CASE.3-28

 夜の11時過ぎ、いつものように友達とカラオケに興じて遅くなった帰り道。

 街灯の明かりに照らされながら萌絵はのんびり帰宅していた。というのも手元の携帯電話でメールに夢中になっていたのだ。

 ちゃんと周囲に気を配っていなかったものだから、交差点で何者かが走ってくる姿を目視できなかった。

 気が付いた時には相手は目の前をかすめて走り去っていた。

(危うくぶつかるところだった、もしかしたらケガだけでは済まなかったかも)

萌絵は一瞬の反省の後、走り去っていく少年の後ろ姿を見た。

 なんてことのないどこにでもいるジャージ姿の同年代と思われる少年がトレーニングに勤しんでいた。だからと言って特段の興味など示さない。

 萌絵は年上が好みなのだ。

 再び歩き始めているとメールの着信音が聞こえてきた。つい数秒前に反省したはずの行為を繰り返し、彼女は再びメールに興じ始めた。

 「痛い!」

 案の定、前から歩いて来た青年とぶつかり、同じタイミングで腰を着いた。

 「申し訳ない。肉まんがあまりにおいしくて前を見ていなかった」

 どんな言い訳かと萌絵は相手を見る以前から青年に興味を抱いた。

 青年は口いっぱいに白い生地を頬張って倒れていた。手にはパンパンになっているコンビニのレジ袋を持っていたのだ。

 「肉まんってまだあるんだ」

 もうすでに5月、季節は初夏だ。萌絵は単純に中華まんのイメージを言ってみただけだった。

 「よかったら一つどうぞ」

 青年は袋を漁って紙袋を手渡した。

 これが二人の最初の出会い。

 世界はあるべき姿を再構築し、何事もなかったかのように時は駆け巡る。世の必然はいつも流動的であり、必定はないのだ。

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