第20話 パンツ
さわさわと何かが僕の身体に触れている。
温かくも無く、冷たくも無い、だけど微かに触れられていると分かる不思議な感触が身体中をまさぐっていく。
僕はその奇妙な感触で意識が覚醒された。
「……え? もう夜っ!? 嘘だろっ!?」
窓から見える景色は夜のそれで、慌ててスマホを見てみると、二十三時と表示されている。
明日香の家は結構厳しいみたいだし、今から会いに行くのは迷惑を掛けてしまうだろう。
どうして、こんなにも長時間眠ってしまったのかは分からないけれど、やってしまったと青ざめながら、明日香へメッセージを送る。
『明日、何時でも良いから会えない? 話したい事があるんだ』
いつもなら数分あれば既読になるけれど、既に眠ってしまっているのか、それとも僕のメッセージを読む気が無いのか、既読は付かない。
どうしよう……と頭を抱えたくなった所で、ふと視線を感じて薄暗い部屋の隅に目をやると、
「そこに居るのは……リナさん? 何をしているんですか?」
どういうつもりなのかは分からないけれど、灯りも点けずに小さく三角座りをしているリナさんが居た。
しかし、普段であれば既に眠っている時間だというのに、いつものシースルーの服ではなく、今朝着ていた服のままなのだが、一体どういう事だろうか。
「あ、あのな、優ちゃん。ウチ、聞きたい事があるねん」
「……何ですか?」
「優ちゃんって、ウチの夫で、ミウの父親やんな?」
「違いますってば」
もう何度目になるのか分からない、リナさんとのこのやり取り。
今までのパターンだと、ここから僕の事を抱きしめてくるのだけれど、今回は何故か少し違った。
「じゃあ、優ちゃんの名前を教えて」
「え? 川村優斗だけど?」
「本当に?」
「もちろん」
「本当に本当? 嘘じゃ無い?」
「本当だってば。大学の学生証でも見せましょうか?」
部屋の隅に座ったまま、質問だけを繰り返すリナさんに違和感を覚えながらも、部屋の照明を点けて学生証を渡す。
学生証には名前以外に生年月日や入学年度も記載されているけれど、今更それくらい見られても問題ないだろう。
だけど、僕の学生書を見た途端に、どういう訳かリナさんが膝に額を付け、顔を伏せてしまった。
「リ、リナさん?」
「あぁぁぁ……やっぱりぃぃぃっ! やっちゃったぁぁぁっ!」
「な、何をしてしまったんですか?」
「どうしよぉぉぉっ!」
リナさんは僕の問いには答えてくれず、遂には両手で頭を抱え込んでしまった。
僕の学生証がどうかしたのだろうか。良く見てみれば、いつもは必ず一緒に居たミウちゃんも居ないし、明らかに様子がおかしい。僕が丸一日眠っている間に何かあったのだろうか?
しかし話を聞こうにも、僕の質問にはまともに答えてくれないので、先ずは全然関係ない話で場を和ませてみる。
「リナさん……短いスカートで三角座りなんてしているので、思いっきりパンツが見えてますよ?」
「……せやね。やっぱり、それしか無いやんな」
「え? な、何がですか?」
リナさんは、普段から全裸に近い格好で僕にくっついてくるし、今朝も自らパンツを見せてきた。だから今更パンツが見えていても、軽く返してくれると思ったのだけど、どういう訳か神妙は表情を浮かべて僕を見つめてくる。
普段僕に見せているパンツと、今のパンツでは何か見られる事に対して違いがあるのだろうか。
……改めて見てみると、今朝はピンクのパンツだったけどレース柄だったのに対し、今は同じピンクでも縞々模様のパンツだ。服装は同じだけど、パンツだけ履き替えている……所謂、勝負パンツとかって奴なのか!?
いや、だけどレースのパンツと縞々パンツだったら、レースの可愛らしいデザインの方がむしろ勝負パンツな気がするのだけど……いや、これはあえて僕が好きそうな縞々パンツを履いてきたという事なのか!?
いやいやいや、だけど、どうしてリナさんが僕の嗜好まで把握しているんだよっ!
一人でパンツについて考えていると、何か思い詰めたような顔でリナさんが立ち上がる。
「優ちゃん。いえ、優斗さん」
「は、はい?」
「ご迷惑をおかけしてしまい、本当にごめんなさい。どう償えば良いか分からないけど、今のウチが出来る事はこれしかないから」
「な、何の話……って、どうしてスカートを脱いだんですかっ!?」
「ミウは別の部屋でぐっすり眠っています。ウチの事を優斗さんの好きにしてください」
リナさんが服を脱ぎながら一歩ずつ僕に近寄り、訳が分からないままに、全裸となったリナさんにベッドまで追いやられてしまった。
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