第131話 作戦は第一・第二段階

「プオーン!」


 矢が当たったオスは目を覚まして、襲いかかってくる。


 すでに小舟はモンキーターンで、高速旋回して逃げていた。


 ただし前回とは違い、バラバラにはならず四艘はひとかたまりになっている。


 小島から奴を誘い出し、湖底にいるメスから引き離すのが、作戦の第一段階。

 囮部隊の役目は大変だ。


 アクセル全開のスピードは出せず、ギリギリの距離でフタバ竜を引きつけて、味方のとこまで誘導せねばならなかった。


 小舟の扱いの上手い者が、危険な役目を引き受けてくれたので感謝するしかない。


 ボートレーサー並みの操船で、オスを上手く釣ってくれた。


「くらえ!」


 少しでもオスが戻りそうになると、ボウ銃を撃って挑発する。


 こうして囮部隊のおかげで、フタバ竜オスを誘い出し小島から離すことに成功する。



 ――作戦は第二段階。


 四艘が左右に分かれて逃げると、エリックさんの部隊が前進して攻撃を開始する。


 すでに準備は完了、飛び道具の射程内にオスは入っていた。


「撃てえ――――!」


 合図とともに、ガレー船の大型弩砲バリスタ平頭銛へいとうもりを放ち、蒸気砲も次々と銛を発射する。


 ボウ銃も同様に射手が狙い撃つ。たくさんの矢と銛がフタバ竜に襲いかかる。


 その物量は前回の比ではなく、まともに食らえばタダではすまない。


 これに対しオスは咄嗟に湖に潜って矢をかわす。


 散々撃たれて傷ついたので危険な武器であることは、身をもって学習したのだろう。


 それでも逃げようとはせずに、中央部隊に向かって突進していく。


 アレを撃てなくするにはどうすれば良いのか? 答えは単純、船を壊せばいいのだ!


 フタバ竜は賢く接近戦を挑もうとする。だが――


槍船部隊ランサー、突撃!」


「おりゃー、食らえー!」


 ガレー船の前に小舟ボート部隊が展開し、自らフタバ竜に突っ込んでいく。


 体当たり攻撃だ!


 小舟の舳先へさきには長い騎士槍ランスが取り付けられており、水面下には鋭い衝角しょうかくをつけてある。


 どうせ壊されるなら、こっちから先にぶつけてやればいい。相打ち覚悟だ!


「プオン!」


 ドカドカと音を立て、小舟はフタバ竜にぶつかって砕け散った。


 落ちた戦士達はすぐに人魚達に助けられている。


 オスにダメージを与えるのには成功したが傷は浅い。やっぱり体は硬くて頑丈だ。


 それでも俺達は体当たり攻撃を止めない。近寄らせてはいけない。


 この捨て身の攻撃でフタバ竜はひるみ、中央部隊への接近はあきらめ、体を反転させて引き返そうとする。


 小島から遠く離れ過ぎたのに、ようやく気づいたようだ。焦っているようにも見える。



「だが、そうはさせん!」


「プオー!?」


 オスの前方に二つの船団が現れる。


 右翼部隊と左翼部隊がフタバ竜の後背に回り込んでおり、退路を防いでいた。


 中央部隊が戦っている間に、奴が潜って逃げられないよう、沢山の刺し網をしこんでいたのだ。


 無理に突破しようとすれば、網が絡まって動けなくなるだろう。奴に逃げ道はない。


 三部隊に分けたのは囲んで、逃げられないようにするためだった。


 あとは撃って、撃って、撃ちまくるのみ! 


 大量の銛と矢が空を埋め尽くすように降り注ぐ。太陽が見えなくなるほどだ。


「プオ――――ン!」


 船に載せてある蒸気砲は改良されて威力は上がり、大型弩砲バリスタもモーターで弦を引いてるので連射は早い。


 矢の雨あられ、これにはフタバ竜もたまらず、大暴れしながら右翼部隊に突っ込んでいった。

 一点突破をする気だろう。


「ふんばれー!」


 ダークエルフのアランさんが指揮して、その場に必死で踏みとどまる。


 突破されてしまえば作戦は失敗するのだ。なにがなんでも死守する!



 意地でも突破はさせず、船を何艘壊されようが攻撃の手は緩めない。


 本当ならここで防御魔法を使いたいとこだが、作戦があるので魔法使いは温存していた。


 ここが我慢のしどころ、減った分は中央と左翼から船をまわす。


「うー、まだか!」


 被害が増える中、俺は焦りながら待っていた。


 オスは弱ってきてはいるが、尻尾を上手く使い飛んでくる矢を落として粘っている。


 やけに時間が長く感じて息苦しい。本当なら直ぐにでも撤退させたいが、それはできない。


 拳を固く握りしめ、チャンスがくるまで俺は耐えるしかなかった。

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