第6話市街戦

 レグルスのコックピットめがけて振り降ろされた光の刃はあと数cmというところで、それを振るう腕ごと吹き飛ばされた。質量相応の音をたてながら地に落ちたそれに握られたサーベルは数秒後にエネルギーが切れてフッと消える。

 肩から白い機体の腕を吹き飛ばした弾丸はその勢いが衰えることなく、その延長線上の地面を深く抉った。

 思わずミハイルは振り返る。視線の先には縁刀の格納庫やビルなどの建造物。そのうちの1つにそれはいた。片膝立ちの状態で狙撃用ライフルを構え、狙撃用バイザーを下ろしたもう一機のレグルスだ。


「あれは……!」


 先日回収し損ねた機体だ。よく見れば細部は違うもののおおよそはレグルスと同じような形状であり、ほぼ同型のようにも見える。確か女性のパイロットが搭乗していたはず。


≪これで1つ貸しね。五菱のパイロットさん?≫


 ミハイル機を助けたもう一機のレグルスはつづけて2発、コックピットを狙いライフルを撃った。片腕になった敵機はそれを知っているかのような最小限の動きで避ける。が、先ほどまでの動きのキレはなく機体には弾丸が掠った傷跡が残った。


≪ボケっとしない!反撃しなさいな!≫


「言われなくてもッ!」


 ミハイルは折れたロングソードを捨て、腰に手を回して腰部に収納されていたサーベルを引き抜いた。抜刀と同時に黄色がかったビームの刃が形成される。それを一瞬のためらいもなく横に薙いだ。


「さすがに無理か……!」


 敵機はとっさに距離を取ったため切っ先が装甲を焦がすものの、ダメージには至らない。


≪―――≫


 ミハイル機はサーベルを構え、もう1機のレグルスはライフルを構える。白い機体は背部のライフルに手をかけ、様子を窺うように2機と対峙していたがしばらくすると、何かを確かめたように小さく頷いて破損した腕を拾い上げて彼らから遠ざかっていった。


「待て!」


 先ほど捨てたライフルを拾い上げて射撃をするが、白い機体は軽々と避けて離脱していく。


≪やめておきなさい。中途半端な攻撃はかすりもしないわよ≫


 ライフルを持ったレグルスがミハイル機の元へと降下してくる。器用にバーニアを吹かし、衝撃を殺して着地をしたレグルスは彼を制した。


≪それに、あなたはジャミングで気づいていないだろうけど外は縁刀の部隊と所属不明部隊の戦闘になってる。お仲間に合流したほうがいいんじゃないかしら?≫


 パイロットの言葉に敷地外に目をやると、微かな振動や銃声とともにいくつかの黒煙が上がっており、街の上空でも激しい戦闘が行われているのが確認できた。



***



 白い機体が鮫島たちの前から去ってすぐに、上空を降下してきた新手が彼らの進路をふさいでいた。アーリアを主力とした部隊は所属を示すものは一切なく、またアーリアをベースとしたように見える新型も混じっていた。その数と新型の存在で、彼らの組織が大きなものであることがわかる。

 彼らはまるで縁刀の敷地には行かせないというような意思を感じる動きで鮫島たちを妨害していたが、そこは多少なりとも腕に覚えのある者たちで構成された五菱の部隊を完全に抑えることは出来ずに徐々に前進を許していた。


 空戦を好む東条のヴォイジャーをカバーする形でテミスとセレンの2機のカッシーニが追従し、地上ではロードの戦闘における技量が桁違いの鮫島のスケアクロウと索敵に長けた常盤のヴォイジャーが連携し確実に敵を潰している。


 「クソッ、重い!」


 東条がヴォイジャーのコックピットで毒づく。彼が先の仕事まで愛機としていた機体は返却が決まっており、搭乗が禁止されている。なのでヴォイジャーに乗っているのだが、愛機と比べて偏った機体でない分重い。なので彼の動きに機体がついていけてないのだ。それに加えてゆく手を阻むアーリアの部隊はそこらのPMSCよりも統率が取れており、腕もいい。それが重なって中々撃破ができないでいた。


≪東条さん、あまり突出なさらないでください≫


 彼を援護するカッシーニの内1機を駆るテミスという女性が東条をたしなめる。空戦用のオプションを装備しているとはいえ、ライフルと予備弾倉にロングソード、汎用シールドを装備したカッシーニが空中で戦闘行動できる時間は限られている。端的に言えばオプションに内蔵されている追加バッテリーを消費しきったら空戦は不可能になるのだ。


「悪い。こいつに無理をさせなきゃまともに戦えなくて」


≪それは例の可変機に慣れすぎだからですよ。カッシーニで援護する私達の身にもなってください≫


 もう1機に乗るセレンが東条に追い打ちをかける。


「ウチの女性陣は手厳しいね」


 2人にはかなわないといった様子で軽くため息を吐く。が、機体はしっかりと操作しており、先ほどから狙っているアーリアにとどめの一撃とばかりにビームライフルを叩きこんだ。ビームの弾丸はコックピットを正確に貫き、アーリアは動きを停止して墜落していく。


「まずは1つ」


 僚機が撃墜されて激昂したのか、もう1機のアーリアがロングソードを振りかざして接近してくる。が、怒りに身を任せた単調な攻撃だ。振り向きつつサーベルを抜く。


「兵士失格だ」


 振り下ろされた剣は肩のシールドで受けつつコックピットにサーベルを押し当て、その後ビームを発生させた。一瞬の硬直の後にパイロットを失ったアーリアは力なく地上へと落ちていく。


「2機仕留めた。このまま突っ切って目的地に急行する。鮫島さん、構わないな?」


 障害物の多い地上を行くよりも空を行ったほうが目的地へスムーズに着ける。もちろん標的にもされやすいが、そこは腕の見せ所だ。

 縁刀の部隊や軍との戦闘らしき光や爆発も見られ始めている。加えて目的地まではあと数キロの地点だ。強行突破できるならそれに越したことはない。


≪もう、言ったそばから!セレン、東条さんの援護のみに集中します。他は常盤さんにお任せしなさい≫


≪了解。常盤さん、お任せしますよ≫


 相も変わらず勝手をする東条を追いかけるように2機のカッシーニがカバーに入る。


≪おいちょっと待て!全くウチのおてんばどもは……≫


≪常盤君、ついていってやれ。私は1人で問題ない≫


 地上では常盤機が東条たちの方を見上げながら抗議の無線を送っているが、それにはお構いなしに空の3機は進んでいってしまう。いつもカバーばかりさせられている常盤にはいい迷惑だ。しかし、鮫島が許可を出してしまった以上従うのが彼だ。悪態をつきつつも機体を空へと飛翔させ、先行した3機を追いかけていく。


 


≪本当によろしいのですか?≫


「ああ。そろそろ軍も動いているはずだ。軍か縁刀の部隊に合流する。地上戦しかできないスケアクロウで無理に君たちについていく必要はない」


≪分かりました。お気をつけて≫


 援護についてくれていたヴォイジャーを送り出すと鮫島は機体のシステムチェックを行う。


≪右腕残弾28%、左腕ヒートブレードモード使用限界まで57分≫


「索敵チェック。縁刀の部隊が一番近いか。それにしてもあのアーリアども、この前のやつらと何か関係が……?」


 空になった弾倉の一つをパージすると、戦闘をうまく切り抜けながら縁刀の部隊への合流を急ぐ。ベテランのロードオペレーターである鮫島の勘が何か良くないことが起こり始め散ることを告げていた。






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