第3話出会い

5年前・・・クッシャロ沖

夜の闇に紛れ、ニーダ族と呼ばれる魚頭人が波間に浮かんでくる。

やがてポツポツと波間に浮かぶニーダ族の数は10人。

静かに浜辺への上陸を果たす。


「時間は1時間。小遣い稼ぎは程々にな」

リーダーらしきニーダ族(外見で男女を区別することはできない)が命令するとパッと辺りに散る。


「さて・・・」

リーダーらしきニーダ族は背後にあった灰色の繭状のものに手をかける。

がこっという音がして灰色の繭状のものが双胴の船のように展開した。


今回の彼らの標的は村の端に住んでいる鍛冶屋を営むエルフと人間の夫婦の間に生まれたふたりの子の誘拐。

場所は依頼者から入手済みだ。


一般的に人間とエルフの間に生まれる子は例外なくハーフエルフ。

そしてハーフエルフと人間の間だと人間。

ハーフエルフとエルフの間だとエルフ。

ハーフエルフとハーフエルフの間だとハーフエルフが生まれるのだが・・・

エルフも人間の学者も否定しているが、ハーフエルフと親種族との間に生まれる子にはある俗説がある。

人間の丈夫さとエルフの魔法使いの特性を持つ容姿端麗な人間やエルフが生まれるというのだ。


どん


村の端で火柱が上がる。

やがて数人のニーダ族が二人の子を抱えて戻ってきた。

子はどちらもエルフ特有の金髪にハーフエルフの特徴であるそこそこ長い耳を持っていた。


「派手にやり過ぎだろ」

「すまねぇ。親はどちらも冒険者上がりでよ」

「まあいい。さっさとガキを繭に詰めな」

ニーダ族は二人の子を双胴の船に投げ込むと元の繭船に戻し沖に送り出した。


現在


4か国の表敬訪問を終え、サンゴ王国に戻ったアリエルは、ワ国に近いハコダテという小さな町の領主に任じられ赴任していた。


「アリエルさま。城から至急の命令です」

アリエルに銀髪灰瞳のダークエルフが声を掛けてくる。

表敬訪問に最後までついてきて副官の座に収まったバーン・ギネスだ。


「明日の未明、この辺りを大型の低気圧が通過すると城の予報士が警報を出しました」

バーンから受け取った羊皮紙を見ながら報告を受ける。


「近隣の村と付近を航行する船舶に警告して回るのだな」

「はっ」

アリエルの言葉にバーンは小さく頭を下げる。


「お前たちは近隣の漁村に警告を。わたしは来訪予定のワ国の貿易船に警告を出してこよう」

「団長が直接ですか?」

「わたしなら夕方までには帰ってこれる」

アリエルは半馬半魚の海馬の身体を優しく撫でながら笑う。

実際、ワ国から提出された航海予定表からすれば、ハコダテ沖を通過する貿易船に接触して夕方には帰って来れる。


「では行ってくる。留守を頼むヒッポカンポスの用意を」

女王から下賜された半馬半魚の海馬の名を叫び、アリエルはその場を後にする。



アリエルが想定いた通り、昼三刻午後三時すぎにハコダテ沖を通過するワ国の貿易船に接触することに成功する。

バッ

アリエルは貿易船の右斜め前に位置すると空に向かって事前に通達している味方を示す光魔法を三発打ち上げる。

すると貿易船からも了解した旨の光魔法が三発あがる。

アリエルはヒッポカンポスを貿易船に近付ける。そして、背負っていた弓を構え、大型低気圧接近を告げる矢文を放つ。

暫くして、貿易船からランタンによる感謝を告げる光信号が送られてくる。


「よし・・・」

アリエルがゆっくりと船から離れようとしたとき、甲板に彼女を見に来ていた船員のなかに、一際センスのある洋服を着た少年を見つけ、目を奪われ二度見する。

大きな黒目と端麗な顔立ち。肩で切り揃えられたワ国人らしからぬ金色のおかっぱ頭にハーフエルフ特有のエルフより短い耳。

アリエルは一瞬でハートを鷲掴みにされるのであった。


-☆-☆-☆-


1万字以内を目標にしているのでアリエルパート以外は本編から外すかもしれないです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る