第27話 強襲と離脱 2

「左腕が使えなくなったところで!」


 アルヴァーリの攻撃により機能しなくなったレグルスの左腕を根元からパージすると、ミハイルは強がりを言いつつも現状を冷静に把握する。

 相手はライサの射撃をいとも簡単に回避しながら攻撃を仕掛けてくるだけの技量と経験を持っており、さらに機体も1発や2発当てたところで何ら問題なく動けるほどの防御力、第三世代であるレグルスの腕を簡単に潰してしまうほどの攻撃力を兼ね備えている。

 ならばどうするべきか。ミハイルのレグルスは彼に合わせて機動力、そしてパワーを重視した仕上がりとなっている。それはアルヴァーリを超えるとはいかないが、同等ではあるはずだ。それを生かして近接戦闘を挑むしかない。


「レグルス1、海で見た新型と交戦開始!引き付けるから今のうちに!」


 アルヴァーリを仕留めるつもりではあるが、その前に部隊として勝利しなくては意味がない。作戦を進めるよう指揮官であるライサに伝えると、迎撃のビームを避けつつアルヴァーリへ肉薄する。

レグルスの炉から生成されたエネルギーの残滓が緑色の粒子となってバックパックから放出される。それは尾を引き、機体自身のスピードも相まってまさに流星のようだ。


≪レグルス2了解。楔の効果範囲、分かってるわね?≫


「言われなくても!」


 剣が赤い粒子を纏い、またアルヴァーリもそれに応えるかのように右腕の銃口からビームを、弾丸としてではなくサーベルとして出す。レグルスのロングソードよりもややオレンジ色のそれを、アルヴァーリは下から上へと振り上げた。

 レグルスは左半身をわずかに前にし、アルヴァーリの攻撃とともに機体を1回転させる。

本来なら左腕を切り落とされるはずだが、その左腕はない。つまりアルヴァーリは空振りをすることとなった。一瞬ではあるが隙が生まれたアルヴァーリにレグルスは回転の勢いを乗せた回し蹴りを食らわせる。

 しかし、相手も手練れ。ただ受けるだけではなく爪がひとつ欠けた右腕を盾替わりにしてきた。アルヴァーリの頑丈な装甲ならば、受け方さえ間違えなければシールドとして機能するくらいには使える。ビーム攻撃ならば話は別だが。


「まだまだ!」


 防御しているとはいえ衝撃はある。続けざまに今度は回し蹴りではなくロングソードでの横なぎだ。高エネルギーが特徴の赤い粒子を纏ったそれは、防御力が特徴のアルヴァーリの装甲をいとも簡単に、とはいかないが切断する。


≪面白いじゃないか!≫


 右腕を真っ二つにされながらも、またレグルスに向かってオープン回線で話しかけてくるアルヴァーリのパイロット。殺し合いをしている相手と会話しながら、というのはどうにも調子が狂う。


「何が!」


 左腕がアルヴァーリから射出され、レグルスの頭部をかすめる。寸でのところで頭部を動かすが爪がバイザーを割り、その内側のレグルスの右目を傷つけた。


≪光学カメラ損傷。一部をCGで補います≫


 いつ振りかのレグルスに搭載されたプログラムの声がミハイルに状況を伝える。


「いつもは喋らないくせに!」


 アルヴァーリ腕が戻る前に飛び上がると、アルヴァーリを踏み台にする形で蹴りをいれ、背後を取る。アルヴァーリは体勢を崩して前へつんのめるが、何とか踏みとどまった。

 畳みかけてもよかったが、それだけで撃破できるとは思えないし、なにより作戦が第一だ。


≪各機、作戦第3フェーズいくわよ!≫


 間合いを変えたところでライサからの通信が入る。作戦の最も重要なフェーズだ。

 それを自身の戦闘に利用してやろうというのがミハイルの考えだ。

 

「待ってました、ってね」


 アルヴァーリとレグルスが再びにらみ合う状態になったところで、その間に線を引いたように電流が走った。



***



「ヴィルヘルム、まもなく合流する。鮫島さん、準備よろしく!」


 ファランクスから発進したヴィルヘルム。それに乗る東条はヴィルヘルムの足がカタパルトから離れると同時に変形機構を使用し、航空機形態へと変形する。自身が耐えられる最大の速度まで加速すると、一気に鮫島の乗るリノセウスの場所まで向かう。


