第2話忍び寄る影

エゾ連合王国がある島をエゾ大島北海道という。

そのエゾ大島のほぼ中央に、ライジング岳、北カルム岳、ホワイトクラウド岳、ラブブラック岳という四つの火山を擁するラージスノー山がある。

ラージスノー山の盆地にダークエルフの国。マヤ王国があった。


ちなみにラージスノー山の南の麓にはエルフの国。アステ王国のあるトカツ大森林。

ラージスノー山の西の麓にはヒルエルフの国。ナイル王国のあるホースチェイス丘陵。

トカツ大森林とホースチェイス丘陵の南にシーエルフの国。サンゴ王国のあるウッチウラ湾がある。


卒業式を終えた六三四期卒業生は、アリエル六三四騎士団を結成した。

これより2か月をかけてエゾ連合王国4か国を表敬訪問するのが恒例行事だ。

行軍をしながら道中で魔物を狩るので、これも立派な軍事行動である。


もっとも、4か国全てを正式に表敬訪問するのは、騎士伯という爵位を受けたアリエルだけ。

他の卒業生は、祖国に着いた時点で除隊となる。


アリエル六三四騎士団の最初の訪問地は、ナコノレノレ兵学校のあるマヤ王国の王都ストーンハンター。

このあと南下してアステ王国の王都オッビヒーロー、南西に向かってサンゴ王国の王都トッマコーナイ。

そこから北にあるナイル王国の王都サーポロを訪れ、そこから東のマヤ王国の王都ストーンハンターを再訪する流れだ。


なお、卒業生主席の表敬訪問に最後まで同行し、卒業生主席の騎士団に所属することを希望する卒業生も出てくる。

アリエルは8番目とはいえサンゴ王国の王族。しかも既に騎士伯の身である。

有力貴族に嫁ぐより、有力貴族から婿を迎えて家を興す可能性の方が高い。

超優良物件。協定である4人の従者四天王の座を巡って卒業生の静かな戦いが幕を上げることになる。


- - -


マヤ王国王都ストーンハンターに疾風迅雷と書かれた旗幟が翻ったその日。

サンゴ王国にある港町クッシャロにある「エンジェル」という名前の店に一人の男が訪れていた。


クッシャロの「エンジェル」は、格調高い高級品から質素な棺袋。はたまた生前の仕事を表現する奇抜なものまで、棺桶つくって200年のお店。

店の主は棺桶造って150年。平均寿命が300年エルフからすればまだまだ若造と言っていいが、腕のいい職人のエルフ。名前を半蔵。

しかしそれは表向きの顔。裏では「死天使」と呼ばれる有名な暗殺者ギルドのギルドマスターである。


「3か月後。ワ国の船がここの沖で遭難し船員が漂着する」

そう言って男は半蔵の前に革の袋を置く。


「4カ月後、生存者を引き取りにワ国マツマエ領の猿辰瑠布衣えんたつ・るふいが来る」

「海賊宰相がか?」

半蔵は僅かに眉を動かす。

マツマエ領の猿辰瑠布衣といえば、サンゴ王国の沿岸を荒らす海賊集団ワ寇の元締めだと噂される男。

腕っぷしが強いからか、表向きでも何かと良くない噂の絶えない男だ。


「マツマエの領主さまも限界らしい。排除するそうだ」

「他国で要人暗殺の依頼だと?喧嘩でも売ってるのか」

半蔵から殺気が漏れると、男は慌てて頭を振る。


「殺るのはワ国の遭難者のひとりだ。貴殿にはお膳立てをして欲しい」

男は懐から紙の束とT字の鉄器を取り出す。

「指示書と「てつはう」という火魔法を封じたアイテムだ。水濡れに弱くてな。これを工作者に渡してくれ」

「そうか・・・」

半蔵は静かに頷いて紙と鉄器を受け取った。

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