第132話 フタバ竜はしぶとい
「海彦さん! メスがコッチにきます!」
「やっとか!」
水中偵察を頼んでいたシレーヌからの知らせを聞いて、俺はホッとする。
これを待っていた! これで作戦は第三段階に入れる。
味方がやられる様を見ているのは辛かったが、ようやく後退させられる。
『右翼と左翼は後退! 囲みを解いていいぞー!』
指示は遠くにまで届き、エルフ兄弟は両翼部隊を動かしてオスから少し離れた。
これと同時にメスが湖面に浮上、部隊の
俺達はあえて手をださず、メスの邪魔はしない。この間に次の攻撃準備を進める。
「プオン…………」
「パオーン! パオ、パオ!」
メスが弱ったオスに近寄り、赤い精霊を召喚して傷を治し始める。
二頭が寄り添ったこの瞬間が勝負所! 正念場!
『小麦粉弾発射!』
蒸気砲でたくさんの竹筒が飛ぶ。上空で竹が割れると、大量の粉がフタバ竜二頭にふりかかった。
今回は催涙弾ではない。これは、ある攻撃をするための下準備。
「ナイアスの守り!」
人間と亜人の魔法使い達を乗せた主力船が最前線にでており、フローラと雅もいた。
ここで温存していた、防御魔法を一斉に展開する。
これは仲間を守る
盾を持った精霊達が縦横に並んで、箱の形が作られる。言わば精霊結界だ。
結界の中では小麦粉が舞っていて、フタバ竜の姿は見えにくくなっていた。
「今だ、ハイドラ!」
「これで終わりよん!」
弓の名手たるハイドラが火矢を放ち、結界に向かって飛んで行く。
盾精霊の一匹が素早く避けると、火矢は中に入った。その直後!
ドゴ――――ン!
大爆発が起きて爆音が湖全体に
俺達はフタバ竜二頭を盾精霊で閉じ込め、「
これはドリスのアイデアで、鉱山事故からヒントを得ている。
現在は粉塵爆発を防ぐのに、大きな通風口をつくって風精霊に換気をさせているそうだ。
作戦は大成功! 盾精霊のおかげで爆風と衝撃は、俺達のところまでは届かない。
精霊結界の中では炎と煙が舞い踊っていた。
いくらなんでも、これなら
誰もが喜んでフタバ竜の死を確信する。だが……
「プオ……」「パオ……」
「マジか! これで死なないのかよ!?」
「ウソん!」
盾精霊が消えて煙が晴れると、二頭が生きているのが分かった。
俺達はどよめくしかない。焦げた火傷の
これが人なら内蔵はズタズタになり、体は千切れ飛んでいる。まず即死だ。
やはり神怪魚は化け物である。それでもかなりのダメージは受けたようで、首を回しながらフラフラしていた。
赤い精霊は体内に入り込んで、弱った二頭を治している。
「そうだよなー、世の中そんなに甘くはない……やっぱり奥の手を使うしかないか。アマラー! 頼んだー!」
「まかせろ海彦!」
すでに獣人族の奇襲部隊が、二頭に接近している。爆発で倒せなかった場合に備えていたのだ。
アマラはフタバ竜オスに飛び乗って、素足で背中を駆けていく。
輪のような物を肩に担いでいるので、動きはやや遅い。多少重いのだ。
この輪っかこそ、俺がチャールズさんに頼んだ切り札だった。
アマラはオスの長い首に近づき、刺さった矢や銛を
オスのダメージは大きいようで、触られても暴れようとはしなかった。
頭部までくるとアマラは輪っかを長い首にかける。
「えい!」
「やった!」
オスの首にかけた輪っかは、金属ワイヤロープであった。
反対側にも輪っかがあり、こっちはアタワルパさんが持って、メスの首にかけようとしていた。
しかし、メスの首には足場がなく滑って登りようがない。
そこで、
「ウオオオオー!」
獣人族の戦士達が、メスの首に一斉に飛びかかった。
両手に尖った
氷の壁に挑むアイスクライマーのようで、多数の戦士達が蝉のようにひっついた。
オスよりはダメージが少ないメスは、大暴れして振り払おうとする。
「パオーン!」
「死んでも離すものかー!」
何人かは振り飛ばされるものの、獣人達は必死でくらいつく。
その男達を足場にして、アタワルパさんはメスの首を登っていく。
頭も動いているので輪っかをかけるのに苦労するが、最後は飛びかかるようにして首にひっかけた。
「やったでござる! うおっ!」
獣人達は全員遠くまでふっとばされたが、作戦は大成功だ!
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