春にとける、透明な白。

葵依幸

始まりで終わりのプロローグ

― まえがき ―


 青く、透き通った透明な色の冬の空は、傾き始めた夕日の色に染まっていた。

 手を伸ばしたところで届くはずもなく、——けれど、伸ばせば届くんじゃないかと思えてしまうほどに近くて、遠い。


 彼女のことを綴る上で欠かせない言葉は「彼女は作家であった」ということだ。


 僕が彼女を知ったその日から、そして、僕が彼女の「読者」になったその日から。

 彼女は最後まで僕にとっての作家であり続けた。作家として言葉を残し続けた。


 僕らの暮らすこの星に、何万憶かの確率で、巡り合ってしまった僕らの街の上に、宇宙を彷徨っていた隕石が追突すると知らされてからの一年。

 僕らはその事実を頭の片隅に、見上げた夜空の先に置きながらも、気付かないふりをして今日まで生きて来た。


「ねぇ、葉流君——?」


 いまはもう、その声を耳にすることは出来ないけれど。

 ――もしかすると、跡形もなく、僕らの存在は消えてしまうのかもしれないけれど。作家であり続けた彼女の言葉はこの世界に残り続ける。残ってほしいと思う。だから、僕は彼女の物語をここに綴ろうと思う。


 我儘で、自由で、傲慢で。

 それでいて卑屈で、不自由で、謙虚だった、長い黒髪の似合う、彼女の事を。


 そして、本格的に語りだす前に彼女の言葉を伝えておかなければならない。

 それほど大事ではないような気もするのだけど、時々、勘違いする人が現れるから。


『この物語はフィクションです。だから安心して読んで、安心して楽しんでください。』


 だそうです。


 では、彼女と僕との物語をお届けします。

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