第2話 妹さんと出会う。
「高久、オレ、再婚すっから! で、妹出来るんでよろしくな」
「ウソ! マジで!? お、俺の妹! そっか、俺もとうとうお兄ちゃんと呼ばれる日が来るんだね。マジで嬉しいんだけど」
ノリが軽すぎる父親が再婚することになった。そうは言っても、もし養子縁組とかだったら結婚出来ないわけで。いや、何を考えているんだ俺は。真の兄妹なんて、最高じゃないか! いやしかし……出来れば。
そして当日、出会った彼女は俺にこう言った。
「高久くん、よろしく。わたしのことは、ゆかりなさんって呼んでね」
「え、あ……はい。よろしくお願いしますです、ゆかりなさん」
出会って早々に、俺の夢と希望と願望は脆くも崩れ落ちた。「お兄ちゃん!」と言われる響きは俺の夢だった。何でだよ……どうして同い年の妹にさん付けで呼ばなきゃいけないんだよ。そして俺の事はくん付けって、そりゃああんまりですよ。
戸籍上は兄弟にはならないと後で知り、それでも連れ子再婚ということで一応、兄妹関係。だけど、呼び方はすでに確定していた。最初はいつまでもグチグチと父親に愚痴りまくっていた。何で妹相手にさん付けしなきゃいけないんだよ。なんて、言いまくってた。それがどうしたことでしょう。今や、それが標準になってるじゃないですか。いつから「お兄ちゃん」から、「ゆかりなさん」という響きに移行していたんでしょうか。
「あの、ゆかりなさん」
「どうしたの? 高久くん」
「同じ学校に通われるのでございますか? それも同じクラスじゃありませんか」
「何で変な敬語使ってるの? 妹にそんなの必要ないよ。で、うん。そうだよ。よろしく、高久くん」
「学校では何とお呼びすればいいのかね?」
「わたしはもちろん、高久くん。あなたもゆかりなさん。オッケー?」
「イエス!」
あぁ、なんだ。悩むことなんて無用だったんだ。考えてみれば、同じクラスの女子にさん付けで呼ぶのは当たり前でした。呼び捨てとかは俺にはハードルが高すぎなんだな。納得してしまった。
ゆかりなさんとの出会いは、俺だけが緊張しまくりでドキドキしながら、その関係が開幕した。それにしても高久くん。なんていい響きなんでしょうか。案外いい子なのかもしれないと初めて会ったこの日から、俺はゆかりなさんにそうしたイメージを勝手に植え付けていた。悪い子では無いはずだ、そう信じて。
昨日はいろんなことがありすぎたので、気分転換に街に出かけることにした。流石の俺も、いつもいつもゆかりなさんにベッタリと張り付いているわけでは無くて、一人で街に繰り出すことは当然だけどある。部活の先輩のデートの続きがあるのかと尋ねてみたら、あれ以来誘われなくなったと聞かされて安心していた。
許してくれ、名も知らぬ部活の先輩。俺は妹を守りたかっただけなんだ。決して俺だけのゆかりなさんとかって思ってないんですよ? と、どこかに向かって謝ってみる。
そんな妄想を頭の中で繰り広げながら歩いていたら、妹であるゆかりなさんをサーチ出来た。妹サーチ……これは俺だけの能力。ゆかりなさんは俺のおかげで、迷子になんかならない。というのは嘘です。
「おっ? 高久くんだ。何してるの?」
「おぉ! マイハニー! 久しぶりだね」
「まだ真夏でもないけど、大丈夫?」
「すみません、大丈夫です。どうか憐れみの目を止めて頂いてよろしいでしょうか?」
ゆかりなさんといつものやり取りをしていたら、数人のクスクスといった笑いが聞こえて来た。もしかしなくても、友達と一緒だったんだな。あーやってしまった。
「高久くんでしょ? この子とおなクラの」
「さようでございます」
「ウケるんだけどー! てか、紹介してよー」
「うちの高久くん。一応、兄かな」
「一応、兄の高久です。ども」
初めてかもしれない。同級生相手に兄として紹介をされること自体が。これは何かを期待していいってことかもしれない。そう思っていたのに……。
「じゃあ、うちの高久くんと付き合っちゃえば?」
い、妹よ。いや、ゆかりなさん……あなたは何を言っているの!? ゆかりなさんの発言にどういうわけか知らないけど、他のクラスの女子たちが相談を始めていた。あれ? 俺の拒否権は無いの?
「ちょちょちょ……ゆかりなさん! 俺、誰かと付き合うとかそんなのは――」
「わたしが許可したから、とりあえず付き合っちゃえばよくない? 高久くんはもっと、他の女子のことを知るべきなんだよ。わたしにばかり付き添っていては成長しないと思うんだ」
「せめてお友達からでいいですか?」
「それでいいよ。わたしが許す!」
「ゆかりなさんは先輩彼氏と上手く行ってるのでありますか?」
「んー? 付き合ってないよ」
「な、なんだってー!? それなのに俺を他の女子と仲良くさせるとかゆかりなさんはエスの人なの?」
「どうかな~? でもさ、高久くんには成長希望! 話はそれからだよ、うん」
くっ、何か知らないが俺は試されているようだ。これはゆかりなさんに近づく為の第一歩と見ていいのか。それなら、俺も真の兄として他の女子も知ろうじゃないか! いつか必ず叶えるために。
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