第37話 決戦 2
≪やぁぁああッ!≫
セレンのカッシーニがロングソードでセカンド・アリアの一機を斬る。しかし、セカンド・アリアの装甲はただの実体剣では一撃で仕留めることはできない。カッシーニが袈裟に斬ったセカンド・アリアはその装甲に深いとは言い難い傷を与えるにとどまった。
≪硬っ!?機体もパイロットも向こうが上なんて……!≫
「弱音を吐くな!」
損傷したセカンド・アリアの頭上から常盤のヴォイジャーが急接近し、その脳天からビームソードを突き立てる。頭部は胴体ほど装甲が強固ではないことも手伝ってか、青い光の刃は易々とセカンド・アリアの装甲を貫く。それの両肩を蹴ってソードを抜くと、すぐさま次の敵へと向かう常盤。圧倒的物量とまでは言わないが、それでも3倍はある戦力差をどうにかするにはとにかくスピードがカギだ。時間をかけるほどこちらの方が不利になる。
≪援護するぞ≫
鮫島のスケアクロウが交戦していた敵機をタックルで吹き飛ばし、別の敵機にぶつける。そしてそれを待っていたかのようにヴォイジャーが背負っていた大物を取り出した。
補助リアクターを保持している右腕に接続すると、そこから生み出されるエネルギーが右腕からその大物、メガ・セプト・タレットへと流れ込む。銃口が急速に赤い光を帯びていき、そしてそれが限界に達した瞬間に常盤はトリガーを引いた。
「くらえ!」
ロード4機は軽々と飲み込むであろう径のビームが2機のセカンド・アリアを飲み込む。赤い粒子は高エネルギーである証。いくら強固な装甲であろうとも数秒にわたって照射されたそれを食らえば、まさに"跡形もなく"消滅する。
爆発すらすることなくいくらかの焦げた塊となり果てたそれらは、ヴォイジャーの持つ武器の威力を物語っていた。しかし、過度なエネルギーに耐えられなかったタレットはあちこちから粒子を漏らしながら自壊していく。ヴォイジャーは急いで接続を切り、その場から離れた。
≪気を抜くなよ。まだ5機しか撃破できてない≫
≪分かってます。常盤さん、姉さん。援護お願いします≫
セレン機もまた近接戦闘で効果の薄かったロングソードを収め、ヴォイジャーのように背負っていた大物を取り出す。ヴォイジャーのタレットのような射撃武器ではなく、先日の雪原で鮫島の乗るリノセウスが使用していたような
ヴォイジャーと同様に右腕に増設された補助リアクターが接続される。すると、ランスが青い光を放ち始めた。その輝きは収束させやすく貫通力に優れた青いセプチウム粒子の輝きだ。このランスの重量と貫通力をもってすれば一撃で大ダメージを与えることが可能だろう。
≪うちの艦の砲手は優秀だが、あまり頼りすぎるなよ≫
「了解。行くぞセレン嬢」
≪はいはい≫
様々な方向から弾が飛び交う中、五菱の面々は新たに母艦を狙う敵に狙いを定めた。
***
オレンジ色の光が機体をかすめる。先ほどまで機体がいた場所だ。ほんの少しでも回避行動が遅れていたら被弾していただろう。攻撃の主の射撃の腕前はライサほどではないが、弾自体が大きいのでそれがカバーされている。
「やはり狙いは俺か……!」
高速で移動する機体、ヴィルヘルムのパイロットである東条は確信する。この攻撃を仕掛けているのはあの雪原で戦ったパイロット、アルテといったか。再び戦場で会うことがあれば容赦なく殺すと言っていた女性だ。
ヴィルヘルムは航空機形態で攻撃の元へと向かう。ビームによる迎撃が機体を襲うが、バレルロールを駆使して回避していく。ロードの中でも航空機形態での使用を主として改造されたヴィルヘルムだからこそできる芸当だろう。
「見えた!」
光学センサーが敵機を捉える。ズームされたウィンドウがサブモニターに表示され、長距離から幾度も狙撃を行えた理由が明らかになった。
「オーバード……。いや、オーバー"ロード"か?」
