第109話 贈り物を用意するしかない

「こらー、服を着なさい!」


「やだー!」


 包帯とサラシのとれたシレーヌは、全裸マッパでフローラから逃げ回っていた。


 ……おいおい、勘弁してくれ。


 俺は頭を抱えるしかない。


 獣人のアマラは毛皮をつけていたので、服や下着を着るのに抵抗はなかった。


 むしろ体臭を気にして、きれい好きだ。


 臭いでけものに位置を悟られないように、注意しているのかもしれない。


 人魚のシレーヌは服を着るのを嫌がる。これも生活環境の違いだろう。


 洞窟で生活していて男もいないのであれば、たしかに服はいらない。


 水中ならまだいいが、地上では着てもらわんと、俺が目のやり場に困る。


 ……まあ、平気で青かんしてるエルフと、そんなに変わりはないが。



「何も悪いことしてないのに、そんな物つけたくない!」


「だ・か・ら、胸や股間はさらすもんじゃないの!」


「そんなの知らない!」


 二人の言い合いに俺が割って入る。


 一般常識を押しつけても平行線のままだろう。俺は、ひたすら頼むことにする。


「すまんシレーヌ、せめて水着だけでもつけてくれ。男は裸の女性が近くにいると、セ……子作りしたくて我慢できなくなるものなんだ。もし神怪魚と戦う時に、シレーヌの裸に目が向いたら、男達は誰も戦えなくなる」


「うー……そうなんですね? 分かりました。今は子作りする時じゃありませんから、勇者様の言うことを聞きます」


「シレーヌ、『ぶらじあ』は、いいものだ。乳が揺れなくなって動きやすい。これなら十分戦える!」


「アマラちゃんがそう言うなら、つけてみるわ!」


「マジ助かる。フローラ、スポーツブラを作ってやってくれ」


「ええ」


 ゴムの発明により衣服も進歩していた。


 特に女性下着の製造開発は狂乱状態で、色や形で毎日大騒ぎしている。


 ヘスペリスの女性達はインナーファッションに夢中だった。


 胸に布を巻くだけだったのが、つり下げ型ブラジャーが作られて一気に広まる。


 シルク製は大人気、常に品薄で女性達の争奪戦は凄まじかった。


 嫁から急かされて、男達は養蚕ようさんにはげむしかなくなり、桑の木の植林も盛んになる。


 ちなみにかいこのフンは良い肥料になります。


 二人はブラジャーを気に入ってくれた。



 そしてアマラとシレーヌには、道具と機械の使い方を教える。


 最初はひっくり反るほど驚かれるが、これから一緒に生活するので、慣れてもらう必要があった。


 二人が知識を覚えるのは早い。こうして見ると亜人は頭が良く、適応力があるようだ。


 俺の他に、リンダやハイドラに世話役を頼み、騒ぎを起こしてもある程度は目をつむるように言ってある。


 フローラやロリエだと真面目すぎるので、喧嘩になってしまうのだ。


 今日もアマラとシレーヌは豪快に飯を食っていた。ナプキンは必須である。


 ナイフやフォークは使えないので、肉と野菜と魚の串焼きをあてがう。


「美味いのだ! 味が全然違う!」


「そうだね、アマラちゃん!」


 味付けして下ごしらえをした料理を、食べたことがなかったのだろう。


 塩以外の調味料はなかったようで、二人は喜んで食べていた。



 食い終わる頃、俺はアマラに話しかける。


「明後日にはニュクス湖に出発する。それで二人には案内を頼む、それと獣人族の長老と会って話がしたい。神怪魚と戦うにしても、他所よその土地では許可がいる。異界人エトランゼの俺が勝手なことはできないからな」


「……アマラ分かった。海彦をタタに会わせる」


 アマラは嫌そうな顔をしていたが、あきらめたようだ。


 村から家出したと聞いたので帰りにくいのも分かるが、仲立ちしてもらわない事には、話は進まないのだ。


 あとは俺が長老を説得するしかない。ただ獣人は強そうなので、会うのは正直怖い。


 いきなり、噛みつかれたらどうしよう?


 そこで俺はある贈り物を用意していた。

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