永遠になりたい

━━出会ったのは、私が最後だった。


司と智くんと和くんは、近所だから幼稚園に上がる前から一緒だった。

私は小学一年生のときに転校して来たから。


□□□□□


━━真っ暗な自宅。靴を脱ぎながら、昔を思い出していた。


□□□□□


ずっと1人だった。司たちが話し掛けてくれるまでは。


転校初日、挨拶もそこそこに、宛てがわれた席に座っていた。


「やあ、私は司。恵理と呼んでいいかい?

「俺は智久だよ」

「俺は和久」


小学生で既にキレイな顔立ちの男女に声を掛けられた。

中性的な司、優しい面影の智くん、同じ顔だけど快活そうな和くん。

こんな三人に私が釣り合うなんて思わなかったから、何も返事できなかった。でも、私が反応するまで毎日話し掛けてくれて。

いつしか、一緒に行動するようになった。


幼稚園で既に仲間外れや虐めを経験し、幼くして、独りでいた私。

私のすべてを変えたのが司たちだった。


だけど、私にコミニュケーション能力なんてものはなかった。人見知りで、仲良くならなければ話すことも出来ない。所謂、コミュ障ってやつ。

だから、司たち以外とは上手くいかない。

司は先生たちに信頼されていた。

智くんだって、学校に行けていたら人気者だったろう。小学校では誰よりもモテた。

和くんはクラスの人気者であり続けた。


私は知っているの。

司たちがいない時、これ見よがしに蔑む声を。


『何であの人が一緒なの? 』

『釣り合わない』


それらの声を聞くのを止めた。

雑音に切り替えた。

司たちがいればいい。


……4人でずっといられるって信じてたのに、私は知らなかったんだ。私だけ。

智くんが不治の病だったなんて……。


どうしたら変わらずにいられるのか。

ずっと、ずっと一緒にいたい。


□□□□□


「試して……みたくなったの。なのに、疑いもしないで聞いてくれた。信じてたよ? 信じてたけど」


司たちがいたから、何だって耐えられた。

辛いなんて思わなかった。

……あんなに、心配してくれた。

嬉しいな、嬉しいな。


……智くんはいなくなったけど、私たちの中にずっといる。忘れたりしない。


□□□□□


━━ボーンボーンボーン……。


柱時計の音で目が覚めた。

いつの間にか、制服のままでねむっていたみたい。

スマホの画面をつけた。


━━0時。


いつもこの時間に覚醒する。

お父さんとお母さんはまだ帰って来ない。

毎日朝5時には家を出るのに、夜中の2時過ぎにしか帰って来ない。

何かの研究をしているらしく、休んでいるようにも見えない。

幼稚園の時は起きていられなかったけど、小学校に上がって、二年生くらいかな。

淋しくて起きて待っていたことがあった。


『やだ、起きてたの? 寝坊しちゃうから寝てなきゃダメよ』


お母さんに窘められたけど、その日は遅刻してしまった。

先生に聞かれたけど、答えなかった。


「珍しいな、いつも誰よりも早く来る恵理が」


つい司に話した。


「だったら、うちに来るか? 」


優しい申し出だったけど、断った。

帰って来て、私がいなかったから困るだろうから。

もしかしたら、研究所に篭っちゃうかもしれない。

だから、数時間だけでも私の顔を見て貰えるように断ったの。


……けど高校生になったら、更に忙しくなったとかで、研究所に篭ることが増えた。

誰も帰って来ないうち。

私が学校に行っている間に何回か帰ってきては、食費が置かれ、掃除がされていた。

今更、司のうちに厄介にもなれなくて。


「……智くんは"永遠"になった。私も"永遠"になりたい。きっと私のことも忘れないでくれる。……だって、司たちがいるから平気だった虐めに、本気で怒ってくれたもん」


暗がりの中を探り、私は引き出しに入れていたライターを取り出す。

お父さんの忘れ物。


本棚の一角。

うちにいられないからって買ってくれた、思い出の絵本たちを床に置く。

小さい頃、毎日1冊ずつ、枕元に置いてくれていた。

白雪姫、赤ずきん、シンデレラ、三匹の子豚。他にもたくさん。

一つずつ、一つずつ、火をつけていく。

燃える度に、真っ暗な部屋が明るくなっていく。


「一緒に、"永遠"になろうね」


すべてに火をつけ終わる頃には、部屋中が眩しく、火が炎になって、音を立てていた。


「けほっけほっ」


煙が苦しい。


「"永遠"になるのって、くるしい、な。智くん、笑顔だったけど、くるしかった、ろう、な……」


お見舞いに行くたびに、優しい笑顔で迎えてくれた。

私1人で来ても優しい笑顔で、優しい言葉を掛けてくれた。

くるしいって、つらいって、かなしいって言わずに。

死ぬって、私が知る前から知ってたはずなのに。

強いなあ、智くん。私は弱いままだよ。

智くんたちがいなかったら、どうなってたかわからなかったし。


"ありがとう"。


……ああ、智くんの最期の"ありがとう"の意味、今分かったかも。


私は薄れゆく意識の中で、智くんが最期にいった、"ごめんね、ありがとう"を繰り返した。


(私は"永遠"になる。私を見つけてくれてありがとう。司、和くん。私も2人の中で……)

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