第2話:人族の姿

 

 私と人族の女は最下層の祠から地上に脱し、広大な森林の中を黙々と歩いていた。


 森林の中は小鳥の囀りが聞こえ大気がすんでおり何百年もの間、祠に閉じこもっていた私にとって解放的に感じた。稀にスライムと呼ばれる下級モンスターが出現するが私を見ると直ぐに逃げ帰ったりもした。


『ガルルルルガルルガルルガガル…………。』

(ところで人族の女、私達は何処へ向かっているのだ?)


『祠で会った時にも言ったけど私の名前はエルド。アルカ=エルドよ。 人族の女じゃなくてエルドって呼んで欲しいわ。』


『ガルルルルガルルガルルガガ………………。』(了解した。これからはエルドと呼ぼう。)


『ありがとう、アルカナタス! さっき言ってたこれからの行き先なんだけどね……。決めてないの……。』


『ガルルガガルガルルガガガル………………。』

(何だと!? 行き先も決めないで、この私を旅へ誘ったのか!?)


『だって行き先が決まっていたら面白くないでしょ?』


『ガルルガルル……。』(確かにそうだな。)


『それに、地図を持ってないから分からないっていう理由もあるかな。』


 おそらく、そちらの理由が本命だろう。まったく、最初に出会った時の気迫の印象とはまるで別物だ! だが、人族とは実に面白い種族でもあるな。


 森林の木漏れ日がエルドの瞳を輝かせ凛風とともにサラリとした黒髪が踊りだす。そして、白く小さな顔を傾げ私を見る。


『ところで、アルカナタスは人の姿になれたり出来るの?』


『ガルルガルルガガガガルガルルガルル……。』

(試したことはないが、おそらくなれるだろう。)


『村に入る関門の時に困るから一度練習してみて、アルカナタス。』


『ガルルガガガガ……。』(よかろう……。)


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 周りに生茂る木々のざわめきと共に私を中心につむじ風が巻き起こる。身体が光に包まれ徐々に両手、両足、首、肩、胸、腰が形成され人族の女になることが出来た。


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『長い白い髪、白い肌、小さく整った輪郭、ルビーのようなつぶらな瞳、更に2つのふさふさした耳、とっても可愛いよ! アルカナタス!! 』


『お前をベースに作ってみたんだがそのような顔立ちなのか。』


『声もだせるようになったんだね。』


『ああ、まだ声の調子が悪いが自ずと慣れる。』


『一つ気がかりなのが、衣服は作れないのね……。』


『元々が裸体姿ゆえ、必然的にそうなってしまうのだ。』


 それを聞いたエルドは自身が背負う布袋の中から人族が身につける布着を取り出し私へ差し出した。


『とりあえず、私の私服用の服と靴、その耳はこの帽子で隠して。』


『すまない、感謝する。』


 私は服と靴、帽子というものを受け取り時間を有したが身につけることが出来た。


『凄い似合ってるよ!!』


『それは有難いが、人族は皆このようなものを着こなし窮屈ではないのか?』


『皆んなはどうか分からないけど私は窮屈ではないかな。』


 人族という種族は個々が個性的で面白いが時折、理解しがたい部分があるようだ。長時間の変態も含めて、今は人族の姿を維持することにしよう。


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