それは異質な雰囲気を放ちつつも人型であった、種子島のオーバードに対して目の前のそれは人型とすら言いづらい。腰部からは大型の姿勢制御装置が脚の代わりに4本伸びており、太い両の腕には先ほどから射撃に使っていたであろうビーム兵器が接続されている。さらに機体の周囲にはおそらく今回のような近距離以遠の通信が妨害される戦場であっても安定した通信を可能とする小型の装置が辺りに配置されているのが見えた。
その機体の胴体部分にはおそらくコアになっていると思われる機体のシルエットが見え隠れしている。東条がオーバー"ロード"と表現したのはそれが理由だ。兵器としての開発技術がある程度蓄積されているロードのオプションとしてオーバード級の火力や性能を持つ兵装を装備させる。理にかなった話だ。
「でも、そんな重装備では……!」
しかし、いくら理にかなっているとはいえ、鈍重な機体は一撃離脱を得意とするヴィルヘルムにとって得意とする相手だ。たとえ一撃で決定打を与えることができなくとも機動力を生かして何度もダメージを与えればいい。
「さて、第二ラウンドも勝たせてもらうぜ、アルテ」
東条はわざと彼女に聞こえるようにオープン回線の一つを使い、敵パイロットにつなげた。
***
戦闘の光がモニターの一部を照らす。だが、周りは静かだ。背後から太陽の光が照らし、デブリが漂う。
「目標地点まであと20分。向こうが気になるかい?」
「ん、まあな。今後いいビジネスパートナーになってくれるかもしれないからな」
デブリの1つに偽装したデコイに隠れた機体の中で、ディフィオンのリーダーたるマルクがレナートの問いに答える。
彼らは四宮からのオファーを受け、愛機とともに自衛軍の艦へ搭乗していた。そして戦端が開かれる前にデブリ帯へ密かに紛れ込み、ある地点を目指して進んでいた。
そのある地点とは星降りの残骸。敵の基地があると目されている大きな破片だ。
「目標を目視で確認。入口は……」
「見つけた。偽装してはいるがあそこだ」
マルクが目標を確認すると、レナートがすぐさま入り込めそうな出入口を見つける。マルクは無言で頷き、機体を動かした。ほんの少し、わずかにデブリにしては不自然な挙動をする。しかし、それを不審に思う者はいない。確認できるだけでも破片の表面を巡回するワーカーらしき影が数機見えるだけで、驚くほど手薄だ。
「取り付くぞ」
すべての敵機の死角に入ったと思われたその瞬間、デコイを破壊して――といっても風船を割るようなもので派手なものではないが――一気に目標へと近づく。あまり推進剤を使うとバレる可能性があるので瞬間的に使用した後は慣性を利用する。
「おっと」
死角を突いたつもりではいたが、確認不足だったようだ。取り付く瞬間、破片表面の凹凸で隠れていたのだろう哨戒していたワーカー1機とすれ違う。頭部がなく、加工された宝石のような多面体の胴体の中心にある長方形のバイザー。おそらくこれがメインの光学センサーなのだろう。両の腕は"武器腕"であり、それぞれ2門の速射砲があるのが確認できた。足はワーカータイプには珍しく逆関節。宇宙での運用を主に考えているのがうかがえた。
「危ないなあ」
強化された兵士とはいえ、突発的な会敵に面食らったのだろう。わずかにワーカーが一歩後ずさった。その隙を逃すことなく左の"武器腕"を機体の胴へ突き付けそしてトリガーを引く。いくつもある銃口らしき穴の1つからなにかが飛び出す。しかしそれは弾丸ではない。
レナートがゆっくりとそれを引き抜くと同時に飛び出した何か、ロングソードの刀身のようなものがその腕の中へと消えていった。
「助かる」
「ま、これも複座型の利点ってね」
礼を言ったマルクの後ろでレナートが上機嫌に返す。そう、彼らは1つの機体に乗り込んでいる。その場の状況に応じて機動と戦闘の操作をシフトする、鹵獲したセカンド・アリアとニカーヤのパーツを主に作り上げられたその機体の名は"ディフィオン"といった。
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