13:10〜15:30(1)

 夏の川は海よりもずっと冷たく、だがそれが慣れると気持ちいい。


 胸のあたりまでなんとか冷たさに慣らすと、一気に頭のてっぺんまで水に隠れるように沈み、すぐ水面へ浮き上がる。

 そして、改めて太陽の眩しさに気が付き、私は最高の気持ちになる。

 ただ、私の川での楽しみはここから始まるのである。


 それはというと、私たちが自転車を停めた所の目の先にある、自然が作り上げた道路から続いた所の少し下に突き出ている岩の飛び込み場所から飛び込みまくることなのである。


 今はもう川底に砂が溜まり、昔より浅くなってしまっているので飛び込みが禁止されていてできないのが残念で仕方がない。今は思い出なのだなと思うと、胸が切なく締め付けられる感覚を覚える。


 平泳ぎが出来ない私は、クロールして泳ぐのも本気で泳いでいる感が出て小っ恥ずかしかった。だから泳いで遊ぶ時はいつも得意の犬かきで泳いで移動していた。


 小学生の弟は、低学年なのもあり、比較的浅瀬の低学年ゾーンで泳ぎ始める。

 私達はそれに構わず荷物が置いてある岸辺から真っ直ぐに飛び込み場所へ向かう。勿論飛び込んでくる人達に気を付けながら。


 全てが自然が作り出したものなので、対岸なんてものはなくて、僅かにある飛び込み口へ登るための岩場へしがみつき、滑る様にその岩の上へとよじ登る。

 それから、はしごなんてものは勿論ないので、岩の出っ張りと窪みを器用に使い分けへと登っていく。


 飛び込み台に登ると、そこにはいつも結構な人が溜まっている。それもそうだ、私達は飛び込むことも好きだが、ここから見える景色も堪らなく好きなのだ。


 水面までは3メートルの距離、ずっと見ていると吸い込まれそうになる。ずっと左の方には、人があまり行かない場所で鯉が数匹泳ぎ、顔を上げ真っ直ぐと前を見ると、田んぼの向こうに森が広がっている。


 雄大な自然を感じることができるここからの景色が、この時はこんなに貴重な思い出になるとも知らずに、私は岩場の後ろに生えた木の影の下で、ただ、ぼうっと夏を感じている。


 13時を少し過ぎると、続々と人が泳ぎにやって来る。いつもは静かなその場所も、この時期だけは賑わいを見せる。


 次々に川へ飛び込んでいく小学生や中学生の後ろでその様子を見ていると、突然耳の横を、低音感のある羽音が通り過ぎた。その瞬間、誰かが叫んだ。


「アブや!」


 その声でみんなが一斉に悲鳴を上げながら岩場から川へと飛び降りていく。

 無論、私も誰も飛び降りていない場所へすぐさま飛び降りる。ふわっと身体が宙へ浮かんだかと思った瞬間、川の底へ引きづられる様な重力と共に、大きな波を立てながら水面へ着地する。


 この川は、度々危険なことが起こる。アブはまだで、こいつはいつも出てくる。なので、音が聞こえるとみんな一斉に水の中に隠れるのだ。アブは水の中に入れば追いかけて来ないから、これをいつも繰り返す。


 一度だけ川を泳ぐヘビに遭遇したことがあるが、あれは本当に怖かった。川をヘビが泳ぐなんてウミヘビしかいないと思っていたからだ。


 自然界は、私の中の常識をいとも容易くいつも覆し続けてくれる。そこでしか味わえない感覚を私は偶然にも感じることができていたことを、成長した今、とても愛おしく思えた。

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