第4話 食べ物の恨みは怖すぎた

 俺は心の底から後悔している最中だ。食べ物の恨みは怖いとはよく聞くけど、まさかこれほどの思いをするとは予想も想像もしてなかった。なぜ俺は食欲を抑えることが出来なかったのだろうか。そしていつになったらこの状況から解放されるのだろうか。


「――高久くん」


「ゆかりなさんおかえりー! お先に頂いてました。って、どうしたの? そんな仁王像みたいな表情で……」


「それ、何で……?」


「んん? あ、これ? いや、それがさ……帰ってきたらテーブルの上に大量にパンが置いててさ~これはもう、食べまくるしかないと思ったんだよね。たぶん、親父が買って来たまま放置しといたやつだよ」


「――勝手に食べてしまったんだ?」


「うん? そりゃあ食べるよ。だって家だよ? 家の中にある食べ物は自由に食べますよ?」


「……そう」


 学校から一足先に帰って来た俺は、リビングから何やら美味そうな匂いを感じてすぐにドアを開けた。そこには、大事そうに包まれている菓子パンのようなものが沢山置いてあった。見た感じは菓子パンそのものだった。


 学食とかを利用しない俺は、普段からコンビニのパンばかり食べまくっている。そんな俺の目の前に菓子パンがあったのだ。


 食べるしかないだろう。食べることに何の迷いも無かった。迷うはずも無かったのだ……。


「それで、何かわたしに言うことは?」


「ゆかりなさんの分は残ってないんだよ、ごめんね!」


「高久くん。そのパンの包装紙を見てくれる? それを見たうえで、わたしに言葉をかけてね」


「ふむ? 包装紙とな? そういや菓子パンのくせに大層なものに包まれているなぁなんて思ってたけど、これってお高いものなのかな」


「見たら分かるよ……」


 俺は驚愕した。


「あっ……あぁぁぁぁ!」


 これはアレ……女子たちの間で流行っているらしい、行列が途切れることの無い有名な店の奴。そしてよく目を凝らしてみないと分からない所に、大層すぎるお値段が書いてあった。


「ああ……!?」


 俺の小遣いでは気軽には買えないお値段でございました。そしてその包装紙は、次回の販売は数か月後ですとまでご丁寧に注意書きが! これはもしかしなくても、そういうこと?


「ご、ごごご……ごめんなさぁぁぁい!! ま、まさかそんな、そんなレアな菓子パンだったとは思わなくて、だって沢山置いてたし、てっきり……」


「高久くんはわたしに何をしてくれる?」


「えっ? えと、その……学校で毎日のようにパンをご馳走致します。ど、どうでしょうか?」


「駄目」


「で、ではどうしましょう……」


「本店に行ってくれたら許してあげる」


「おぉ! それなら喜んで!」


 本店? 何だろうか。


「じゃあ、念入りに手を……ううん、全身を清潔に保ち続けること!」


「へ? 清潔に? よく分からないけどそうします! ゆかりなさんに報いるために俺はやりますよ!」


 そして俺はそのレアなパンを作って売っている本店に来ている。ゆかりなさんが言っていたのは、パン工房でのバイトのことだった。休憩なしでバイト代は貰わなくていい代わりにそのパンを頂けるという、どこのブラックですか的なことをしている最中だ。


 あぁ、帰りたい。もうパンは見たくない……。


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