第26話 強襲と離脱 1
≪シャトル発射まであと20分。順調です≫
「よォ~し。そのまま止めるなよ?アルヴァーリ、発進だ。各機、シャトルに攻撃させるな」
乗機アルヴァーリのコックピットに飛び乗ったサイラスが基地の防衛にあたっているパイロットたちに告げる。横からシャトルで待機している渡が文句を言ってくるが、彼が前線に出ればほぼ100%発射に間に合わないのは彼を知っている人物ならばわかり切っていることなので取り合わない。
「数は少ないが、腕が立つ奴らが相手だ。各機、攻撃の際は2機以上で当たれよ」
アルヴァーリのモノアイに光が灯る。それは上下にギョロリとうごくと、格納庫の外へと視線を向けた。外ではすでに基地の防衛部隊と五菱との戦闘がはじまっているようで、爆発音や警報、射撃の音が鳴りやまない。
「さ、制限時間まで守ればこっちの勝利だ。せいぜい楽しませてもらおう」
***
雪原の基地の防衛にあたっている機体、セカンド・アリアは量産機としてより完成された性能になっている。それに加えてパイロットも文字通り生存をかけて戦ってきた強者だ。それほどの敵が相手では、簡単に撃破にまでは持っていけない。
「早く来なさいよ、ミハイル」
苛立った様子で長距離用ライフルのトリガーを引くライサ。彼女ほどの腕前があっても、まだ1機として仕留められていない。それどころかどんどん距離を詰められつつある。敵機はライサの銃口から弾道を計算しているかのように紙一重で躱しながら詰めてきているのだ。
「私達みたいなモルモットを使いつぶそうっていうのが腹立たしい……!」
対峙すればわかる。敵機の動きは常人のそれではない。かといって東条のような空間把握に長けた才能も、鮫島のような蓄積された経験からの動きも感じられない。となれば、答えは1つ。ライサのような人を人とも思わない人体実験のなれの果てということだろう。
≪お待たせしました、ライサさん。五菱、全員到着です≫
「遅いわよ」
ライサの乗るレグルスの頭上を数機のロードが飛んでいく。ミハイルのレグルスを先頭に、ヴォイジャー、カッシーニが続き、地上をニカーヤと鹵獲したセカンド・アリアが進む。そして、鮫島が搭乗しているのであろうリノセウスが支援用の火器を装備してライサのレグルスと並んだ。
≪こちらヴィルヘルム、あと5分で補給おわり。終わったら目標地点へ向かう≫
「レグルス2了解。"楔"の撃ち込みはもう少しで完了するわ。各機、援護を」
唯一補給のために帰投しているヴィルヘルムからの報告を受けると、ライサはレグルスの持つライフルのアタッチメントに弾丸を、いや、"
≪レグルス1、まもなく接敵します。陽動は任せて≫
≪D1、D2共に右翼の敵機と交戦開始。敵の数は想定内だ≫
≪ヴォイジャー、カッシーニはあと数秒で敵左翼と接敵する。が、様子がおかしい。待ち伏せを考えた方がいいかもしれない≫
前線へと向かった僚機から報告が届く。今回は彼女が部隊の脳。新たに得た情報を加味しつつライサは最善の行動を導き出すのだ。
≪待ち伏せ?ありえない!僕たちが確認した時にはせいぜい20機。その半数が"動かせない状態”にあると確認してる。それ以上の数、それもこのアーリアタイプが――≫
「うるさい!全機、敵増援の可能性を考えて行動すること。私とリノセウスでできる限り援護はするわ。勝負はヴィルヘルムが戻ってきてからの10分。成功させるわよ」
レナートが何か言いかけたが、それは不機嫌なライサの言葉に上書きされた。彼女の言葉に皆了解の意を示すが、ライサは内心自信がなかった。クレストの作戦が確実とは言えないこともあるが、一番の理由は自身には指揮能力はないと考えていたからだ。その不安が無意識のうちにため息となって口から吐き出される。
