神性封じ
「まず、圭太君の持つ能力についてだが……。あれは本来、神という概念を創造した古代人の持っていた力だよ」
「古代人?」
また、とんでもなくスケールの大きな話になったものだ。自分の生きる世界と懸け離れて来た気がして、圭太は聞いていて話について行ける自信が早くも喪失し始めた。
「ヒサゴ君ならば理解しているだろうが、神というのはもともとは『無』だ。その『無』に『神』という概念を与えて創造、或いは想像したのが古代人なのだよ。その創造する過程で同時に得た力というのが創造とは対称とも言うべき力……神性を消し去る力だ。圭太君の持つ能力というのは、その『神性を消し去る力』から派生した『神性を封じる力』というものだろう」
そう言われてみれば、前にヒサゴも神の成り立ちについて同じような事を話していた気がする。もっとも、その内容はあまりにも哲学的過ぎて圭太にしてみれば聞いていて頭が痛くなって来るような話だった。伯乃姉の話も然りである。
「なるほど……。今は神の存在を抹消できるのは神だけだものね。派生系の『神性封じ』を使える人間が今でも居た事には驚きだけど、可能性としてはゼロじゃないか……」
「ん~?」
ヒサゴもしっかり理解できているようだが、案の定、圭太は一人置いてけぼりを食っている気分である。
腕組みをして唸るのがせいぜいだった。
「ヒサゴ君の言う通り、現代人に神の存在を完全に消し去る事は不可能だ。圭太君にも分かりやすく説明すると、文明の黎明期であった古代の人々であれば未知の存在に『神』という概念を与える事も出来れば、その逆も出来たものだが、文明が発展し、多くの未知なる存在が解明されるようになった現代人は古代人に比べて圧倒的に想像力が欠如してしまったのだ。それ故、現代人は新たに神を創造する力も持たないし、当然、神を消す力もない。しかし、現代人でも信仰というものは捨て去っていない以上、『神性封じ』という力であれば持つ可能性もあるという事さ」
「ふぅ~ん……」
要するに色々知りすぎて非科学的な物事を容易に信じなくなった現代人では神を創り出す事も消し去る事も出来ないが、それでも完全に信仰心を失っていないから、劣化版のような力を持つ者が生まれる事もあるということだ。
何となく圭太にも理解できた。
「でも、何でオレにそんな力が?」
「そこまでは私とて分からんよ。隔世遺伝的なものと考えるのが普通だろうな。たまたまキミはその力を持って生まれてしまったに過ぎない。しかし、その『神性封じ』の能力を持ってしまったがために弊害もある。キミにも身に覚えがあるんじゃないか? ここぞという時にチャンスを逃すという体質」
「え? それって関係あるのか?」
圭太は目を丸くする。
自分に古代人が持っていたような力がある事にも驚きだが、必ずと言って良いほど好機を逃す運の悪さまで、その事と因果関係があるなど想像もしてみなかった。
「神の力を封じる力を持っているという事は、つまり神々からも目をつけられるし、同様に直接、人の運気を左右させるような好ましからざる霊や物の怪にも目をつけられる。キミの力を利用しようとしたり、或いは邪魔と見て遠ざけようとしたり。一般的に人は何らかの加護を受けて生きているものだから、運気のバランスを保っているものだが、キミのような場合、神などの加護を受けられず、自然と厄を近づけ易い体質になっているのだよ」
「だからチャンスが巡って来ても悉く失敗する……と」
圭太はため息をついた。
ただ運が悪いという気分的なものであれば何とでもなろうが、こう明確な原因を提示されると自分の心がけ次第でどうこう出来る問題ではないという現実に心が折れそうになる。
それでも救いはあった。
「じゃあ、絶体絶命の状況に強いっていうのは?」
「ああ、それも関係はあるだろうな。神性を封じるだけの力を持っているという事は、自分に降りかかる厄が許容量を超えた時、無意識にその力が防御に働いているからだろう。神性を封じる能力に限定される事なく、持ち得る力そのものが機能しているという事だ。例えるなら……そうだな……普段であれば八割以上の電力を『神性封じ』の方へ供給しているものが、本体そのものへの危機により『神性封じ』に供給される電力を一時的に遮断、或いは二割程度に抑え、その分の電力を自己防衛機能に回している……といった具合か」
まあ、分かるような分からないようなといった感じである。
だが、そんな話をオムハヤシをしきりに口へ運びながら聞いていたヒサゴは、どうにも釈然としないといった顔である。
「話はわかるんだけどさぁ……ケータのそれが『神性封じ』だとしても、あたしの知ってる『神性封じ』とは違うのよねぇ」
そう言ってスプーンを圭太の鼻先へ突き出した。
僅かにソースの香りが残るスプーンに押されるような形で圭太は思わず上体を仰け反らせる。
「ヒサゴの知ってる『神性封じ』とは違うって……そんなに色々種類があるもんなのか?」
「いや、そういう事じゃなくて。普通、『神性封じ』と言ったら直接、御神体なり何なりに触れて力を注ぎ込む事で神の力を無力化するものよ? こんな触媒を使って封じるなんて聞いた事ないわ」
ヒサゴは忌々しげに首の注連縄を摘まむ。
力を封じているだけではなく、無理に外そうとすればヒサゴの体に電気が流れるというオマケつきだ。だから、なおのこと不機嫌なのだろう。
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