11:30〜13:10

 すっかり陽が昇り気温が上昇した頃、一階のリビングから階段を伝って美味しそうな匂いがしてくる。と共に、弟達がお昼だから降りてこいと私に向かって階段下から叫ぶ。わかったと大声で返事をし、早々に切り上げて階段を降りる。


 我が家の夏の定番といえば、祖母が作った冷やし中華だ。

 薄焼き卵やキュウリを細切りにして、カニカマを細かく裂き、それぞれが中心へ向かい合う様に盛り付けられた色鮮やかな具材と共に、麺を啜る。冷たくてツルツルと喉を麺が伝う様子がとても気持ち良い。甘酸っぱいタレが、夏の暑さとよくしていて箸がよく進んだものだ。


 だが、私はあいにく今から予定が詰まっているのだ。食事も手早く済ませると、その用事の用意のために急いで自室へ戻る。


 そう、川へ泳ぎに行くという大事な予定があるのだ!

 だが、川に泳ぎに行くのには一つ、関門があった。


 用意を全て済ませたお昼の12時50分、弟の部屋の窓から目を凝らす。目線の先には、風にハタハタとたなびく白旗が見えた。


「今日監視員おるでー!」

「やったー!はよ行こう!」


 小学生の弟は、監視員がいないと泳いではいけないと学校が決めていたので、毎日泳ぎに行く前は必ず白旗が上がっているか確認しなければいけないのだ。


 前の日に雨が降っていたりして、次の日に増水していると危険と判断され、今日はダメですよという意味を込めた赤旗が上がっている。昨日は幸いにもカラッカラに晴れていたのでそんなに心配していなかったが、やはり私達の中で白旗が上がっているとめちゃくちゃテンションが上がってしまうのも事実なのである。


 弟を待っていると、見慣れた顔が玄関先からひょこっと顔を出した。


「泳ぎに行く?」

「行くで!一緒に行くか??」

「行く!じゃあ待ちよって!」


 見慣れた顔の正体は、幼馴染の妹にあたる中学生の結衣だ。泳ぎに行く時は大抵こいつも一緒だ。用意のできた弟と共に外に出ると、膨らんだ浮き輪を腰につけた結衣もちょうど外に出て来た。


 ジリジリとした太陽の陽射しが兎にも角にも暑くて堪らないので、早く行けるように、自転車で行く事にした。


 このド田舎では、水着の上に汚れてもいいような服を着て泳ぐ人達しかいなかったので、私達も、いつも水着の上に暗い色のTシャツと体操服のズボンを履いて泳ぎに向かっていた。


 川の近くに到着し、道の端に自転車を並べて停め、自転車のカゴから荷物を取り、川へと向かう。だが、川へと向かう道では少し気を付けなくてはならない。道がちゃんと整備されていないので、川へと下る階段のような段差も、めちゃくちゃ滑るのである。


 姿勢を低くして、半ば滑るように下に到着すると、砂利が広がる道に差し掛かる。これがまた、結構足のツボを刺激してくれる。


 荷物を置ける場所まで我慢して進めば、あとは自由だ。私達は覚悟を決め、目の前に広がる川へそろりそろりと入って行く。

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