第30話 空の見方

 僕は幼い頃から、人よりも不器用だった。

 今日も検品の工程を見落として工場のラインを止めてしまった……。

 途端に同僚の冷たい視線が刺さってくる。

「あぁ、消えてしまいたい……」


 いつもの道を、トボトボと重い足取りで帰る。

 視線は決まって斜め下だ。

 すれ違う人の靴だけが、僕を認めてくれてる気がする。


 その時三毛猫が目の前を遮り、尻尾でくいくいっと地面を叩いた。

 なんだろう、まぁ僕には関係ないだろうと視線を外すと、


「あなたは、日本の裏側にあるブラジルの青空を眺めてるんですよ!ブラジルは今、朝焼けです!」


 と言ってスックと立ち上がり、ガッツポーズをした。

 僕は目をぱちぱち、そのあまりの滑稽さに、久しぶりにクスリと笑った。


「あなたが下を向いてるつもりでも、実はそうじゃない。さぁ明日もそれなりに頑張って‼」

「なんて、にゃ‼」


 はははっ、と笑いながら、また四つ足で路地裏に消えていった。

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