花火

(※読み方に違和感を感じた時は「本小説の読み方」をご覧下さい)


ピー …

ピー ポー …

ピー ポー ピー ポー

ピー ポー ウゥーゥ「この先赤信号ぉ△×%…」

ピー ポー ピー ポー

ピー ポー …

ピー …



また救急車が通り過ぎていく。


もう何度目かわからない。


近くに病院があるからなのは、わかってる。


もう四十分も待っているのに…


ふぅと吐くため息、何度目かな。

ため息ばっか、何度目だろ。


ダイキのやつ。

カナのやつ。


いっつも、時間どおり来るのに。

いっつも、来るの遅いけど。


私が遅刻したからってあいつまで

俺がスマホ調子悪い日に限って



こんなに遅れるなんて…


     た

    っ ま

   あ   に

ほんと     くる!!

   あ   に

    っ ま

     た


ダイキの方から、この場所に呼び出しておいて。

別れるとか脅すから誘ったのに。


見てよ。

見ろよ。



ベルビュー・シティの時計塔の下。


七時、時計からアヴェ・マリアの音楽が鳴るまでに。


こんなわかり易いところないでしょ?

誰だって間違えようがないぞ?


ほら、さっき来たあのだって

帽子のヤツなんて、今来たばかりなのに


もう彼氏にハグ。

もう女と手握ってる。



お互いにプレゼント持って…


だいたい、いっつもケンカしてる


私たち。

俺たち。



共通点なんてあったっけ?


黙ってばっかしだし。

ずっとウルサイし。


いつも待てないし。

買い物は長いし。


ガニ股で歩くし。

まっすぐ前見ないし。



それに


私のこと、大事にしないし…

最近、俺のこと見てないし…


クリスマスぐらいは一緒にいよう?

夏の花火をドタキャンした時から


夏の埋め合わせのつもり?

様子がおかしいと思ってた。


謝ってすむんだ。そう思ってるんだ。

あんなに謝ったのに、まだ足らないのかよ?



だいいち時間も守れないくせに…


こんなところで待たせるなんて。

こんなところで待たせやがって。



なんてヤツ!!


絶対、許さない!

絶対、謝らない!




……


………



来ない。


なんか疲れた。

めっちゃ寒いんだけど。


甘い物ほしい。

温ったまりてぇ。


やっぱスタバ。

タリーズあった。


「ピスタチオ フラペチーノください」

「バニラ・ソイラテ」


う~ん、美味しい♪

ふぅ…生き返る。



あっ!


あっぶない、こぼす所だった。

やっべ、落とす所だった。




何で持ってきたんだろう。


ダイキがショップでずっとで見てた

カナがカワイイって言ってた


黒いマフラー。

クリスタルのクマ。


どこにでもありそうな物なのに

ゲーセンの景品レベルのものだけど


買っちゃった。

つい…



どうせ渡さないのに…

どうせ受け取らないのに…




カラーン、カラーン

カ ラ ー ン、カ ラ ー ン

ラ ー ン ラ ー ン …

ラ ー ン …



Jingle bells Jingle bells

Santat Claus is comming to town



八時の鐘…時計の音楽か…


あれ?

え?


あれれ!?

えぇぇ!?



「アヴェ・マリア」じゃない!!??


え? え? 何?

なん、なんで??


やばい、意味わかんない! どうして?

え、ここ。時計台じゃん!!


ちょ、ちょ、ちょっとすみません! タクシーさん!

ねぇ! あなたです! 工事の人! 教えて下さい!



ここってアヴェ・マリアの流れる時計台じゃ…


えー? ここ昨日からこれだけど

えー? よくわかんねーけどさぁ


駅の出口ごとにあっからね、時計。

こっちは昨日もこの音楽だよ。


阿部なんちゃら、その駅ビルの向こうじゃない?

あんちゃんの言うのは、駅の反対側じゃね?




……


えぇぇぇぇ~~~ーーー!!!!!!



やばい!

やべぇ!



どうしよう!!


ダイキは悪いけど…

カナはムカつくけど…



さすがに、これはマズイ!


スマホ! スマホ!


あぁ~ー!! どうしてこんな時に限って


壊すのよ!

壊れんだよ!


ダイキのバカ! ど~やって連絡するのよ…

くっそー画面写れ! この! この!!


も~走るしかない! どこから入るのよ、駅ビルって!!

あ、あぁ! やった! 動いた! いい感じ!


あ、ゴメンナサイ! す、すみません!!

え? 再起動!?


も~人多すぎ!!

くっそー


あ、あった。このエスカレータ?

もー待ってられん! 走るしかない。


連絡用通路…これ乗ればイイっか。

はぁ、はぁ。反対側、反対側…


ふぅ…とりあえず、四階まで上がらないと。

ラッキー! エレベータで行ける!


………

時計台方面。あ! 四・七階の連絡通路!


………

あった。結構近いじゃん! よし乗っちまえ!


………

ゲッ! 七階まで直通! くっそー、待つしかない…


四階着いた! 連絡通路…連絡通路。

あ、そうだ。スマホ! やった! 起動してるじゃん。


え~看板多いんですけど。どこよぉ~ こっち! え?

えと、メッセンジャー、メッセンジャー…


うぁぁ、この通路、壁がガラス張り…人があんなに小さい…

…早く動け早く動け早く動け…


駄目! 怖い怖い怖~い!!

