第35話 ちぇらぁ〜!!
「ほ〜む〜ら〜!」
焔がリフレクタービットを使いきり、次の補充まで残り一分という危機的な状況に陥ったのと同時に、バンプキンと焔の間に割って入ったのは綯華だった。
綯華は魅綺城を抱えて玄武の下へと急いでいたが、駆け寄ってサイクロプスたちに魅綺城を預けると、即座に反転して焔へと走り出していた。
「綯華!」
「焔、お待たせ!」
満面のドヤ顔で焔へと振り返った綯華は、そのまま焔へと抱きつく——。
「なっ?! 綯華なにを!」
思いがけない綯華の行動に、焔の顔が朱に染まった。
だが、綯華が抱きついた理由は焔の想像とはかけ離れたものである。
「跳ぶよ!」
「えっ? お、おい!」
綯華は焔を抱きしめたまま押し込むように駆け出し、そのまま空を蹴って上空へと駆け上がって行く。
「おいぃぃ!」
焔の叫びを半ば無視し、綯華は焔を抱え上げて乃蒼と虎太郎が駆けて来る方向へ駆ける。綯華なりに状況を考え、職人親子と負傷した魅綺城がいる玄武側よりも、サイクロプスの数が多く、乃蒼に虎太郎がいる方向にバンプキンを引くべきだと選択した。
そして同時に、焔に合流せんと駆け寄っていたサイクロプスたちは綯華の意図を正確に読み取っていた。
各々の
「まずは片足を割れ! 地面に這いつくばらしてから頭を狙う!」
「おおう!」
「任せろぉぉぉ!」
長剣と大盾、両手持ちの巨斧、三又の槍を構える近接系サイコのサイクロプスたちが、綯華が蹴り抜いた足を狙って攻撃を集中させる。
弓、クロスボウ、長銃を構える中距離サイコを持つサイクロプスたちが綯華と焔が着地した道路の前に立ち、壁になるように遠距離攻撃を開始してバンプキンの動きを牽制していく。
そして、最後の一人は太枝の長杖を掲げる
最後尾で詠唱を唱えるかのように集中すると、掲げた長杖から伸びる赤い帯がサイクロプスたちへ繋がり、その動きが明らかに変化する。
サポート系スキルが多い
もちろんそれは焔や綯華、乃蒼や虎太郎にも繋がっている。焔を最後尾に届けた綯華はすぐさま反転し、「よっしゃぁ〜〜!」と気勢を上げてバンプキンへと駆けて行く。
そこからは、ある意味で一方的な戦いだった。
焔が
厄介な
そして立ち上がれば再び足を狙って破壊し、転倒すれば頭部のコアを狙う。バンプキンから無視され続ける状況での一方的な攻撃は一つのルーチンワークとなり、それをより強固にするように焔も射撃と〈クロノス〉を使って
足を破壊されても、もがくように巨腕だけで焔に向かい這いずる姿は、見ていて恐怖を覚えるほどの一途さだ。
「立ち上がったぞ! 後ろに引き倒せ!」
「右だ右! 右足にひび入ったぞ!」
「割る前に向きを変えさせろ! もう少年まで距離ないぞ!」
サイクロプスたちの間に自然と声が出る。
「わ、割れたー!」
「おぉー!」
「畳みこめぇ!」
「ここだぞ!!」
虎太郎の一撃で、再び三角帽子が割れてコアが露出した。レイドに参加しているサイクロプスたちから声が上がる。
誰しもが理解しているのだ。このアタックが決まれば、間違いなくバンプキンは沈むと。
コアへの集中攻撃は激化し、僅かな露出時間を一秒も無駄にしないとサイクロプスたちが
そして——。
「焔ぁ〜!」
「綯華ぁ! 〈
焔は
もう
「うぉりゃぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」
コアの眼前に降り立った綯華は〈
魅綺城の剣舞に引けを取らないほどの超連打は、一撃打ち込むごとにバンプキンの頭部を震動させる。速く、重い連打は周囲のマキナ粒子に干渉し、暴風の壁となってコアを包み込んでいく。
その勢いは他のサイクロプスたちも近づけないほどだったが、僅かに時間が足りなかった。
「再生が始まったぞ!」
「嬢ちゃん逃げろ! 時間切れだ!」
「綯華、離脱しろ!」
「と、綯華ちゃん!」
「綯華さん!」
焔と虎太郎、それに乃蒼が叫び、周囲のサイクロプスたちが綯華にコアから離れるように促すが、綯華の超連打はまだ止まらない。
「まだまだぁ〜!」
三角帽子の再生が始まると同時に、バンプキンも動き出して立ち上がる。綯華はコアに連打を叩き込みながら、三角帽子の中に閉じ込められて行く。
「綯華!」
「綯華ちゃん!」
「綯華さん!」
焔たち三人の声も虚しく、三角帽子が完全に再生した。
「焔君、〈
「くっ、まだ使えない!」
「そ、そんなー!」
三角帽子の中に綯華が取り残されたことに、焔たち三人は唖然として動きが止まる。周囲のサイクロプスたちにも、頭部で何が起こったのかは把握できていた。
バンプキンが勢いよく立ち上がり、攻撃すべき頭部の位置が頭上高くに逃げていく。
破壊したばかりの三角帽子を再度破壊するには時間がかかる。それまで、綯華がどのような状態になっているかは誰にも判らなかった。
バンプキンの体に押しつぶされているかもしれないし、閉じ込められているかもしれない。
とにかく、一分一秒でも早く助け出さなくては——!
そう誰しもが考えた時、電子的な咆哮を上げて背を仰け反らせるトロールド・ストレンジ・バンプキンの動きが止まった。
まるで時間が停止したかのように固まり、虎太郎と乃蒼は焔がまた何かをしたのか? と視線を向けたが、当の焔も目を見開いてバンプキンを見ていた。
そしてバンプキンの巨躯が一瞬震えたかのように見えると、真っ暗闇の眼底や口腔から眩いばかりの光が溢れ出した。
「なっ!」
「ま、まさかー!」
「これは……!」
焔たちが見上げるバンプキンは瞬く間に内側より貫かれる光に包まれていき、その巨躯が朧げに崩れていく。そして——。
「ちぇらぁ〜!!」
——と、可愛らしくも気合の入った掛け声が聞こえたかと思うと、バンプキンの頭部を貫いて綯華が拳を突き上げながら頭上高く駆け昇っていった。
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