第173話 ゴブリンを討伐したい

 会議の参加者はいつもの面々と、将軍のアンドレさんと兎族のピーターさんがいる。


 二人は霧の向こう側の状況を語ってくれた。


「……なるほどのう。魔物の軍団がいるのじゃな?」


「はい、我ら兎族は隠れ住んでおりましたが、ゴブリンの数は増える一方で、仲間は次々と殺されました……私も殺されそうになった所を、アンドレ様に助けられた次第です」


「王よ、今はある異界人の元に集まって団結し、上手く生き延びております」


「それが海彦殿の……なわけか」


「…………」


 俺は特に何も言わない。気をもんだ所で、何もできないからだ。


 もっとも女神の結界が消えたら、直ぐに助けに行くつもりだ。


 ただ、魔物のいる中で長年生きてきたのなら、そう簡単には死なないだろう。


 漁師はヤワではなく、俺はあまり心配してはいなかった。



「よし、まずはアルテミス湖にゴブリン退治に行くとしよう。このまま放っては置けん。儂も出るぞ、親征じゃ! アンドレ、帰ってきたばかりじゃが頼むぞ!」


「おまかせください、王よ。我が二つのつるぎはアルザスを守るためにあります!」


 こうして、ゴブリン討伐が決まる。

 雅は止められたが強引に参加、ミシェルは護衛につかざるを得ない。


 俺もつきあうことになる。指揮はアンドレさんがするので、出番はないだろう。


 そしてフローラ達は……


「村に一旦帰るわ」


「うん、その方がいい」


 族長達に今後の方針を説明してもらうのだ。あと各部族に仕事をお願いする。


 やる事が山ほどあるので、大勢の人が必要だった。


 それと、実家でしばらく骨休みするのもいいだろう。父親達も安心する。


 ……俺としては、女の喧嘩を見なくて済むので気が休まる。毎日見てると疲れるわ!



「じゃーリンダ。クルーザーは任せた」


「あいよ。ヘカテー湖の造船所で、『めんてなんす』をするわ」


 長旅は終わり、俺は船の点検整備をリンダに頼む。エンジンだけでなく船全体だ。


 航海をすれば水圧で船はきしみ、あちこちにヒビが入るので、変型した箇所を調べて直さねばならない。


 しっかり直さないと船は壊れる。命にかかわるので、手抜きはできない。


 また貝やフジツボなど、船底にこびりついた物もとってもらう。


 これが結構大変なんですよー。状態にもよるが、日本なら修理費は軽く百万は飛ぶ。


 やっぱり、クルーザーは大金持ちでないと乗れません。


 ヘスペリスなら、オークさん達と精霊さんがやってくれるので、助かります。

 よろしくお願いします。



 アマラとシレーヌは帰りたくなさそうだったが、状況が分かっているので、我が儘はいわなかった。


「絶対すぐに戻ってくるからな、海彦」


「ああ、次はアルテミス湖で会おう」


 俺は湖近くに、住むつもりでいた。


 北側に日本人がいるとなれば近い方がいいし、また無線が入るかもしれないからだ。


 しかし、霧が電波も妨害してるようなので、期待しない方がいいだろう。


 女神の結界が消える時を静かに待つのだ。


 次の日、フローラ達は故郷の村へクルーザーで帰っていった。


 アマラ達は方向が違うので、別の船に乗っていく。


 ヘカテー湖とニュクス湖を、行き来する定期便だ。他の獣人達も一緒である。


 もう種族間の往来は、盛んになっているようだ。



 さらに二日後、軍船の出航準備が終わり、アルザス騎士団が出陣する。


 ガレー船三隻、輸送船二隻、そしてプリプリ号と民間船数隻が、セレネ湖を出発する。


 兵員は三〇〇人を超えて、武装も圧倒的で士気も高い。アンドレさんが帰ってきたからだ。


 俺とピーターさんはプリプリ号に乗って見学、前線にはでない。


 俺の役目はお飾りで、この戦いにはくをつける目的がある。


 騎士達にとっては、ほまれになるからだ。ヘスペリスの歴史にも刻まれる。


「俺は勇者と一緒に戦って、ゴブリンをやっつけた」


「父さん、すげえー!」


 と子供に自慢できる。憧れてくれれば、次世代の騎士になってくれるだろう。


 国を守る者は必要だが、夢を持ってやる気がなければ続かない。


徴兵ちょうへいなんぞしたら、民から恨まれるだけじゃ。愛国心とはおしつけるものではない。民が守りたいと思える国を作らねばならんのだ」


 そう言ったエリックさんは、やはり立派な王様だ。だからこそ皆から慕われている。


 なので、見送りに来た人の数は凄かった。


「行って参りまーす!」


「雅様、お気をつけてー!」


 王女のみやびは、人々に手を振っていた。


 アルザスの人達の激励で、騎士達のやる気は十分。


 船団はアルテミス湖へと向かう。

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