第17話 強者
≪そろそろ時間か。ミハイル、戻るぞ≫
ファランクスが海岸から山岳地帯に入るかといったところで次のチームとの交代時刻になった。分かれて警戒にあたっていた2人は油断することなく母艦へと向かう。
敵である"探究者たち"の所有する機体はどれも優れており、また奇抜だ。アルヴァーリがそのいい例だろう。現在、水中で活動するために開発された機体というのは実質ない。水中用のオプションを装備する機体があるだけに留まっている。そのため、不完全ながらもステルス機能があり素早く水中で動け、ビーム系武装も使えるアルヴァーリは異質な存在であると言える。
「了解。そろそろセレンさんたちが来るはずですしね」
≪目的地に着く前に現地の縁刀の部隊と合流する。そこからは彼らの案内で目的地に着く手筈になってる。俺たちは現地に着くまで休みってわけだ≫
「川崎からの奇襲続きで余裕もないのに、よくやりますね。ありがたいですけど」
予定していた最後の補給地点に近づきつつあるファランクスは高度を下げ、2機のロードを迎えるべく格納庫の扉を開けた。先に航空機形態のヴィルヘルムが変形しつつ着艦するという器用な芸当をして、格納庫へと入っていく。続いてレグルスが着艦した。
「とりあえずは、体を休ませるのが先決ってことだな。もうこの話はやめにしよう」
ヴィルヘルムから飛び降りた東条は周りにいた整備士の1人にパイロットスーツを渡すと、足早に去っていく。
「俺もさっさと部屋で休もう」
無理をしてはライサとの約束も果たすことはできない。それに他のパイロットたちも腕の立つ者ばかりだ。今はただ不測の事態が起こらないことを願って体を休めようと、ミハイルも東条の後を追うように自室へと急いだ。
***
五菱の向かう施設にほど近い森林地帯。積雪によって一面が真っ白になっているこの一帯にマルクたちは潜伏していた。カモフラージュのために雪と同じくらい真っ白な布を背部のシールドブースターに引っ掛けるようにしてニカーヤに纏わせているために遠くからの視認はかなり難しいものとなっている。さらに、ニカーヤをかがませていたり、座らせていたりしているため、森に入らなければ見つからないだろうと思われる。
「レナート、見えてるか?」
≪ああ、そっちよりはぼんやりしてるけど。連中、縁刀から補給と護衛部隊をもらったみたいだね≫
静かな森の中マルクはライフルのスコープを介して、レナートはコックピットから顔を出して双眼鏡で覗いている。その先には着陸し、縁刀のロシア支部から補給を受けているファランクス、つまり五菱が確認できた。
「確かに補給はしてるみたいだが、護衛部隊がつくとなぜわかる?」
≪見ればわかる。警備にあたっているカッシーニとヴォイジャーがいるということはパイロットはそこに搭乗しているわけだ。でも周りにはロード大のコンテナがいくつかあって、それぞれに1人ずつパイロットらしき人がついてる。それと五菱のパイロットがいないのも理由の1つだね。おそらく目的地まで五菱の戦力を温存させるつもりなんだろう≫
「言われてみれば確かにそうだな。ということは……」
≪奇襲を仕掛けて護衛部隊を潰す。運が良ければ機体が出てくる前にあのデカい
「だな」
詳しい方針が固まったところで個人の通信回線を切り、部隊全体のものに切り替える。
「縁刀の補給部隊が引き上げるまでは各機待機。目標の移動開始とともにルートを割り出して待ち伏せするぞ」
***
「積み込み終了しました。サインを」
「あー、はいはい。これでよしっと。ご苦労さん」
先ほどまで慌ただしかった格納庫で城崎が縁刀の補給担当に物資の受け取りサインを書き記す。そして改めて受け取った物資を見る。
「各種物資に補修用の装甲、試験用の武装。これがタダで手に入るとは考えられんな」
