第38話 響け15リアル

 開店前のドゥルキスでは、マサムネがバックバーで開店準備をしており、テーブル席では四季、セイラ、氷芽ひめの3人が集まっており、四季の隣にはミルクティカラーのショートカットをガーリーにパーマがかった、可愛らしい小柄な女の子が座っていた。セイラは女の子を見つめながら、四季に質問した。



「四季ちゃん。こちらの可愛い女の子は?」



「来週から働いてもらう、妖精パックの『ニーナ』だ」



「え? 働いてもらうって、ニーナ。ちゃん……いくつなの?」



 セイラに話しかけられたニーナは無邪気な笑顔を見せた。



「ハイ。 ニーナは15歳なのです」



「ちょ。15歳はヤバいでしょ、マサムネどうなってるの?」



 セイラの声掛にマサムネは掃除をしていた手を休めるとテーブル席、ニーナの隣までやってきてニーナの頭を撫でた。



「マサムネじゃない、店長だ。どうだ? ニーナ可愛いだろ」



「防犯ベルー! 防犯ベルー!!」



 四季が突然大声で叫ぶと、セイラは長耳を手で押さえ、氷芽が迷惑そうに四季を見た。



「四季、声が大きいですわ。それに『防犯ベル』って押しますのよ。防犯ベルって叫ぶなら、普通に『助けて』って、言った方が早いですわ」



 マサムネが四季の顔を見ると四季の顔は赤くなっていた。



「お前、ボケじゃなくて本気で間違ったのか?」



「ま 間違ってねーし」



「うわ。ニーナちゃんの頬っぺた柔らかい~。可愛い~」


「や やめるのです。くすぐったいのです」



 下らないやり取りをしている間にセイラは、テーブル席の対面で座るニーナの頬っぺたを、身を乗り出してツンツンしていた。



「そこ! キャッキャッウフフしてんじゃない。私の話を聞けー」



「セイラ止めなさいな。埒があかないですわ。四季の話を聞きましょう」



 氷芽の言葉にセイラは座り直すと、四季は口を開いた。



「来週から、昼の時間はメイドカフェをやる! 私が店長で、ニーナと氷芽とセイラがキャストだ」



 氷芽とセイラは目を合わせると、笑いあった。



「ま またまた、四季ちゃんは冗談ばかり……」



「そ そうですわ。ホント困った座敷わらしですわ……」



「ハイ。ニーナ頑張るのです! ここ掘れワンワンなのです」



 全員の頭にハテナマークが浮かんだ。代表して四季がニーナに聞いた。



「氷芽、セイラ。冗談ではない確定事項だ。そして、ニーナ『ここ掘れワンワン』とは?」



 ニーナは大きい目を丸くさせたかと思うと、胸の前に両手を持ってくると手でハートを作った。



「オムライスにケチャップ掛ける時とか、コーヒーにクリーム入れるときに言うのですよ。両手でこうやってハートを作って『ご主人様。ここ掘れワンワン』」



 永遠に静寂が続くかと思われたが、四季が何とか言葉をふりしぼった。



「…………そ それは『ご主人様。萌え萌え。キュンキュン』ではないのか? ニーナのは、ご主人様が犬になっているではないか」



「ハハハ。ホントなのです。気付かなかったのです」



 黙ってみていたマサムネが苦笑いしながら補足を説明した。



「ま まぁ。あくまでも実験的だから、昼だとルナルサはジムがあるし、アイリはダンスの学校があるし、リリムは……絶対に起きて来ないから」



「わ 私だって、凄い低血圧で起きるのが辛いですわ。美雨めいゆいは? 美雨はどうなのですか?」



「話し掛けようとしたら、察知されたのか睨まれたから、な 何も言えなかったです……」



 マサムネは呟くと、そそくさとバックバーに戻っていった。



「な 何も言えなかった。って、何ですの? 仮にも店長が従業員に言えない。って、あり得ませんわ」



「まぁまぁ。店長も美雨さんは怖いんだよ。私は面白そうだから良いけど」



「確定事項なら、何を言っても無理ですわね。私もやりますわ」



 氷芽は深いため息を吐くと、ため息は少し吹雪に変わっていた。



「氷芽。吹雪を出すのは辞めてくれ。何はともあれ良く言ってくれた。ニーナも頑張れよ。成功したら、ドゥルキスは昼と夜で稼げるからな」



「でも、ニーナちゃん。ホント可愛いね。これはアイドル『ドゥルキス』不動のセンターになるかも」



 セイラは意味ありげに四季に目を向けると四季は机を叩いた。



「それは別の話だ! ニーナは学校とバイトで忙しいからアイドルは無理だ」



「なんですの四季? ニーナにポジション奪われそうで焦ってるではありませんか」



 ニコニコしながら聞いていたニーナが片手を上げると、勢い良く喋りだした。



「興味はあるのです。でも、学校が忙しいのも本当なのです。部活はいってますから」



「へぇ。部活は何?ってか、部活もやってバイトも出来るのかな。ねぇ。ニーナちゃんは学校どこなの?」



「ハイなのです。ニーナは聖フェアリー学園の1年生なのです。部活は吹奏楽なのですよ」



「あら、お嬢様学校ですわね。吹奏楽では担当は何ですの? あと、お嬢様学校って、どんな感じか興味がありますわ?」



 四季は興味ありげに聞いた氷芽を見ると、口角を片方だけ上げると不敵に微笑んだ。



「さすが、貧乏人はお嬢様に興味があるんだな」



「な! 四季。凍死と雪での圧死はどちらが良いかしら?」



 両手の掌に力を込めて氷芽が、雪玉を作り出すと慌てて、ニーナが止めに入った。



「あわわわ。辞めて下さいなのです。担当はユーフォニアムなのです。学校ではイタズラばかりしてるのですよ」



 氷芽は力を抜くと、雪玉は水になりセイラはお絞りでテーブルを拭きながら、場を和ませようと口を開いた。



「へぇ。ユーフォニアムって何か最近人気あるみたいだよね。イタズラかぁ、可愛いなぁ。どんなイタズラ?」



 ニーナは俯くと恥ずかしそうに言葉に出した。



「は ハイなのです。先生の机に置いてある日めくりカレンダーを一週間位、勝手に進めたり、友達から借りた教科書に勝手にアンダーライン入れて、出るわけもないのに『テストに出るから重要』って書いて返したりなのです」



「じ 地味にイライラする絶妙なラインだね……」



「エヘヘ。褒められちゃった」



 ニーナは髪をかいて照れていた。



「ふん。少し可愛いからって、自分中心に回ってると思ってたら大間違いよ。小娘! 15歳なんて、あっという間に過ぎてくのよ。せいぜい、昔は良かったなぁ。って思える15歳にすることね」



「四季が言うことではないですわ。あなたはいつ15歳らしくなるのですか?」



「わ 私が聞きたいよ!」



 セイラは2人を取りなすように、手で抑えてとジェスチャーすると、ニーナは椅子から立ち上がり、深々と頭を下げた。



「来週から、ニーナは頑張るのです! 宜しくお願いしますなのです」



「うん。頑張ろう。こちらこそ、宜しくねニーナちゃん」



「ええ。お互いに頑張りましょう。宜しくお願い致しますわ」



「その心意気で頑張ってくれ。ニーナ、頭を上げなよ」



 ニーナは四季に言われて頭を上げると、後頭部を見事にテーブルにぶつけ、ガツンとした音がドゥルキスには響いた。

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