1-09 女の子は山へ柴刈りに
薪拾い。別名、柴刈り。
昔話ではほぼ一〇〇%のお爺さんがやっているアレである。
そしてお婆さんは川へ洗濯に。
そんな昔話も、そのうち自称“女性の権利を守る活動をしている人たち”が改変してしまうのかもしれない。『女性だけに家事を云々』とか言って。
どっちも仕事。それで良いと思うけどねぇ……。
まぁ、それはともかく、柴刈りである。
言うのは簡単だけど、実際にやるとなると、なかなか大変、らしい。
曾お婆ちゃんに聞いたところによると。
まず山に向かい、適当なサイズの木を切ってくる。
それを適当な長さにカットして、薪として使えるサイズに斧で割り、軒下に積み上げて乾燥させること一年。やっと薪として使えるようになる。
お風呂や竈、暖房にも使うとなると、大量の薪が必要になり、自動車も無かった時代にはかなり重労働だったとか。
もちろん、他人の山で勝手に木を切ると犯罪なので、自分の所有する山まで行かないといけないし、遠ければ運んでくるのも大変。
自動車が無い時代には、牛に荷車を引かせて丸太を運んできていたんだって。
ここだと、この神社がある山全体が鎮守の
一応、『無茶な伐採はやめてね』とは頼まれたけど、わたしだって無駄に環境破壊するつもりは無い。
必要なだけしか切らないし、わたしの場合はある程度、魔法や道具で代替できるから、そこまで薪も必要ないと思う。
ほどよく間伐するぐらいで十分に足りるんじゃないかな? うん。
わたしは家の裏手に回ると、森の中に足を踏み入れる。
人が全く入っていないためか、獣道すら無いので、ストレージから引っ張り出したデュランダルで適当に下草を払いつつ歩を進める。
そう、デュランダル。伝説的な武器がアレした感じの、良い感じな剣である。
その価値を考えると非常に勿体ない使い方だけど、わたしには関係ない。
万が一破損しても予備は何本もあるし、そもそもこの程度で破損するなら、完全に名前負けだろう。
灌木に負けて欠けるデュランダル――ありえないね。
ヒノキの棒、最強かって話になっちゃうよ。
「まず探すのは、枯れ木かな?」
本来であれば生木を切って乾燥させる必要があるわけだが、たちまち使えるような薪も欲しい。
具体的には、囲炉裏でお魚を焼きたい。
囲炉裏で串に刺したお魚を焼くとか、高級旅館っぽくてなんか憧れ。
ただ、落ちている枯れ枝だけだとあんまり数が集まらないから、腐ってない倒木でもあれば良いんだけど……。
「あ、この木は良い感じに立ち枯れ?」
見つけたのは、幹の太さは三〇センチほどの立ち枯れた木。
高さも一〇メートル程度はあるかな?
周りの木々が緑の葉っぱを付けているのに対し、この木だけは枝が残るのみで、枝先を見ても芽吹いている様子も無い。
虫でも入って枯れてしまったのかもしれない。
キノコも生えてないし、腐っては……ないよね?
よし、これにしよう。
「――えい!」
ドガッ、バギ、メキメキメキッ、ドサ。
「うわっと! …………おおぅ。想定外」
本当に枯れているのかの確認のため蹴ったつもりが、木は一蹴りで見事に根元から折れる。
そのままわたしに向かって倒れ込んできたので、慌てて避けた。
「腐っていた……わけじゃないよね」
折れた根元の断面を見ても、虫食いも無ければ腐っている様子も無い。
かといって、触ってみても湿っている感じも無いので、枯れていたことは間違いなさそうだ。
……病気か、根っこがやられたのかな?
