第18話 強者 2
「お前ら行くぞ!」
≪応!≫
予想もしない空からの攻撃に気を取られている護衛部隊を仕留めるべく、マルクたちはニカーヤの足をシールドブースターに固定し、スノーボードの要領で雪でできた丘を降りていく。
≪ツーマンセルで行動だよ。手強いのは僕とマルクが相手をする≫
レナートの指示に従うように3チームに分かれたニカーヤは、それぞれ奇襲を生き残った護衛を潰しにかかる。マルクとレナートは近接用装備のレナート機を先頭に、後衛をマルクが務める形をとった。
「さ、仕事だ」
自機に長距離用ライフルを構えさせたマルクは照準をハーシェルのコックピットに定めた。
***
戦闘の音とともに慌ただしくなったファランクスの艦内で、五菱のパイロットたちは格納庫へと急いでいた。襲撃犯は相当な手練れらしく、奇襲によって護衛部隊に大きな被害が出ている。それでも持ちこたえているところを見るに、護衛部隊の縁刀も中々のパイロットを寄越してくれたということがわかる。
≪俺が一番乗りだな!≫
開いていたコックピットへ飛び込むように入った東条は、アイドリング状態にあった自機ヴィルヘルムを慣れた手つきで戦闘モードへと移行させる。そのままカタパルトへと機体を動かすと、間髪入れずに射出の態勢を取った。
≪敵部隊に白いマヒトツが数機確認されている。行けるな?≫
≪分かってる。コイツの性能、よく見ときなって≫
社長兼艦長の滝沢の指示に、皆まで言うなとばかりに自身たっぷりの表情を見せた東条は、自身の得意とする空間戦闘を行うべく機体を発進させた。
≪東条、ヴィルヘルムで制空権を確保する!≫
ファランクスを飛び出したヴィルヘルムは航空機形態へと素早く変形し、編隊を組む白いマヒトツたちを追い始めた。
≪私たちも行きましょうか≫
≪ええ、地上も厳しそうですしね≫
続いて発進シークエンスに入ったのはセレンとテミスのカッシーニだ。彼女らは積雪のある地域での戦闘を考慮したため、雪に足をとられないよう脚部に外付けのホバー用スラスターを装備している。そのためシールドブースターに乗るニカーヤに追いすがることはさすがにできないが、応戦できるだけの機動力を得たのだ。
五菱の所有する機体の中ではスケアクロウに次いで古い機体ではあるが、彼女たちの連携力や技術で最新鋭機にも劣らない戦力になることはすでに証明済みだ。
≪航空戦力は東条に一任している。テミスとセレンは護衛部隊の援護を。常盤と鮫島、ミハイルは特に手強そうな連中を抑えてくれ≫
それぞれの搭乗機に滝沢の指示が飛んでくる。それに各パイロットは了解の意を返した。
≪ヴォイジャーより各機へ。吹雪の兆候が見られている。特に東条さんは迷子にならないよう気を付けてくださいよ≫
テミスとセレンに続いて常盤機が発進する。彼の乗るヴォイジャーには"ドクターの
≪珀雷、発進する。敵は吹雪も考慮した戦略を展開してくる可能性が高い。天候に注意し、僚機からあまり離れすぎないようにしろ≫
≪ミハイル機、了解。鮫島機の後に発進します≫
残りの2人も発進の準備を整え、ファランクスを飛び出していく。そしてその後に一人、ふらつきながらも自機のレグルス2号機へ向かうライサがいた。
「私……も、戦わなきゃいけないのに……!」
彼女の体は度重なる発作でボロボロになっていた。それに加えて戦闘による負荷で、もう全快になるには年単位での療養が必要だろう。
「待ちなよ。その体で何をする気だ?」
メカニックの手伝いを引き受けていたクレストが、ライサを止める。彼はハッチが開きっぱなしだというのにも関わらず、相変わらずの白衣姿だ。ライサは寒くないのか、とも思ったが今は気に留めている場合でもない。戦闘に参加はできなくとも援護くらいはしなければ、逃げ出してすべてを忘れて五菱でそれなりの人生を送っていたミハイルを、過去の因縁に引き戻した責任を取ることができない。
