第22話 |M・COIN(エム・コイン)
まずは継続的な
この三段階を経て、
菊を本部長として構成された“
元々一つのゲームであった“サイコ・ディスプリクション”を自然に受け入れ、
特に
“
だが、そのスタート地点がゲームシステムである以上、それをコントロールできる“
何よりも厄介なのは——対
レイドと呼ばれる一五人構成の大規模パーティは、
そして、焔たちがサイタマのカンエツ遠征に出ている間にも、シンジュクの南に位置するミナトの奪還作戦が行われた。
海に面するミナトの奪還作戦は数年前から計画され、反乱作戦の最優先奪還目標とされていた。
また、海外との連絡を取るためにもミナトの奪還は必須であり、海に面するエリアでは“
そのような背景の中で実行された本作戦について、菊は焔たちに詳細な作戦内容や経過について明言を避けたが、主力レイドパーティ三つとサポートメンバーを含めた総勢五〇名もの大部隊は、ミナト奪還作戦に失敗して主力レイドは壊滅、サポートメンバーにも大勢の死傷者を出し、貴重なHP(ヘルス・プロテクション)を回復させるスキルを持つメンバーにも、大きな被害を出した結果だけを話した。
魅綺城凪は、その主力レイドに参加していた元サイクロプスなのだそうだ。その彼女がなぜ、JCDF(新日本電脳防衛軍)に戻らず
夕食を食べながら事情を聞き、焔たちはチラチラと魅綺城に視線を向けながら、確かに左手の上腕部を包帯でグルグル巻きにし、三角巾で固定して右手だけで食事をとり、度々脇腹付近の痛みに顔を
「それで、お前たちはサイタマに行ってきたのだろう? 収穫はあったのか?」
一通り話しを終えたところで、今度は焔たちの成果を菊が訪ねた。菊としては、魅綺城の怪我や奪還作戦の内容について詳しく話すことを嫌ったこともあるが、自分の弟妹たちがどれほど成長したのかが、色々な意味でとても興味があった。
「もちろんだよ、お菊姉ぇ! 乃蒼ッ、あれ出してよ!」
綯華は
「ちょっと綯華さん! 私のバックを荒らさないでください!」
普段から落ち着きのある丁寧な口調の乃蒼だが、自分の領域であるバックの中を漁られれば焦りもする。
綯華の背を追うようにテーブルの前から離れ、二人して遠征の成果を漁り始めた。
「あら、楽しみねぇ。一体何が出てくるのかしら?」
仁子が絡み合う綯華と乃蒼の背を見つめながら微笑み、菊や魅綺城の視線も自然とそちらへ流れた——だが、焔だけは露骨に話を変えた菊と魅綺城の顔を、どこか腑に落ちない表情で交互に見渡していた。
そして、その視線が魅綺城の視線と重なった。
見つめていたこと誤魔化すように手に持つご飯茶碗へ下ろす焔の視線とは対照的に、まっすぐに見つめる魅綺城の瞳は何かを探るように真剣な面持ち、そして柳の葉のように細く美しく眉は確固たる意志を感じさせたが、同時に感情が見えない表情は、どこか暗く冷たいものに感じた。
「白米美味しい〜〜♪」
そして、虎太郎は虎太郎のままだった。
「じゃじゃ〜ん! これがあたしたちの成果だよッ!」
綯華が乃蒼の軽量バックパックから強奪——もとい、取り出してテーブルに並べたのは——。
「まぁ、トマトの種ね。それにこっちはナスにトウガラシ。他にもまぁまぁ、よくこんなにも果菜の種を手に入れられたわね」
「カンエツに来ていた行商人に、たまたま農作物の種を数多く扱う人がいたんです」
「で、でも……これ、物凄く高かったよ」
「本当は衣類の補充がしたかったけど、目ぼしいスキルカードは種との交換に使ってしまったよ」
カンエツ遠征では、蔵書を輸送する特別依頼で報酬として手に入れた〈クロノス〉のほか、売りに出せるスキルカードを何種類か確保することができたが、一度に全てを交換には出さず、今後の食料確保のために貨幣代わりとして“
「少しは
簡単な自己紹介以降、全くと言っていいほど何も話さなかった魅綺城が口を開いた。
「あ、あぁ、スキルにもサイコ・ディスプリクションにも慣れて来た。獲物を欲張らず、身の丈にあった
焔は自嘲気味に肩をすぼめ、遠征に出る前に魅綺城に忠告されたことを実践していることを伝えた。
「……それでいい。どれだけ準備をして挑んでも、歯車一つズレれば仲間に死者を出す。後悔してからでは何もかもが遅い」
ワイワイと成果の果菜種を並べて栽培計画を話し合い始めた綯華や仁子を横に、焔と魅綺城は同じテーブルを囲みながらも、どこか別の場所にいる感覚を覚えながら
(もしかして、魅綺城が
僅かな意見交換の中で、焔は魅綺城の様子が以前と違うことをハッキリと感じていた。どこか自信を失ったような表情、自分の殻に閉じ籠りかけている危うさ。
焔は視線を一瞬だけ菊に向けると、向こうも焔と魅綺城の会話を気に掛けていた。すぐに焔の視線に気づくと菊の口角が僅かに緩み、焔を見つめる視線は
(はぁ〜)
焔はそんな菊の意図を大きく外すことなく受け取り、自分に課せられた仕事がまた一つ増えた——と、これからの心労がさらに増えることに内心で溜息を一つ吐いた。
ディ〜ン、ディ〜ン、ディ〜ン。
食後の談笑に花を咲かせていた居間の壁に掛けられた古い柱時計が、二〇時になったことを知らせる鐘の音を響かせた。
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