第4話 固有武器
翌朝。三人の予想通り、綯華は早朝の講習会に出よう! と、朝一で三人をたたき起こし、寝る前からあきらめの境地へと達していた三人は朝食もそこそこに、昨夜のうちに準備しておいた軽量バックパックを背負って講習会の会場である旧代々木公園へと向かった。
サイクロプス養成講習会は、旧代々木公園の陸上競技場とサッカー場の間に建設された会場で、日に四回行われている。運営は新日本政府が行なっており、参加費は無料で講習内容はいくつかの選択肢から自由に選ぶことができる。
“
焔たち四人は早朝の講義を受けて“
昼食は公園近くに来ていた移動販売車の固形食品を買い、四人は出発前に仁子から昼食代として貰ったマキナ粒子で、初めての買い物を経験をした。
この移動販売車は“
この移動販売車は“
しかし、“
人々はこれを“
そして、いよいよ午後の講習で焔たちはサイコを初めて生み出すこととなる。
「この中でサイコをまだ生み出していない人はいるかなー?」
陸上競技場の中央で、担当講師による実技講習が始まった。まずは“
「はーい! はいッ、はぁーい!」
綯華が元気よく返事を返し、講師の男性がそれを見て綯華を指名した。
「ではそこのお嬢さん、前に出てくれるかな?」
「はいッ!」
「他にも初めての人がいると思いますが、まずは彼女を見ていてください」
講師の前でニンマリ笑顔のまま直立不動の体勢をとる綯華を横目に、焔たちは講師へと視線を向けて次の説明を待った。
「皆も知っての通り、“
講師の説明を鼻息荒くして聞いている綯華の様子に少し口角が緩む焔だったが、自分の左手に装着した“
「起動言語はシンプルです。声の大きさも、誰に聞かせるわけでもないので恥ずかしい人は自分が聞こえる程度の声量で結構です」
講師の説明に胸をなでおろしたのは虎太郎と乃蒼だ。人前で話すことが苦手な虎太郎はもとより、乃蒼も大きな声を出すのは得意ではない。
「では実際にやってみましょう。お嬢さん、“
講師の説明を聞く綯華の目がより一層輝いていく。焔は綯華がこの日を待ち望んでいたことを、誰よりもよく知っている。綯華の夢はヒーローになることだ。
そして、それは誰が為のヒーローか——。
「よぉ~し、いくよ~! “リンカネーション”!」
綯華は元気よく大きな声で起動言語を唱えると同時に、“
「おぉ~!」
次の瞬間には、綯華の両手両足に白銀のガントレットと羽飾りのついたブーツが装着されていた。
「おめでとう、それが君のサイコだね。システム画面を見れば詳細が確認できると思うけど、いきなり
「ほんとだぁー! ”ヤルングレイプ”と”ヘルメス”だって!」
講師が綯華へ手順の説明をしながら、それを見ている焔たちにも説明をしていく。それを聞きながら、焔たちもそれぞれの“
「りっ! “リンカネーション”!」
「“リンカネーション”!」
「……“リンカネーション”」
虎太郎が——乃蒼が——焔が、起動言語を唱えた。
“
虎太郎の身長よりもさらに長い全長もさることながら、丸っこい虎太郎の体型がそのまま付いているかのように大きなヘッド。
その打撃面は片面に限定されているが、逆側には意味ありげな円錐型の装置が付いていた。
機構式ジェットハンマー“ミョルニル”。それが虎太郎のメインアームであり、もう一つの光の筋が虎太郎の上半身を包み込むと、ランドセルに似た背部ユニット付のジャケット——サブガジェットの“ジェットスラスター”を生み出した。
乃蒼の周囲を渦巻く光の帯も、虎太郎と似たような動きを見せた。右手に集束する光の帯は同じく長柄の武器を型作るが、現れたのは波打つ一本の杖——ただし、そこには一匹の白い蛇が絡み付いていた。そして、もう一筋の光の帯は乃蒼から離れ、横に寄り添う形で集束していく——。
乃蒼の横に現れたのは一匹の亀、しかしその大きさはウミガメよりもはるかに大きく、その背に乗ることさえ可能なほど——そして、両手足は生物のそれではなく、流れる水が意思を持つかのようにうねり、背部に水流のアーチを作りながら尾と手足を繋いでいる。
メインアームの名は“アスクレピオスの杖”、そしてサブガジェットは“玄武”——“