あ、七階着いた。すぐ連絡通路だ!


で、でも行かないと…壁触って…下見ないで行けば…

後はこれでカナに連絡できれば…


ブツブツブツ

おっと、通路が下まで透けて見えんのか。シャレてんな


見ない見ない見ない…

…え? あれ…カ、カナ!!?


コワクナイコワクナイ…

カナ! おい、そっちじゃない!


私は鳥…私は鳥…

こら、途中で通路が別れてるだろ! 右だって! 右! 聞こえないか…


今どれくらいだろう…

あ、スマホ! メッセージ打てる! 「止まれ、カナ!」


うぁ! 何か鳴った! あ、私のスマホ?

あ! カナのヤツ、目閉じてやがる!


い、嫌なのになぁ…目開けるの…ヒッ!

「戻れ、(´ー`)σじゃない」あっ!


え? ダイキなの? ナニこれ?

うわ、焦って変なの選んだ!


(´ー`)σ?じゃない?

再送!「そっちじゃない」


「イヤ、コワイ」

ったく!「戻れって! 戻って右だ!」


「エェ~~(涙)」

「早くしろよーん」うわ、また手元が…


「よーん」…「右? 戻っちゃうよ?」

「向きが違うだろ! 正面向いて!」


「…?(/≧◇≦\)?」

「くるっと回ってから、箸を持つ方へ行け」


「え? また戻るの?」

しまった、こいつ左利きだった…


「??(/≧◇≦\)??」

あっ! 画面が消えた! おい!


…ダイキ? ダイキくん? 「お~い」

くそー完全に死んだ…


既読付かない。「ダイキは~ん」って無視か…

そこ動くなよ! くっ、階段しかないか!


も~ヤケ! 何とか一人で行きますよ!

ハァ、ハァ、ハァ


あー怖い怖いっと。はい着いた!

ハァ、長い階段だ! ハァ、ハァ


着いたから下に降りればいいね!

つ、着いた…通路は…あっちか!


カナ! って、いないのかよ!


……(また迷った)

だ、駄目だ。見つけられる気がしない…


あ、お姉さん! ちょっと教えて…時計台。

と、とりあえず探しながら時計台に向か…え?


アヴェ・マリアの音楽が鳴る…そうそう!

な、無い…


え! 案内してくれる? やった!

無い!! あ…ああぁぁーー!!


・・

・・・



Ora pro nobis, nobis peccatoribus

Nunc et in hora



ハッ


ハッ ハッ


ハッ、ハッ、ハッ


ハァ ハァ


ハァ …悪りぃ、遅れた。


…それだけ?

…それだけ。


スマホはどうなってるの?

真っ暗。こんな感じ。


あれから、どれだけ待ったかわかる?

それ見れば。何杯目?


(三と、指を立ててやる)

寒いのによく、アイスばっかり飲めるな。


言い訳なし? 別れる前の嫌がらせ?

…そうなるかも。




これ、マフラー。いる? 欲しがってたから。


じゃ燃やしとく。あした燃えるごみの日。


…帰る。

あと五分。


イヤ、寒いもん。

あと四分半。時計台の方、見て。


もう聞いたし、九時の。バカみたい。

あと四分。


…無視すんなよ…なんか言えよ。

ゴメン。あと三分半。


すぐあやまる…私も遅れたの、知ってるくせに!

三分。


怒ってよ! 叱ってよ! ダイキのバカ、アホ、ガニ股!

二分。


自己中! 自分と仕事ばっか大事にスンナ!

一分


ちゃんと私を見てよ…

三十秒。


ゼロ。



Ave Maria

Gratia plena, Dominus tecum



ボン!! パララッッ ッッ



え?


え? ええ! ウソ!?


ダイキ! これ!?

花火。十時から五分だけ。


LEDだし、しょせんニセモノ。


わかるよ! けど!

夏の代わりにならないのは、わかってる。


でも別れるんなら、最後これだけ見せたくて。


ホントはメシとか食いたかったけどな、ハハ。


…(ダイキ)

どした? 震えて…寒いのか?


…(ダイキ)(ダイキ)

なんだよ。まだ怒ってるのか?


…(ダイキ!)(ダイキ!)(ダイキ!)

…ん、じゃあ。俺も帰るわ。風邪ひくなよ。


待って。

え?



…カナ?



ガシャン


え? 今の音…

あ…


ポケットの中…見せて。

えっ? あ、これ、ご、ごみだから。


見せて。

…はい。


…開けていい?

いいけど…


これ…潰れて…カケラ。クリスタルの?

そ、そう…さっきまでクマ


どうして?

…落とした、かも。走ってたから…


…ゴメン。


謝らないで。

…スマン。


要らないんだよね、これ?

まあ…


もらっとく。燃えないごみの日、明後日だから。

カナ…



マフラー、する?

…うん。


ん、似合うかも。じゃ、私も一緒に巻かれてあげる♪

あったけぇ。


花火、終わっちゃうね。

五分だけだから。


ねぇ、ダイキ。今度いつケンカする??

え! …しばらく止めとく。


へぇ~、じゃ私の話ちゃんと聞く?

聞いてるけど、一応。


買い物、長くても怒らない?

なるべく…


ガニ股で歩かない?

…努力します。


それに。

それに?


…私のこと、大事にする?

…努力します…精いっぱい。


ダイキ。

カナ。



メリークリスマス。





(花火 終わり)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る