第26話 希少種
トロルの
通常攻撃力が低いフライクーゲルでも、固有機能〈ウィークショット〉のおかげでウィークポイント(弱点)への攻撃にはダメージボーナスが入る。
その効果はメインアームの種類によって数値が変わるらしいのだが、フライクーゲルの場合は二倍——いや、三倍はあると焔は実感していた。
七発を撃ち切り、空転しながら自動リロードするフライクーゲルを両手で保持し、リロード完了と共に再び七連射。
事前に得ていた情報通りなら、トロルの
焔の銃撃によろめきながらも、なんとか立ち上がったトロルの胸部はかなり高い位置にある。遠距離攻撃でなければ、あの位置のウィークポイントに攻撃を与えるのは難しい。
だからこそ、FA(ファーストアタック)が綯華であり、追撃が虎太郎なのだ。
ヘイトを稼ぎ、
「や、やった?」
「虎太郎、それは古来より良くないことを呼び寄せる“フラグ”というやつだぞ」
「でも、黒のっぽ動かないよッ!」
フライクーゲルを構え、その狙いをトロルから外さない焔へ、廃屋の屋根から見下ろす虎太郎と綯華が声をかける。
トロル
それでも、地に伏せたトロルの体に紫電が走り、ボロボロに崩れながら消滅していくのを見れば、その体力数値が全て消し飛んだことがすぐに理解できた。
“
「綯華、虎太郎、周囲を確認して降りてきてくれ」
焔はリフレクタービットの補充状況を確認しながら玄武の横にまで戻ってくると、乃蒼と無言のハイタッチをして玄武の上に座る魅綺城に視線を送った。
「お疲れ様」
魅綺城がかけた言葉はそれだけだったが、焔にとってはそれだけで十分だった。
その一言には、一人のサイクロプスとして認められた。焔たち四人が、一人前のサイクロプスパーティとして認められたと、そう感じ取れたからだ。
それからも何体かのトロルを
その間、魅綺城は大人しく玄武の背に座り、焔たちの
その動きに玄武の後方を歩く焔が気づき、すぐに乃蒼も先頭を歩く綯華と虎太郎も気づいた。
「どうかしたか?」
「……
大抵の場合が
さらに特徴的なのが、他の
さらに言えば、
それだけ
焔たちはその名に硬直し、魅綺城が睨む方角へ倣うように視線を向けた——そこは、目前にまで迫っていた裁縫工場がある辺りだった。
そして、建ち並ぶ廃屋の向こう側に、ほんの僅かだがトロルとは毛色の違う巨人が歩いているのが見える。
道路を歩く焔たちからも頭部の頂点付近が見えるほどの巨躯だ。玄武の甲羅に座る魅綺城からは、もっと良くよのシルエットが見えていた。
「ナカノに現れる
「トロールド・ストレイジ・バンプキン」
焔がその名を思い出す前に、乃蒼が呟くようにその名を答えた。
「焔、どうする?」
「ど、どうするって綯華ちゃん。
「とりあえず、もう少し進んで様子を見る。本当に
トロールド・ストレイジ・バンプキンは、シンジュクを中心に活動するサイクロプスなら誰でも知っている
トロルを上回る巨躯と攻撃力を持ち、外皮を破壊して
しかし、その動きは酷く鈍重であり、
魅綺城も焔の判断が正しいと判ってはいたが、視線の先から
警戒しながらも裁縫工場へと近づいて行くと、焔たちにも戦闘音とは違う喧騒——というよりも、悲鳴にも似た叫び声が聞こえ始めた。
「早く離脱しろ!」
「ここを捨てるわけにはいかない!」
「だけどお父さん!」
「逃げても工場が破壊されるわけじゃないだろ!?」
「一度でも逃げたらお終いだ!」
聞こえてくる声は三種類——若い男女と、しゃがれた高齢の声。だが同時に、
その声量は通常の
すでに“
「デカいな……」
最後の曲がり角を前にして、すでにバンプキンの姿は焔たちにも見えていた。周囲の廃屋を遥かに上回る巨躯に、トンガリ帽子と腰にまで伸びるボサボサの髪。
トロルと似た黒い体に星のような斑点が浮かぶ外皮は、より実体化してブヨブヨとした醜悪さを醸し出していた。
その顔に表情があるわけではないのだが、
叫び声から伝わる緊迫感に綯華の歩みが駆け足へと変わって曲がり角へ躍り出て行く。それを追うように虎太郎も精一杯の速さでが走る。
焔と乃蒼も二人の後を追い、玄武の背に乗っていた魅綺城も器用に甲羅を駆け下りてその後ろに続いた。
曲がった先に見えたのは、裁縫工場のすぐ側に建つマンションらしき茶色の建物の前で座り込む老人と若い女性、その人たちを守るように展開する五人のサイクロプスだ。
“
一度でも攻撃してしまえば、バンプキンの行動がより攻撃的なものへと変化する。
これはサイクロプスたちの一般常識であり、様子見や撤退前提ならば、決して
焔たちが曲がり角から飛び出してきたことは、その五人のサイクロプスたちにも見えていた。救援の出現に一瞬だけ笑みを浮かべたが、現れたのがまだ幼い少年少女と見るや、逆に守るべき対象が増えたとでも言わんばかりの苦しい表情へと変わった。
「ここは危険だ! 君たちもすぐに立ち去れ!」
サイクロプスの一人が焔たちに声を掛けたが、状況は両者たちにとってより悪い状況へと悪化して行く——。
「焔、あちらかも別の
最初にそれに気づいたのは、やはり魅綺城だった。
裁縫工場前の荒れた道路の数百メートル先から、別の
すでに別のサイクロプスパーティと交戦しながら、押し込むようにしてこの場に接近していた。
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