワァァァァーーーーーーーー!!!!!』


スイッチオフ。

ふぅ、これで文句は出ないだろう。あーあ、つかれたぁ。


「凄いなお前!あの言葉を聞いたらどんどんやる気が溢れてきたぞ!!」

「そうか、良かったな。俺もこれで怒られなくて済むから良かった」

「なんか冷えてるなぁ、でもあんなのいつ考えてたんだよ!全然気がつかなかったぞ!!」

「さっき」

「え?」

「だからさっき」

「あれを?」

「そう」

「なんで?」

「だってあんなの前々に考えなくてもいつでも出来るから」

「はあぁぁぁぁぁぁ?!?!気持ち悪!?どんな頭してんだよお前!!あれを即興で考えて実行するとか本当キチガイ過ぎるだろ!!」

「だって面倒じゃん」

「クッ、お前は前からそんな奴だったよ!!クソッたれが!」


あーあ、疲れたぁ。

後はクラスで顔合わせぐらいかな。

ユウトと同じクラスだったら良いなぁ。いつも見事な盾っぷりを披露してくれるから楽ができる。

注:俗に言う生贄である。


「では生徒の皆さんは教室に移動して下さい。新入生は教師の指示に従って移動して下さい。」

「おいハルト。俺とお前は別々のクラスだけど隣だけど何かあったら言えよ。いつでも相談に乗ってやるからな」

「何!?嘘だろ!?お前以外の奴が俺の盾になれるわけ無いだろ!」

「誰が!いつ!お前の盾になったんだよ!?」


くっ、想定し得る限り最悪の事態になってしまった。いつもこの後は質問責めになるんだよな。

どうしようか?


「ほらほら、仲がいいのは分かりましたから、早く自分の教室に入りなさい」

「じゃぁな、頑張れよー!」

「ほら、久遠君も早く4組の教室に入りなさい」

「はい……」


仕方がない。

こうなったら嫌われて近寄られないようになってやるっ!(席は自由らしい)


「はい、久遠君で最後ですね。では、ホームルームを始めます。久遠君、挨拶をお願いします」


また挨拶か。

1日に何回すれば良いんだよ。


「規律、礼」

「お願いします」

『お願いします』

「初めまして、私の名前は岡 姫乃(オカ ヒメノ)と言います。趣味は異能の実験、嫌いなことは汗を流すことです。どうぞよろしく。では、生徒同士の自己紹介は私が居なくなってからしてもらうとして」


クソ教師が。今しなきゃさらに質問攻めになるだろうが!

てかこれじゃあ目的の自己紹介で嫌われる作戦がほとんど潰れたようなもんだろうが!


「今年の授業や行事などについて説明します。まず、異能科目と基本5教科は必修科目です。異能科目と言っても様々な教科が有りますが、1つ以上とだけ決まっています。

あとは、受けても受けなくても良いのですが音楽や家庭科などの科目もあります。

これは本当にやりたい人だけで良いですよ。放課後にやるので殆ど部活に近いですから。

その代わり、一回の単位は他の教科より高いです。これらの座学は午前中に4教科します。

一週間にどの教科をするのかは決まっているので要注意ですよ。

そして午後からは異能の実習授業です。訓練とも言いますね。

これは他のクラスと共同でやりますので時々模擬戦などもして面白いですよ。教師は生徒から乞われない限り教えたりしませんが、質問や個人的に来た人にはレッスンをします。

もちろん18禁なことはしないので安心してください。

そして先程部活みたいと言いましたが、この学園には部活はありません。

その代わり申請したら訓練室は使えます。後は校則で決闘というものがあります」


先生は目の前にいる男子生徒に立たせてこちらに向かせると、左胸にあるネームバッジを指した。

ここでこの学園の制服について説明しよう。

この学園は国がモンスターや異能犯罪者に対抗するために設立されたために、制服は防刃性の素材で作られており、簡単には破れないようになっている。

そしてデザインは男女ともに黒いブレザーで、左腕の肩くらいの位置に校章の入ったワッペンが付いている。

ズボン・スカートは白だ。


「これはお互いの了承が無ければ出来ません。お互いが胸にあるバッジに触りながら相手の名前を言うことで決闘が成立します。適当にバッジに触りながら久遠くんの名前を言ってみてください」

「久遠さん」


この野郎、人様の名前を勝手に使って実験しやがった!


「おー!バッジが光ってる!」

「眩しくないわね」

「乳首が光ってるみたいで面白いな!」


しかも何だよ、期待した目をしやがって!!誰が決闘なんかするかよ!

あとそこの変態!

今このクラスの女子全員を敵に回したぞ。気を付けろよ。


「流石最新技術を使った学園。だけど入学初日に問題を起こすのはダメだろう。決闘はしない」


めんどくさい事させやがって。

あの先生、社会的に死にたいのかな?

俺キレたら何するか分からないよ?

具体的にはSNSで個人を特定して炎上させるよ?


「素晴らしい、流石一年主席ですね。見事問題を起こさずに回避して見せました。皆さん拍手」

「やっぱアイツスゲェ!」

「決闘も見てみたかったけど流されずにはっきりと自分の意見を言うことが出来るなんて、やるな」

「カリスマだけじゃなくて、自分を律することも出来るなんてまさに英雄候補ね!」


クソッ、俺に注目を集めようとしやがって。

しかしあいつら、何してもすげぇしか言わねぇな。

頭にハエでも止まっているんじゃねぇのか?まあ、それは置いておこう。

それよりもすでに分かったことがある。俺はあの教師嫌いだっ。


「おや?そろそろキリがいい時間ですね。では号令を」


チッ、またか。


「規律、礼」

「ありがとうございました」

『ありがとうございました!』


そして、俺は屋上へダッシュ!


「なっ、消えた!」

「異能を使った前兆は無かったし、素の能力か!?」

「運動能力もピカイチね!」


(ふふふ、また新しい凄い生徒玩具がやって来ましたね。

しかし彼は俗に言う完璧超人なんですかね?頭脳明晰、カリスマ有り、運動神経抜群、さらにあの仲の良さそうなユイザキ君でしたか?彼と同じかそれ以上のイケメン。

ほんと、非の打ち所がない。けど、彼のような者の化けの皮を剥がすのは今までたくさんやってきましたが、いくらやっても楽しい。

これだから教師はやめられないんですよね)

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