妖王~なんとしても王座を譲りたい男の戦い~
柚木現寿
序章
パタパタパタッ。
通学用のローファーが乱暴にアスファルトの地面を蹴る。
全力疾走するには向かないローファーに少し靴擦れしている気配がしたが、それでも足を止めるわけにはいかなかった。
夕暮れ時。もうすぐ日が完全に落ちて、完全な闇が訪れる。
そうなれば終わりだということを、俺は無意識に感じ取っていた。
そう、夜はあいつらが活発になる時。
そして夜目の利かない俺にとっては間違いなく不利な状況だからだ。
走るスピードを落とさずに一瞬だけ後ろを振り返る。
「――っ!」
そこにあったのは黒い霧の塊のような物。その先端に、絵に描いたような恐ろしい鬼の顔がついていた。
得体のしれないその何かは、確実にまだ自分を追ってきていた。
「くそっ!」
もともとそんなに体力のある方ではない。
中学までは剣道部に入っていたが、高校に入ってから部活はやめた。
体育の授業くらいしか運動する機会のない身体はもうとっくに悲鳴を上げている。
それでも追いつかれたらどうなるかわからない。
恐怖から逃れるために、最後の力を振り絞って足を動かした。
この先には俺の住む町、柏木町でもっとも大きく歴史のある大杉神社がある。
そこに行けばきっとなんとかなるはずだ。
何とかなってくれなければ困る。
(そもそもの原因は、絶対あの神社なんだからな……!)
ゴオオオオッ!
背後から獣の様な咆哮が聞こえるたびに心臓が冷える。
「ああもう!なんで俺、あんなことしちまったんだ!」
今後悔しても遅いと思いながらも、昼間神社でしてしまったことを後悔せずにはいられなかった。
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