第22話

「あ、あの時の白バイ隊員」

「な、なんだよ…」


 自分の所属を言いあてられて戸惑う哲平。


「お前、誰だ」

「このまえ、湾岸道路で自分のシルバーのXJRを止めたでしょう」

「えっ…あ、お前はペケジェー」

「あら、ふたりとも知り合いなの」

「とんでもねぇ。ペケジェーならなおのこと、翔子と付き合うなんて言語道断だ」


 哲平はむきになってそう吐き捨てた。


「勘弁してよ、兄ちゃんが何言ったとしても、私には関係ないわ」

「ちょっと待ってください。そのマークに何か特別な意味があるんですか…」


 達也の問いに、今まで哲平の陰に隠れていた次郎が、遅ればせながら会話に参加してきた。


「交差するふたつの雷に梅…。雷、雷、梅。ライ・ライ・バイ。俺たち『暴走集団ララバイ』の神聖なマークだ」


 その答えを聞いて、達也は思わず小さく吹き出した。哲平はそれを見逃さなかった。


「ペケジェー、貴様、笑ったな」

「副長さんだって自分の免許見て笑ったじゃないですか」

「なんだとぉーっ!」

「ちょっと、やめてよ。どうしたの、ふたりともむきになって…」


 翔子は達也と哲平の間に割って入った。


「だいたい、なぜ自分は翔子さんと付き合ってはいけないんですか」


 さらに詰め寄る達也に、哲平は薄笑いを浮かべながら答える。


「お前にはこのマークのジャンパーを着る資格が無いからだ」

「資格ってなんですか」

「団長が作ったララバイコースを、4分以内で走りぬけられる男しか、このジャンパーを身につけることができないのだ!」


 次郎の答えにあわせて、哲平は指を立てて、久しぶりの『夜露死苦』ポーズを取った。


「バカバカしい、あんた達いつまで団の掟にこだわっているのよ。いい加減大人になったら」


 達也は腕をくんで、哲平の前に立ちはばかった。


「自分にそれが出来ないと言うんですか」

「あんな走りじゃ、まず無理だな」

「やってみなきゃ分からないじゃないですか」

「ちょっと達也さん。あなた、なに言いだすの…」


 慌てて達也の腕を取って制止する翔子だが、彼は言うことを聞かなかった。


「自分が出来ないと決めつけないでください」

「言ったな、ペケジェー。なら、もし4分で走り抜けられなかったら…」

「潔く身を引いて翔子さんの前から消えますよ。でも、走り抜けられたら…」

「翔子とペケジェーの交際を祝福するお祝いに、団長から引き継いだこのキャプテンジャンパーを進呈してやる」


 哲平は、自分の着ているジャンパーの左腕を示した。そこには、はっきりとゴールド二本線のキャプテンマークがはいっていた。次郎が着ているジャンパーとは明らかに違う。

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