「物資や装甲はともかく武器に関してはドクターが作ったはいいものの倉庫の肥やしになってたものですから、お気になさらず。こちらとしても倉庫に空きができてありがたいですので」
「そうかよ。ま、それも見りゃあわかるけどな」
搬入された武器の多くは妙に大きかったり、用途が不明だったりと一目見ただけでどのような武器なのかはわからない。
「とにかく、確かにお渡ししましたからね。ヴィルヘルムとレグルスの戦闘データ、あとあの奇妙な機体どものデータの件。くれぐれもよろしくお願いしますよ」
「そういうのは社長か鮫島に言ってほしいもんだが」
部下を伴って去る縁刀の社員を見つつ、城崎は呟いた。警備にあたっていたロードが次々とファランクスを離れていくのが、解放されている格納庫のハッチから見える。そして、それと入れ替わりでコンテナに横たわっていた機体たちが立ち上がっていく。
「お疲れさん。色々入ってきたようだな」
一息ついた城崎に鮫島が声をかける。彼は出撃以外は滝沢の手伝いをずっとしていたため、顔にいくらか疲れが出ているように見える。そんな鮫島は城崎に水を手渡した。城崎は何も言わずにそれを受け取る。
「お前のほうが疲れてるだろ。ったく、これから出発だってのに。少しは休んでおけ」
「わかってる。しばらくは縁刀に任せて休むとするよ」
「ああ、そうしろ」
城崎は鮫島の背を叩くと、受領したものを確認する部下の元へ行く。それを見届けた鮫島は大きな欠伸をすると、格納庫を出た。
***
雪原の中を大きな
そしてそれを監視する者たちが少し離れた位置にいた。マルクが率いるニカーヤ部隊である。彼らはカムフラージュ用の布を纏い、それぞれの武器の銃口を護衛のロードに向けていた。
「よし、私の射撃で作戦開始だ。各機、準備しろ」
緩やかな傾斜の上に陣取っている6機のニカーヤはシールドブースターをすぐに使えるよう深々と雪原に突き刺し、そして各々の武器をファランクスの方へと向け、攻撃態勢をとっている。
「もうすこし……。よし、いいぞ」
マルク機が構える長距離ライフルが、先頭を歩くカッシーニを捉える。そして、味方機の準備が整っていることを確認し、引き金を引いた。
***
突如、先頭を行くカッシーニの胴に穴が開く。あまりにも突然のことで僚機は何もできないでいるかと思いきや、即座に動く。
≪襲撃だ!行動開始!≫
まず撃たれたカッシーニのそばにいたハーシェルが設置式シールドを即座に展開し、周囲のハーシェルも同様の動きをする。ある程度屈めばロードでも十分に隠れることのできる大型シールドだ。十分な耐久性を持ったそれを遮蔽物として狙撃地点を大まかに検討をつけて射撃を開始した。カッシーニは実弾ライフルを、ヴォイジャーはビームライフルを撃つ。
が、当然狙いすました攻撃でもないものは当たらない。いや、当てられないというべきか。
≪上空に感あり!応戦しろ!≫
射撃が終わらないうちに次の攻撃が彼らを襲う。4機の白いマヒトツが空から一斉射撃を行ったのだ。攻撃力の低いマヒトツではあるが、この4機は武装をビームライフル1つに絞っているため、射撃戦では一定の戦果が期待できる。
そんなマヒトツたちが航空機形態で1機のカッシーニをハチの巣にし、ヴォイジャーのショルダーシールドを破壊し、離脱していく。
航空戦力はハーシェルとビーム兵器を持つヴォイジャー数機が対応するものの、咄嗟のことで大したダメージを与えることができなかった。
≪敵機補足。ニカーヤタイプが6機。各機抜かるなよ!≫
マヒトツの攻撃を合図に、積雪によって小さな丘になっている部分から6機の白い布を纏ったニカーヤが、シールドブースターに乗り姿を現した。
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