そして、最後に起動言語を唱えた焔だったが——。
虎太郎と乃蒼に比べると、随分と大人しい光の帯の動きは焔の腰と胸付近に集中し——それは一丁のハンドガンと、一本の腰ベルトとなって姿を現した。
「これは……なんだ?」
焔はメインアームとなる黒く長い銃身に炎の意匠が施された
「はい、全員ともサイコを問題なく生み出せたようですね。それにしても……装着型のみならず、ペット……それも霊獣を生み出すなんて、今朝の参加者は相当に幸運ですね」
「そうなのですか?」
乃蒼は自分の横に静かに佇むペットの玄武を恐る恐る触りながら、講師に説明の補足を求めていた。
「サイコを生み出した時点で、“
講師の説明に反応して、四人とも“
「これかぁ~! あたしのは両方とも星五だよ~!」
「ぼ、ぼくのは星五と、ガジェットは星三」
「私のは星五と、この子は星七です」
綯華、虎太郎、乃蒼の三人がそれぞれのメインアームとサブガジェットのレア度を申告し、自然と最後の焔へと視線が集まった。
「俺のは……両方とも星二だ」
「レアリティーはあくまでも出現率の問題で、その先の成長性とは関係性がないと言われていますから……」
焔一人だけサイコのレアリティーが低かったことに講師は気を利かせたのか、焔のステータス画面を覗き込みながら、サイコ・ディスプリクションの成長性について話し始めた。
サイコはメインアームとサブアームに分かれ、それぞれが所有者固有のサイコとなり、同じものを持つ人間がいないという。ただし、所有者が何らかの原因で死亡すれば、再び誰かの手に生まれ落ちる可能性はある——それがレアリティーだ。
そして成長性とは、
レベルアップすることで基本攻撃力などが向上し、サイコそれぞれの固有スキルや機能が
レベルアップすることで空きスロットの数が解放され、現在判っている最大値が五つ。この空きスロットには、
スキルカードにはサイコの性能を向上させる〈攻撃力アップⅠ〉や〈防御力アップⅠ〉、〈装弾数アップⅠ〉や〈効果時間アップⅠ〉など様々な種類があり、一六年たった今でも新規のスキルカードが発見されることが少なくない。
ちなみに——このスキルカードは売買が可能で、良質なスキルカードはかなりの高額で取引されている。
講師による“
「焔のサイコはレア度ひっくいねぇ~」
「話を聞いていたか? レアリティーは低くてもいいんだよ」
「の、乃蒼ちゃんの亀、かわいい顔しているね」
「亀ではなくて、玄武です。でも、可愛いというのには同意ですね」
「とりあえず、フレンド登録をしよう!」
「そうだな、メールや通話を出来るようにしておいた方が便利だ」
「か、帰ったら先生ともしなくちゃ」
「あっ、講師の方の説明が終わったようです」
“
「まったく……サイコを手に入れたばかりの子はみんな君たちのようにはしゃぎますが、それは紛れもなく
講師の忠告に、焔たちの雑談が止まる。
「君たちがサイクロプスとして
焔たちは講師が何を言いたいのかちゃんと理解していた。現代において、サイコ・ディスプリクションは人の生死を大きく左右するものとなった。
サイコ・ディスプリクションなくして人は生きていけない、いまさら電気のない時代には戻れないのだ。
「俺たちはサイクロプスになります……もう、一〇年も前から決めていたことです」
焔が講師の忠告に答える。それは、彼ら四人が自分の立ち位置を正確に認識したときに決めたこと——顔も知らぬ、声も知らぬ、それどころか名前すら知らない親の——家族の仇を討つ。
それがいつしか仁子への恩返しと変わり、自分たちを守って神無荘を巣立っていった
これから来るであろう弟妹のために、巣立っていった兄姉の実家であり続けるために、神無荘を守っていく。
それが、焔たち四人の誓いだ。
「そうか……君たちのような若者を送り出しては、
「はい」
「はいッ!」
「は、はい」
「……はい」
自然と出た四人の返事は、焔だけでなく綯華も、虎太郎も、乃蒼も同じ気持ちの一言だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます