第三章 大ピンチ! 幼馴染みと金髪母娘

第17話 確認

 柔らかい日差しが僕の顔に注ぐ。

 徐々に意識が覚醒していき、朝を迎えた事に気付く。

 ぼんやりと、だけど徐々にはっきりとしていく視界に、いつもの景色――僕の部屋の天井が映り、それと同時に柔らかな二つの重みを感じる。

 一つは僕の左腕で、またリナさんが僕に抱きついて眠っているのだろう。

 もう一つは僕のお腹の上だから、おそらくミウちゃんが乗っているだと思われる。

 昨日の朝と何一つ変わらない起床……


「って、何でだよっ!」


 この部屋は僕の部屋であり、リナさんとミウちゃんには、ちゃんと別の部屋が割り当てられている。

 それに、僕がリナさんの夫ではないと、昨日厳しめに話をしようとして……あれ? 僕、昨晩リナさんと話をしたっけ?

 思い出せ。昨日、琴姉ちゃんと優子が早々に部屋へ戻った後の話だ。

 リナさんとミウちゃんがお風呂に入っている間、僕はリビングで待っていて、それから二人が出てきて、リナさんが裸よりもエッチな格好になっていて、


「……その後は?」


 思わず口に出して呟いてしまったけれど、その後の記憶が無い。

 僕がバスタオル姿のリナさんを目撃したのはリビングだ。でも僕は、自分の部屋で眠っていた。

 リナさんが僕を運んでくれた? 二階なのに?

 しかも、リナさんは僕より小柄な上に、ミウちゃんの面倒まで見なければならない。

 ミウちゃんと僕を同時に抱きかかえられるとは思えないから、ミウちゃんを寝かしつけた後に僕を……いや、それでもやっぱり無茶だ。そもそもリナさん一人で僕を運べないよ。

 とりあえず、どうやって運んだのかは後でリナさんに聞くとして、昨晩入っていないからお風呂へ行こう。

 そう考えて、ようやく気付く。


 どうして、僕はパジャマに着替えているんだ!?


 パジャマ特有のゆったりとした着心地に包まれ、僕はベッドで熟睡していた。

 だけど、僕はお風呂にすら入っていないので、パジャマに鍛えている訳が無い。

 つまり僕が眠っている間に、誰かが僕の服を脱がせ、わざわざパジャマに着替えさせた?


「下はっ!? シャツはともかく、ズボンはどうなってるの!?」


 右手を伸ばせば見慣れた袖が視界に映るので、上半身が着替えさせられているのは分かる。

 じゃあ、下半身は? ミウちゃんが乗っているから見え難いけれど、僕の脚がパジャマに包まれている気がする。

 いや、ズボンはまだ良いとしよう(本当は良く無いけど)。だけど最後の砦、僕の尊厳を守るトランクスは? まさかトランクスまで履きかえさせられているの!?

 確認したいけれど、ミウちゃんをお腹に乗せた状態では確認出来ないし、そもそも昨日の僕がどんなトランクスを履いていたかなんて覚えていない。

 それでも気になってモゾモゾしていると、


「んー。優ちゃん、おはよ。朝から、どうしたん?」


 僕の隣で眠っていたリナさんが目を覚ます。


「リナさん。昨日、僕はどうやってこのベッドまで戻ってきたんでしたっけ?」

「えっ!? え、えーっと、優ちゃんが自分で歩いて戻ってきたで?」

「……本当ですか?」


 起きたばかりのリナさんの瞳を至近距離でジッと見つめていると、その目がゆっくりと僕の視線から逃げて行く。


「リナさん。本当の事を話してください」

「ほ、本当やって。ウチは操ったり運んだりしてなくて、優ちゃんが自分の足で歩いて行ってんで?」


 運ぶはともかく、操るって何だ。

 しかし謎の言葉はさておき、リナさんの言動がとにかく怪しい。

 いつも必要以上に僕と目を合わせたがり、離れた場所からでも僕の事を見つめるリナさんが目を逸らすなんて、絶対に何かを隠している。


「じゃあ、僕が寝ぼけながら部屋に戻ってきたとして、パジャマに着替えている理由は? まさか、これも僕が自分で着替えたって言うの?」

「ううん。優ちゃんのパジャマはウチが着替えさせてあげたよー」

「え? 今、何て言いました?」

「ん? だから、寝ちゃった優ちゃんの服を脱がせて、パジャマを着させてあげてんでーって」


 な、何だって!?

 リナさんが平然と認めたけれど、僕の服を脱がせた!?


「という事は、リナさんが僕の身体を見たって事!?」

「身体を見た……って、女の子じゃないねんから、別にえぇやん」

「そうだけど……ちょっと待った。その、下は? 僕のトランクスはどうしたの!?」

「ナ、ナニモシテナイヨ?」

「リナさん!? ここは本当に、本当の事を教えてくださいっ! 僕の下着を脱がせたんですかっ!?」


 何故かリナさんが返事をはぐらかし、その上、ほんのりと頬を赤らめる。

 どういう意味!? ねぇ、それはどういう意味なのっ!?


「ちょっと、リナさん。僕の尊厳に関わる事なんです。リナさーんっ!」

「いやん。優ちゃんったら、激しいっ!」


 相変わらずミウちゃんを乗せたまま、リナさんの肩を前後に軽く揺する。


「ウチ、二人目は男の子がいいなっ!」


 どうして、このタイミングでそんな話っ!? どういう意味!? どういう意味なんだよっ!


「とりあえず、服……何でも良いから着てくださいっ! 話はそれからです」


 昨日と同じシースルーの服では色々と僕が困るので、一先ず服を着るように言った所で、


「お兄ちゃん。そういう事は夜にしたら?」


 起こしに来てくれた優子に、ジト目を向けられてしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る