しかし、多少力は入れていたけど、まさか簡単に折れるとは。
試しに倒れた木を持ち上げてみると、案外簡単に持ち上がってしまう。
「これは……、慣れるまで気をつけないとマズイ、よね?」
階段落ちを無傷で披露した段階である程度気付いていたけど、思った以上にこの身体、性能が良い。
意識してやる行動なら問題なくても、『硬そうだから思いっきり叩こう』とか『重そうだから頑張って持ち上げよう』とか、そういう感覚的な行動の場合は少し気をつけないと危ないかも。
「でも、ま、良い感じの薪が手に入ったのはラッキーだね」
わたしは倒れた木から枝を払い、デュランダルを使って三〇センチほどの丸太に加工する。
できた丸太はそのままストレージへ。
普通に考えて、剣で木が切れるわけがないんだけど、さすがはファンタジーと言うべきか、まるで厚みがない剣でも振っているかのように、スッパリと両断できてしまう。
便利だから良いんだけどね。
そんな聖剣の威力(?)は素晴らしく、結構なサイズの木だったにもかかわらず、そのすべては数分ほどで丸太に加工されてストレージへ格納された。
「さて、囲炉裏だけならこれで当分保ちそうだし、後は生木でもいいかな?」
わたしは軽く伸びをすると、再び薪を求めて歩き出した。
◇ ◇ ◇
それから更に一時間ほど。
わたしは森の中を歩き回って、枯れている木や切り倒しても惜しくなさそうな木を間引き、ストレージへと格納して回った。
人の手が入っていないからというのもあるのか、枯れてしまっている木がそれなりに見つかったのは予想外だった。
大きくて綺麗な木を育てるためには間伐が必要と聞くし、生存競争に負けてしまった木なのかな?
「おかげで薪に困らずにすむのはありがたいけどね」
程々で柴刈りを切り上げて家に戻ったわたしは、ストレージに入れておいた丸太を薪へと加工していく。
丸太はデュランダルでさっくりと加工。
ポン、と空中に投げた丸太が一瞬で八等分できたときには、自分でやっておきながら一瞬呆けてしまった。
ジョークでやってみただけだったのに……予想外である。
そんなこともあり、枝打ちした枝に関しては、自分のスペックの確認も込めて、適当な長さに手で折っていく。
自分の腕よりも太い木が、あっさりと折れる事にちょっと
「う~ん、次は、鍛冶をやってみようかな?」
作るのは、囲炉裏の自在鉤にぶら下げられるような鍋と鉄瓶、それに竈で使える羽釜。
ストレージから取りだした鉄のインゴットを、携帯炉で熱してハンマーで叩いていく。
通常、携帯炉を使えばマイナス補正が付くのだが、所詮は日用品なのか、わたしが思った通りに形を変えていく鉄。
初めて作るはずなのに、勝手に手が動くような感じで、見る間に鍋ができあがってしまった。
なかなか良い出来。自分が作ったことが信じられないくらいに。
裁縫はまだやったことあったから違和感も少なかったけど、生まれて初めての鍛冶がこんなに上手く行くなんて、ある意味、ちょっと怖い……そのうち慣れるのかなぁ?
引き続いて鉄瓶と羽釜を作りあげ、鍋と羽釜の蓋は木で作製。
こちらも例の如く簡単にできあがる。
「……まぁ、羽釜はあってもお米は無いんだけどね」
落ち着いたら人里に下りて、お米を手に入れたいところだけど……この世界のお金、無いんだよね。
手持ちの何かを売るか、自分で田んぼを作るか……。
普通なら無理と思うことでもできそうなあたりが、なんとも、ね。
「どちらにしろ、ぼちぼち、でいいよね」
鍋と羽釜は竈に置いておき、鉄瓶には早速、井戸から汲んできた水を入れて自在鉤に引っかけてみる。
更に薪を囲炉裏にくべて、『ティンダー』の魔法で火を着けてみると……。
「むふふっ、良い感じじゃない?」
何か、雑誌とかに載っている、ちょっとお高い旅館の紹介記事に出てきそうな良い雰囲気。
周りに鮎の串焼きが刺さっていたら、更に完璧だよね!
「よし、次はお魚を……」
ストレージを検索。
「鮎は無かったかなぁ……?」
ゲーム中では『釣り』のスキル上げのために、結構魚を釣ったおかげで、多種多様な魚が何百も貯まっている。
それでもレベリングしていれば勝手に貯まるお肉に比べれば、ずっと少ない。
普通なら売ってお金に換えるんだろうけど、わたしの場合、ほら、姫プレイのおかげでお金があんまり必要なかったから……。
しかも趣味スキルの常として、釣ったお魚はあんまり高く売れないし。
ちなみに、ゲーム中で釣れるお魚には、現実にいるお魚と空想のお魚の二種類がいて、クロマグロなんかもストレージには入っていたりする。
なので、そのうち醤油が手に入ったらぜひ食べてみたいところ。
現実だと大トロとか食べる機会無かったし。
回転寿司の大トロ?
