13:10〜15:30(2)
アブはじきに何処かへ飛んで行って居なくなった。優衣が周りを警戒しながら、また飛び込み台へ登ってゆく。
「アブ、おる?」
「うーん、多分大丈夫やと思う。」
「もうほんま、いきなりは勘弁して欲しいわ。」
「アブおるがやったら、今日は浮き輪やめちょこう……。」
「そうやね…
耳の奥に嫌に残る、あの嫌な低音の羽音を思い出しながら、私は優衣に続いて飛び込み台へ登り、岩の少し奥のいい感じのところに腰を下ろす。
「でもやっぱりここは落ち着くわぁ。」
「そうやねぇ。」
涼しい風が吹き抜ける飛び込み台の上は、子供にとって居心地が良いようで、瞬く間に子供達がたくさん登ってきた。
次々に飛び込む小学生達を見ていて、ふと思い立ち、その場にいる数人に対して口を開いた。
「ちょっとみんなで飛び込もうや!」
「ええで!」
岩の形上、一度に飛び込めるのは四人までだ。私が左端の岩の出っ張りに立つと、小学生の女の子が私の少し横の平べったい場所に競うように立ち、続いて結衣がその隣、そして小学生の男の子が右端に並んだ。
「えい?」
「なんか言いながら飛ぶ?」
「いや、なんか面白いポーズしながら飛ぼう!」
「何それ難しい!」
「ええやんそんなんもう、パッと思いついたやつで〜。」
「う〜〜ん。」
結衣はどうやら恥ずかしがり屋のようで、少し考え込む様子を見せる。それに対して横に立っている女の子が口を開く。
「先に飛んでもええ?」
その言葉に結衣が頷いた直後、女の子と男の子が岩からジャンプした。
「いえーい!」
「わぁー!」
女の子はピースしながら、男の子は気を付けの姿勢で川へと吸い込まれていった。それに続いて、私も岩からジャンプする。
「おにぎり!」
なんとなくの思いつきで、両腕で三角を作りながら超笑顔で川へ飛び込んだ。今思うと、それは客観的に見れば意味の分からないただの変な人だ。だが、テンションが上がった子供達はそれに対し、ゲラゲラ笑いながら次々飛び込み始める。
「肉!」
「そうめん!」
「きゃははは!!じゃあー海藻!」
それぞれが、思いつきで変なポーズを取りながら次々と飛び込み始める。
私も負けじと再び岩の上へ登り、間髪入れずにジャンプし、バシャーンと大きな水飛沫をあげて川へと沈んでいく。そのまま身を任せると、時々川底に足の先が付く。
石の感触を足先に感じる瞬間、身体をバネのようにして一気に水面へと上昇する。川底は水面より冷たく、耳が締め付けられる感覚もあまり好きではない。水から顔を勢いよく出すと、飛び込んでくる人達に気を付けながら急いで飛び込み下の岩まで移動し、また岩の上へと登っていく。
そのままがむしゃらにみんなで飛び込み続け、15時半になる頃、監視員が監視終了の笛を勢いよく吹いた。
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