≪大丈夫だよ。……あ、理由はないんだけど。ライサさんなら、きっと。大丈夫≫
何を感じたのか、ミハイルからの通信が入る。ため息を聞かれたのだろうか。
「あ、あなたに言われるまでもないわ。他人を気遣っている暇があるなら敵を倒しなさい」
ミハイル機と交戦中の一機に狙いを定め、ボルトを撃つ。ライフル下部のアタッチメントから発射されたそれは正確にセカンド・アリアの炉の位置を貫き、しかしそれでは終わらずにそのまま機体をその後ろ側にある建物へ張り付け状態にした。その後、ボルトの機構が作動し、展開された5つのツメが建物と機体をしっかりと固定した。
≪了解。あ、楔の設置を確認!≫
敵の射撃をかいくぐり、右手に持ったビームの特性を得たロングソードを振りかぶり、そして振り下ろした。
敵機のセカンド・アリアはシールドを構えるものの、レグルスの持つビームサーベルと同じ、赤い色を帯びたロングソードはそれごと容易に敵機を切り裂いた。赤いセプチウム粒子は緑や青に比べてエネルギー量が高いため、強固な素材を使用した実体シールドと言えども紙のように切断可能だ。その分炉にかかる負担も大きいため長時間の使用はできないが。
敵パイロットは技術や反応速度はいいが、カンや洞察力はまだまだのようだ。例えるならあらゆるパターンを学習した機械のようだ。人間的な部分が感じられない。だからこそ意表をつける近接戦闘が有効なわけだが。
「各機、予定ポイントに敵を誘導して。気取られないよう注意なさいよ」
こうして五菱の作戦は順調に進みつつあった。
***
「もう2機落とされた?もうスナイパーは捨て置け。どうせ基地に人はほとんど残ってないんだ。引き込んで建物をうまく使って時間稼ぎしろ」
アルヴァーリを駆り前線へと向かいながら早すぎる僚機の撃破報告を受けるサイラス。すぐさま作戦の変更を伝えると、サブモニターに映された時間を見る。もうすぐ5分が経過しようとしている。
「見つけたぞ、1号機!」
アルヴァーリのセンサーがミハイルの乗るレグルスを捉える。
「今日で片を付けさせてもらおうか……!」
サイラスは腕部のビーム砲をレグルスに向け、そのトリガーを引いた。オレンジ色のビームがレグルスのコックピットめがけて飛んでいく。
続けて海では見せなかったアルヴァーリの特殊ギミックを使う。
「いけ!」
アルヴァーリの腕が半ばから分離し、レグルスへと飛んでいく。本体からワイヤーが伸びているので完全に分離したわけではないが。
「さて、どう来るかな?あの小僧は」
サイラスはいつも通りニヤリと笑うと、反撃に備えた。
***
アラートが鳴る。ロックオンされているのだ。すぐさまシールドを構え、その方向を向く。
「なっ、この前の新型……!」
シールドによりオレンジ色の粒子は防げたが、その後に予想外の衝撃が機体を襲う。シールドにアルヴァーリの腕が、ツメがガッチリと捕まっていた。
「まずい!」
≪また会ったな、小僧。今日で終わりだ≫
「何を!」
アルヴァーリの腕から粒子が放たれ、シールドを焼く。至近からのビームを連続で受ければいくらシールドと言えどあまり持たない。すぐさまロングソードでアルヴァーリのワイヤーを切断しようとするものの、その前にシールドごと左腕を潰されてしまった。ビームの威力もさることながらクローの力も相当なものだ。
ロングソードの刃はクローのうち1本を切断するにとどまり、アルヴァーリは射出した右腕を難なく回収した。
「こいつに勝てるか……?いや、皆に頼ってばかりはダメだ。ここで勝って知ってること全部吐かせてやる!」
残った左腕を付け根からパージする。自身を奮い立たせながらアルヴァーリを見据えると、ミハイルは全速力で距離を詰め始めた。
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