第7話 戦うしかない!

「くそっ! 手間のかかるお嬢様だ!」


 俺は海に飛び込む。


 伊達にライフセーバーはやってない。人を助けるのは当たり前。


 泳ぎは得意で、国体に参加したこともある。

 穂織にたどりつくまで、時間はかからない。


「おい、しっかりしろ!」


「……う、うう」


 声をかけると、意識はあるようだった。


 お嬢様は救命胴衣ライフジャケットのおかげで、海面に浮かんでいた。


 俺は穂織を後ろから抱えこみ、叔父の船へと向かう。


 気を失ってくれたのは幸いだ。パニクって暴れられたら助けようがない。


 だが、そうは問屋がおろさないようだ。


 目の前に化け魚が迫って来ており、穂織と一緒では逃げられなかった。


「くっ!」


あんちゃーん!」

「うおおおおおおお!」


 けたたましい声とともに、叔父の船が横から突っ込んでくる!


 二人は俺を助けようと、猛スピードで化け魚に体当たりした。

 これには化け魚もたまらず吹っ飛ぶが、ボロ漁船も大破してバラバラになった。


「すみません……」


 非常事態とはいえ、船を失った叔父に対し、申し訳ない気持ちで一杯になった。

 漁師にとって船は命なのだ。


 弟と叔父は海に飛び込み、こっちに泳いでくる。

 それでも家族が無事なのを見て、俺は安心した。


「つかまれ――!」


 お嬢様のチームメンバーが、ゴムボートを出して助けにきてくれた。

 先にお嬢様を引き揚げさせ、次に叔父と弟がボートに乗り込む。


 俺は乗らない。


「どうした海彦!?」


「あいつを仕留めないと、みんな助からない。叔父さん、俺は戦う!」


「兄ちゃん、無茶だ!」


「山彦、グダグダ言ってる暇はない! いくぞ!」


 俺は腰につけていたホルダーから、ダイバーズナイフを取り出す。

 刃渡り十二センチはある特注品。もちろん携帯許可は取ってある。


 海外に行くと決めた時点で、鮫と格闘するのは想定しており、知り合いの鍛冶屋さんに作ってもらったのだ。


 出来上がったナイフはかなり頑丈で、切れ味は鋭く折れはしない。

 腕は超一流の名工だ。


 最初に戦う相手が化け物とは思っていなかったが、やるしかない!


 逃げようとすれば、絶対にやられるだろう。

 俺はナイフを口にくわえ、泳いで奴に立ち向かう。


 化け魚はまたもや大口を開いてむかってくる。

 鋭い歯を見ると、やはり恐い。


「俺は負けん!」


 勇気を出して、己を奮い立たせる。

 俺はライフジャケットを脱いで、化け魚に投げつけた。本気で泳ぐには邪魔なのだ。

 ジャケットは上から被さるようになり、奴の視界を奪うのに成功する。


 化け魚はかぶりを振って、邪魔な服を振り払った。


 すでに俺は奴の目の前から消えている。その直後、


「ビンギャ――――!」


 化け魚が悲鳴を上げた。鳴き声は痛みによるもの。


 俺はライフジャケットを投げつけた後、潜水して化け魚の胸びれにつかまったのだ。

 下からナイフを突き刺して、俺は奴の長いひれにしがみついている。


「お前ら獰猛どうもう魚類の武器は、鋭い牙だ。噛まれたらあの世行きだが、体にしがみついてしまえば、噛みつき攻撃はできまい。さあ、根比べといこうか!」


 化け魚は暴れ出し、俺を引き離そうと高速で泳ぎ、ジャンプを繰り返す。


 俺はナイフを両手で握ったまま、くらいつく。


「離してたまるかー!」


 刃は深く食い込ませたので、そう簡単には外れない。

 あとは握力と体力が続く限り、俺は頑張る。

 

 その間に、化け魚はドンドン血を流していた。


「……青い血かよ。鳴いたことといい、やっぱりコイツは化け物だ」

 

 俺は耐えて、耐えて、時間が経つのをひたすら待っていた。

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