≪了解した。レグルス2、空は片づけた。あとは頼むぞ≫


 リノセウスに乗る鮫島はさらっと言ってのけたが、いくら武装を強化しているとはいえ航空機をワーカータイプが撃墜するのは至難の業だ。それも4機。狙撃が得意なライサでもこの短時間での撃墜は不可能だ。


≪さすが五菱のエースね。支援はもう私だけで問題ないわ≫


 リノセウスは支援用の装備をすべてその場でパージすると、高速で飛来したヴィルヘルムに向かって飛び、その上へと見事着地した。


「よし、エネルギー供給用のチューブ繋いでください」


≪接続した。リノセウスのエネルギーは問題なくそちらにいっている≫


 リノセウスのバックパックの一部が開き、中からケーブルが露わになる。それを腕で掴むと、変形中のヴィルヘルムのバックパックへと接続した。両者のコックピット内のサブモニターに「エネルギーを供給しています」または「供給されています」といった旨の表示が現れる。

 ヴィルヘルムの武装のほとんどは炉から供給されるエネルギーを多量に消費するビーム兵器だ。そのため、多く使う際はこのように他の機体からエネルギーをもらって攻撃後にパワーダウンするのを避ける必要がある。


「目標地点に到着、降りますよ」


 基地がある程度見渡せる位置へと移動すると、変形を解きリノセウスとともに着地する。ヴィルヘルムは反動を受け止められるよう重心を低く保つと、すべての銃口を基地の方へ向ける。シールドライフルに、4門の胸部ビーム砲にすべてエネルギーを充填し始めるとみるみるうちにエネルギーが減っていく。先の戦闘でマヒトツを撃墜した時にも使用したが、今回はそれよりも長時間使用するためパワーダウンは必至だ。


≪エネルギー供給安定、いつでもOKだ≫


「よし、じゃあ第3フェーズ開始ってことで」


≪了解。楔を起動するわ≫


 ライサからの応答の後、基地一帯に電流と粒子が走る。ライサが撃ち込んだ3つのボルトを起点として発生したそのフィールドはドクターの試作品の一つで、理論上範囲内の炉を強制停止することができるものだ。

 短い間ではあるが、粒子の特性を極端に弱めるフィールドを作り出すことによって強制的に炉の動きを止める。これにより範囲内の機体は数秒から数十秒ほど完全に停止するのだ。


≪停止を確認。ヴィルヘルム、攻撃を≫


「あいよ!食らわせてやる!」


 今度は先の戦闘とは違い、収束のしやすい青色の粒子が銃口から発射される。赤いビームは威力が高いが長時間の射撃には合わない。多少威力が落ちても青のほうが良いのだ。

 ヴィルヘルムから放たれた青い光は機能を停止したセカンド・アリアたちを串刺しにした。そのまま銃口を動かし、敵機を切断しつつ新たな標的へと移っていく。

 しかし――


「クソッ、これだけ離れてると当てるの結構苦労するな……」


≪なんだ、泣き言か?≫


「違いますよ。狙撃まがいのことなんてしたことないんで単に俺の技量がないって話」


≪そうでもないぞ。6機撃破。時間がない。次はあの発射台を狙ってみろ。うまくいけば奴らの宇宙行きはキャンセルだ≫


「了解……っと!?」


 突如レーダーに敵機の表示が現れ、会話を中断する東条。鮫島もその数瞬前に気づいたらしく、エネルギー供給を中断していた。


≪敵3機!射撃中断しろ!≫


「分かってますよ!」


 素早く射撃を中止し、シールドライフルをサーベルモードにして敵を待ち構える体制に入る東条。鮫島もエネルギー供給用のチューブを切断し、リノセウス用のサーベルを取り出していた。


≪常盤君の勘は当たっていたようだ≫


「あいつは妙に勘がいいところありますから。ヴィルヘルム、伏兵の襲撃を受けている。各機も、警戒を」


 僚機に警戒を促したところで、3機のセカンド・アリアが姿を現した。


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る