あれはたぶん、本当の大トロじゃないんだよ。
あんまり美味しくなかったから。あれなら普通にエビとか食べている方が――。
「鮎、発見! ……おっと、結構大っきいね?」
ストレージから見つけた鮎を取りだしてみると、そのサイズは思ったよりも大きかった。
スーパーで見る鮎って二〇センチぐらいだよね?
これ、三〇センチ超えてるんだけど。
でも、見た目は確かに鮎。
ちょっと戸惑いつつも、しっかりと塩をして串を打ち、囲炉裏に刺す。
「おぉ、良いじゃない、良いじゃない!」
更に二匹取り出し、それにも串を打って並べる。
「よしっ、完璧っ!! まさに憧れの高級旅館!」
なんちゃら映え。
スマホがあったら激写して、ネットにアップしているところである。
……いや、わたしのお腹的には一匹でも多い気がするんだけど、見た目が寂しかったので、つい。
食べられなければストレージに入れておけば良いしね。
「さて、わたしの庶民っぷりを披露したところで。焼けるまでは、竹細工、かな?」
炉端焼き、雰囲気は良いんだけど、焼き上がるのに一時間以上かかるらしいんだよねぇ。
その間、ぼーっとしているのも何なので、次の予定だった竹箒と熊手を作っておこう。
竹自体は、本殿の裏手に竹林があったのを確認しているので、家を出て、そこから何本か採ってくる。
後は、切って、削って、編んで……。
実際に作ったことは無くても、作り方はテレビで見たことがある。
その時は、秋だったか冬だったかに竹を切り出して、乾燥させて使うとか言ってた気がするけど、そこはスキルの不思議パワーに期待しよう。
わたしには今、必要なので。
おぼろげな記憶を頼りに、わたしの大工スキルが光って唸る――とまで言うと言い過ぎかもだけど、それでも魚が焼き上がるまでには、熊手と竹箒が一本ずつできあがっていた。
さすが大工スキルさん、万能ですね。
見よう見まね、『何となくこんな感じ』でも物ができちゃう。スゴイ。
そんな適当な感じで作り上げた熊手と竹箒はストレージに回収し、鮎のご機嫌を伺う。
途中で何度かひっくり返したので、良い感じに両面、黄金色の焼き色が付いて……そろそろ良い感じかな?
「では、いただきます」
手を合わせると、一本抜き取って一口。
「うまっ!!」
以前、旅行先で食べた、観光地補正付きの鮎の塩焼き、それよりも数段美味しい。
一匹目を瞬く間に食べ終えたわたしは、すぐに二匹目に取りかかる。
でっかい鮎だけにお腹的には一匹でも十分だったけど、我慢できず二匹目も平らげる。
「やっぱ美味しすぎる。――午後からはお掃除するつもりだったけど、予定変更。料理用のコンロを作ろう!」
囲炉裏と使い勝手の悪い鍛冶用の携帯炉では、料理のバリエーションが少なすぎる。
もっと使い勝手の良いコンロを作らないと!
わたしの豊かな食生活のために!!
コンロのような魔道具は錬金術の分野で、もちろんわたしの錬金術スキルはカンスト。
ゲーム中ではレシピの無いアイテムは作れなかったけど、ここはゲームではないし、錬金術の知識は頭の中にインストール済み。
コンロの作製も不可能では無いはず!
――それから数時間。
わたしは夜の
見た目は木の板にはめ込まれた金属の板。
そこに魔力を送ることで発熱し、火加減の調節も可能。
外見は非常にシンプルながら、最低限の機能はしっかりと備えている。
機能としてはハロゲンヒーターのコンロと同じなので、調理セットに含まれていた各種お鍋も問題なく使える。
つまりは、大半の料理はできるようになったって事。
そしてそれは、その日の夕食で早速活躍したのだった。
今度はオーブンも作らないとね。
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