15:30〜17:00(3)
時刻は午後四時を少しだけ回っている頃。
釣りに来た人たちの車の横へと自転車を停める。
「今日はいっぱいおるねぇ〜!」
結衣が釣り人達を遠くの方まで見回しながら、うーんと背伸びをする。
そして、私と弟の方へくるっと向き直る。
「猫の岩のところ行こう!」
その言葉に私と弟は大賛成し、海沿いの岩の上をつたって早歩きで猫の岩へと向かう。
猫の岩とは、岩の形は別に猫では無いのだ。昔、そのとても大きな岩の端の方に仔猫と母猫がよく居て、自然に仲間内の中でその場所が猫の岩という名前になったのだ。
その仔猫と母猫はある日忽然と姿を消してしまい、それからは二匹の姿を見る事がなくなってしまったのが少し気がかりな思い出だ。
海を散策すると、色々な発見がある。
謎の骨が海岸へ打ちあがっていたり、謎の黄色い物体が岩のへこみに落ちていたり。
正体をいちいち突き止めなかった今となっては、もう全てが謎なのである。
夕方は海からのスーっと透き通るような風がとても気持ちがいい。キラキラと光を反射させる海も、夏になるといつも散歩をしに現れるおばちゃんと話すベンチも、遠くの堤防で釣りをするおじさん達も、全てが美しく見えた。
猫の岩へと到着し、岩のいつもの座りやすいスペースへと3人で腰を下ろす。
「いい風!」
「確かに!気持ちえいね!」
「見て!あそこ
「うわぁほんまや!!あれ多分どっかのおばちゃんが魚の残骸まいたがよ〜!」
「あ〜それ僕見た事ある!前に知らんおばちゃんがバケツからなんか巻きよった!」
「まじか〜!」
ピーヒョロロロという鳶の声と、海が猫の岩へぶつかり大きな音を立てる。
この場所ではいつも、音に負けないような大きな声で会話する。
都会では人の声や機械音がその場の主なBGMになるが、私たちの住む田舎では、BGMといえば専ら生き物の鳴き声や木々のさざめきだったりする。
ゆったりとした空間の中、
これが五時を告げるサイレンだ。この地区では音楽ではなくサイレンなので、いちいちびっくりしてしまう。だが、これが私達の日常なのだ。
「お姉ちゃん、五時!」
サイレンが鳴り終わった直後、弟が立ち上がる。
それに続いて私と結衣も弟に続く。
「帰るか〜!」
門限にうるさい我が家では、五時のサイレンが鳴ると家へすぐ帰らなければならない決まりになっている。
夜ごはんの予想を皆で言いながら、足早に自転車置き場まで向かう。海は家の目の前だ。時間はそうかからない。
家の前へ到着すると、良い匂いが家の網戸からこっちへ漂ってくる。
「やったー!カレーや!!」
弟が歓喜の声を上げ、家へと急いで入っていく。
「じゃあ結衣、また明日!」
「はーい!」
私達も会話を早々に切り上げ、それぞれの家へと帰宅する。
さぁ、明日は何をして遊ぼうか!
ド田舎の夏休み ZEN @asahi_zen
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