回想列車

ヘルツ博士

回想列車

「頑張って。」

 始発駅のホームから、お母さんが語りかける。

 夕焼けに照らされた電車には私一人しか乗っていない。

「まさか、こんなことになってしまうなんてなぁ。」

 お父さんも寂しそうな顔で話しかけてきた。

 電車のドアが閉じようとした時、大声で泣き叫ぶ妹が乗り込もうとした。

「ダメだぞ。」

 すかさずお父さんが止めに入る。

 大きく揺れながら、電車は進み始めた。

 お母さんも、お父さんも、妹も、姿が見えなくなるまで私を見送ってくれている。

 カーブを曲がったあたりで、白い衣装の駅員が私に話しかけた。

「気分はどうかな?」

 金属のきしむ音だけが響いている。

「心配しないで、きっと帰ってこれるから。」

 私を上からのぞき込み、駅員は私の頭をなでると、隣の車両に歩いていった。


 眠ったまま、誰の声にも答えない私を乗せて、電車は強い光の中に消えていった。

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回想列車 ヘルツ博士 @Hakase10Hz

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