第1話 見つけた! これが私の【魔女鉱石】? ②
***
次の日の夕方、すべての授業を終えたアナスタシアとフローレンスの二人は森を散策していた。アナスタシアは早歩きで、どんどん森の奥深くまで行こうとする。フローレンスは時々足を止めて、その度に先を歩いていくアナスタシアに呼び掛けていた。
「もー、アナスタシアってば! 何でそんなに急いでいくの?」
「だってあんなに大きな流れ星、きっと他の誰かも見たはずよ。それなら、違う人も探しに出ていてもおかしくはないでしょ? 何が何でも、その人より先に見つけないと」
「でも……私、ちょっと疲れたぁ」
その言葉の通りフローレンスは疲れ切った様子で、苔のむした木の根元にくたりと座り込む。アナスタシアはそんなフローレンスを見ながら、大きくため息をついた。
「だから、一人でも大丈夫って言ったのに」
授業が終わった後、身支度を整えて森に行こうとするアナスタシアを、フローレンスは「危ないよ?」「やめたほうがいいんじゃない?」と何度も引き留めていた。それでも頑として「森に行く」と繰り返すアナスタシアの背中を追っかけているうちに、なし崩しにフローレンスも【魔女鉱石】の探索に加わってしまった。
「でも、もしアーシャが森の奥まで行っちゃって……帰ってこなかったらって思うと怖いんだもん」
さみしがり屋なフローレンスは、しゅんとうつむいて小さくなっていく。
「もう、フローラの心配性! 私この辺見てくるから、フローレンスは少しここで休んでて」
「一人で大丈夫?」
「だいじょーぶ! 私は魔女よ!」
胸を張ったアナスタシアはさらに森を進んでいく。深緑色の葉が生い茂り、陽の光はそれに遮られてしまう。落ち葉によってふかふかになった地面を蹴るように進んでいくと、キラリと反射する光のようなものが、目の端に映った。その光に気づいたアナスタシアも、その方角を向いて目を凝らす。すると、キラキラと森の奥で何かが光っているのが見えた。
「あれ、もしかして!」
ツルのような雑草に足をとられながらも、アナスタシアはその光の方向へ一目散に走っていく。近づいていくたびに、徐々にその光の強さは増していき……森の奥、大きく開けた、太陽の光が差し込む場所までたどり着いた。
「なに、あれ……」
驚きのあまり、うまく声が出ない。
そこには、今まで見たことのない大きさの紫水晶が地面に突き刺さるように立っていた。アナスタシアの背丈よりもずっと大きいそれに、おそるおそる近づいてく、その紫水晶はアナスタシアよりも大きく今まで見たことのない輝きを放っていた。
「これが、あの【魔女鉱石】なの? ……お、大きくない?」
アナスタシアの独り言は、静かな森に響き渡る。今まで書物や絵画で見てきた偉大なる魔女たちの【魔女鉱石】は、彼女たちの手のひらで収まるような大きさだった。皆、それをネックレスにしたりピアスにしたり、それぞれ好きな形で加工していた。こんな大きさの【魔女鉱石】があるなんて、どこにも描かれていない。
「もしかして、初めはこれくらいの大きさだったとか……?」
そっと、手を伸ばす。指先がその紫水晶に触れると、ほんのりあたたかい温度が伝わってきた。まるで……そう、例えるならば人間の体温みたいな。石だから冷たいと思い込んでいたアナスタシアは、少し驚いて息を飲む。
しかし、それ以上の衝撃がアナスタシアを待っていた。
「え、あ……きゃあ!」
紫水晶の内側から、淡い光が灯る。それはだんだん強さを増していき、目を開けていることができないくらい眩い光を、紫水晶全体が放っていた。その光に包まれるアナスタシアも、ぎゅっと目を閉じる。その光は森全体を覆い、やがて……ふっと消えた。光が消えたと思ったら、今度はガラガラと何かが崩れ落ちる音が聞こえてきた。アナスタシアがおそるおそる目を開けると、紫水晶は少しずつひびが入り、砕け、その破片が地面に落ちていく。
「どうして? な、なんで?!」
壊れてしまったと慌てるアナスタシア。砕け散ったはずの破片は地面に落ちるとすぐに砂のようになって、風に乗ってサラサラと消えていく。戸惑いを隠せないアナスタシアが足元から顔をあげ、真正面にある紫水晶をもう一度見た。
「……え、え、えぇえ!」
アナスタシアの叫び声が、空に吸い込まれていく。
視線の向こうにある紫水晶、その奥深くに……人間の、しかも一糸まとわぬ青年の姿が見えたのだ。石はさらにボロボロと崩れ、その青年の姿が徐々に近づいてくる。そして、あっという間にあの大きかった紫水晶はその形を失い、中からは完全に「彼」が姿を現した。
「えぇええーーーー!!!!」
先ほどとは比べものにならないアナスタシアの大きな叫び声が、森を突き抜けて魔女の園まで響き渡る。森にいた鳥たちも驚いて、慌てるように飛び立っていった。
「アーシャ、大丈夫!? どうかしたの?」
先ほどからの騒がしさに気づいたフローレンスも近づいてきた。そして、戸惑い汗をだらだと流すアナスタシアと何も着ていない男の姿を視界に入れると……。
「き、き、き……きゃーーーー!!!!!!」
フローレンスはアナスタシアよりも大きな叫び声をあげる。そしてその場にひっくり返るように倒れ、こてんと意識を失っていた。
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