先生がいた教室

鮭さん

先生がいた教室

「突然ですが、明日からみんなで豚さんを育てようと思います。ただ約束があります。一年後みんなでこの豚さんを食べること。約束できる人だけ豚さんを飼いましょう。」


『は〜い!!』


 クラスの30人、みんなが同意しました。ということで、みんなで豚さんを飼うことになりました。弘子先生は毎年同じような試みをしています。命の大切さを学ばせるためです。


 次の日、かわいい子豚がやってきました。生徒たちはこの豚に豚ゾウという名を与え、大層可愛がりました。餌やりや豚部屋の掃除などみんなで分担、協力して行いました。皆1日も豚ゾウの世話を怠りませんでした。


 あっという間に一年経ちました。今日は豚ゾウを出荷する日です。


「みなさん。今日は豚ゾウにさよならする日です。笑顔でさよならしましょう。」


 シクシクシクシク、シクシクシクシク


 みんな泣いています。誰一人顔を上げません。でもこれは毎年のこと、弘子先生は慣れっこでした。


「みんな、顔をあげて。一年経ったらさよならするという約束だったでしょう。」


「先生、約束は守らなきゃいけないんですか?」


 二号車の三番目に座っている貴子ちゃんが目に涙を浮かべながら言いました。貴子ちゃんは特に豚ゾウを可愛がっていました。他クラスの教室に豚ゾウを連れて行き怒られたこともありました。


「約束は守るもの。当たり前でしょう。貴子ちゃんも小学六年生なんだから、それくらいしっかりしなきゃ駄目よ。」


 弘子先生は言いました。


「でも先生、この前約束破ったじゃん。」


 三号車二番目にいるタケル君がいいました。


「今日は暑いから体育はお休み、代わりに明日やります。これは約束ですって言ったのに、次の日もやらなかった。」


「それは次の日もすごい暑さだったからでしょう。みんなを守るために休んだのよ。」


 弘子先生は言いました。ちょっとめんどくさいな、と思いました。でも、豚ゾウは食べさせなければいけません。授業のカリキュラムだからです。


「でも約束は破ったんだ。先生も破ったんだから約束は理由にならない。」


「それに、今豚ゾウを食べたい人は先生だけ。多数決をすれば豚ゾウを食べたくない派の圧倒的勝利になる。民主主義の原則は多数決だって先生この前の社会の時間言ってたじゃん。」


 やんちゃ坊主だが頭のきれる亮太君がいいました。


 そうだよ、そのとうりだ、みんな豚ゾウを食べなくていいんだ


 教室はざわめき始めました。みんなこれからも豚ゾウと一緒にいれると考え始めたようです。先生は困ってしまいました。このままだと生徒になめられてしまう。こんなことになったのは初めてです。


「うるさい!!先生は絶対なのよ!!」


 先生はみんなの方を見て大きな声を出しました。教室は静まりかえりました。先生は満足し


「みんなわかったようね。豚は人間の食料なの。みんなが食べてる豚と豚ゾウはおんなじなのよ。だから豚ゾウも食べなきゃいけないのよ。」


 穏やかな声で話しました。


「先生がいなくなればいいんじゃないですか?」


 義彦くんが言いました。


「先生がいなくなれば豚ゾウを食べなくて済む。」


「義彦くん、何言ってるの。」


 先生は困惑した表情で言いました。


「そうだ!!先生を食べよう。」


 将生くんが言いました。


 そうだ、そうだよ、先生を食べればいいんだ、食べちゃおう


 教室はそんな声でいっぱいになりました。そうこうしている間に教室の最前列に座っていた八人の生徒が立ち上がり、先生の両脇を固めました。


「ちょっと、席に座らな、、きゃあーー!」


 先生が言い終わらないうちにこの生徒たちは先生に襲いかかり先生を倒してしまいました。すかさず増援に来た次郎くんや朝日くんが鉛筆で先生の目を突き刺しました。


 ぎゃああああああああああああああああ!!


 絶叫。増援は増えていくばかり。みんなハサミで先生の体を刺し続けます。教壇は血だらけになりました。あっという間に、先生は動かなくなりました。



 よし、食べよう。


 生徒たちは先生に噛み付きます。でも、あんまり美味しくありません。


「豚ゾウも食べるかい?」


 貴子ちゃんが豚ゾウを先生の前に連れて来ましたが、豚ゾウはブヒブヒ歩き回るだけで食べませんでした。草食動物ですからね。


 完



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

先生がいた教室 鮭さん @sakesan

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