「うるさいわね。私は責任を取りに行くの」
「君が何を考えているかは分からんけど、そんな体で戦えるほどアイツらは弱くないぞ?」
「あんたにあいつらの何がわかるっていうの?」
「キールからある程度は聞いている。だからこうして止めている」
ライサはクレストの脇を通り過ぎようとするが、肩を掴まれ止められる。振りほどこうとするものの、思うように力が出ず倒れかけてしまう。
「とにかく、吹雪が来るって話なのに狙撃しようなんて無駄もいいとこだ。部屋に戻って休みな」
「……ッ!クソッ!」
クレストを突き飛ばすと、クレアは渋々格納庫を後にした。
***
「吹雪になるっていうが、その前に片を付ければ問題なしってな!」
ヴィルヘルムを駆る東条は眼下で僚機が次々に発進していくのを確認しつつ、前方を飛ぶ4機の白いマヒトツを追っていた。
白いマヒトツは何かカスタムを施されているらしく、若干スピードが上がっていた。しかし、完全な空間戦闘用ロードのヴィルヘルムに比べれば大したことはない。
「よーし、捉えた。コイツの威力の実験台になってもらうぜ」
機体の両側に備え付けられているシールドライフルの照準をマヒトツに定め、トリガーを引く。すると通常のライフルとは比べ物にならない程の威力のビームが放たれた。赤みがかったエネルギーの塊は航空機形態のマヒトツをいとも簡単に貫き、爆発させる。
「こいつはすごい威力だが……。いや、今はこいつらを倒すのが優先だ」
先ほどの一撃がきっかけとなって激しいドッグファイトに突入したマヒトツとヴィルヘルム。散開し、3機の内2機がヴィルヘルムの後ろを取るべく動き出し、残りの1機はスピードを上げた。
「やろうってか?いいねぇ、俺も久々に暴れたい気分なんだよ!」
さらにスピードを上げたヴィルヘルム。東条はGに耐えながらも操縦を続ける。ついに前方のマヒトツを追い抜いたヴィルヘルムはそのまま雲の中へと突っ込んだ。マヒトツたちもそれに続く。
ヴィルヘルムが追い越したマヒトツに狙いをつけて、人型に変形させた東条は肩の位置にあるシールドライフルの持ち手を掴み、近接モードにすると銃口からサーベルを形成させる。そしてそのまま追いかけてくるマヒトツを斬り払った。ライフルの銃弾と同じく威力に長けた赤い刀身は発泡スチロールを焼き切るがごとく、たやすく真っ二つになる。
「次!」
続いて突っ込んできた2機目を同じく切り伏せる。
「ラストだ!」
最後の1機はライフルを乱射してきたため、素早い機動で避けつつすれ違いざまに上を取った。そのまま両腕でマヒトツを掴むと、奥の手のトリガーを押した。
胸部の4つの穴から目玉のような発射口が現れると赤く輝き、一拍置いてビームが発射される。数秒にわたって放たれつづけたビームは、その目玉のような発射口がぐるりと動き続けた影響で細切れになり、そのまま高度を落としていった。
「えっぐいなぁ、これ。でも好き勝手やってるこいつらにはちょうどいいか」
危なげなく航空戦力を壊滅させたヴィルヘルムは高度を下げ、地上で戦う仲間の元へと向かう。しかし、すでに吹雪であたりの視界は最悪の状況だった。東条はやむなくヴィルヘルムを人型形態へすると、風に流されないよう慎重に機体を動かしていった。
「もう終わってればいいんだけどな」
鮫島たちがもう始末をつけていることを祈りつつ、東条は急いだ。
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