第3話歌うバイオリン

 科学では理解できない事件を解決する探偵がいるらしい。その探偵たちを人は“不可思議探偵”と呼ぶ。


「今夜は下弦の月か。」

とリョウタはシンヤに言った。

「ああ、雲も少なく、綺麗に見える。」

とシンヤは言った。

するとバイオリンの音が聞こえる。

「ケイトか?」

とヒトシが問う。

「そのようだ、“アリシアが歌っている”。」

とショウゴはそう答えた。

“アリシア”とは人名ではない。バイオリンにつけられた名だ、だが100年も大切にされてきた“物”には付喪神という神様が宿る。アリシアはバイオリンの付喪神でもある。


 “アリシア”との出会いはイギリスの骨董店だった。

 当時のアリシアは「鳴らないバイオリン」と呼ばれていた。誰が弾いても鳴らない楽器として何か呪いでもかかっているのではないかと巷のオカルトマニアには噂にされていた。

そしてその噂は極東にまで聞こえてたという。

その日本から来た旅人は

「もしこのバイオリンの音が聞こえたらこのバイオリンを譲ってくれないか。」

と骨董屋の亭主に言った。

どうせ鳴らないだろうと亭主はその話に乗った。

旅人はバイオリンに触れると

「こんにちは、君はアリシアと言うんだね。」

と言った。そして

「よかったら君の歌声を聞かせてくれないか?」

とバイオリン相手に話をしていた。

亭主は色々とオカルトマニアを相手にしてきたが、物に対して話しかける奴は初めて見た。

すると島国の者はそのバイオリンを構えると調律も無しにバイオリンを弾き始め、その曲は骨董屋中に響いた。

「何故バイオリンを鳴らすことができたんだ?」

と亭主が聞くと

「このバイオリンは“鳴らすこと”はできません、バイオリン自身が“歌う”のですよ。」

日本からの旅人はそう言ってバイオリンを持ち帰った。

バイオリンを“歌わせた”極東の島国の者の噂はオカルトマニアたちに広まった。

「あの店から出してくれてありがとう。」

とバイオリン“アリシア”が言うと

「どういたしまして。ああ、俺の名は穂村ケイトだ。よろしく。」

と日本からの旅人改め穂村ケイトが言う。

「どうして私を連れて行こうと思ったの?」

と問うアリシアに対し

「君を理解してくれる奏者がいると思ったんだ。だから骨董屋に置いとくのももったいないと思ったんだよ。俺は探偵だから捜索は得意なんだ。君を歌わせてくれる奏者探しを手伝ってあげるよ。」

とケイトは言った。

 今から100年以上前バイオリン職人の家に生まれた男の子がいた。男の子は同じ年頃で近所の貿易会社の社長の美しい娘に恋をした。初恋だった。だが娘は父の仕事の関係で引っ越していき、その恋は実らなかった。

 やがて男の子は家業のバイオリン職人になったが、いまひとつ評判が悪く、売れなかった。そして流行り病にかかったが貧乏だったため、医者にもかかれなかった。ボロボロになったかつての男の子は最期にと初恋の娘を思ってバイオリンを作った。そして娘の名である“アリシア”と名付けた。


「と言った歴史を持つ楽器らしい。」

とリョウタはケイトから聞いた話を他の皆にも聞かせた。

「そういうことがあったんだね。」

とヒトシが目を見開いていった。

「ああ、だが今のところアリシアのパートナーは見つかってないけどな。」

とシンヤが冷静に言う。

「アリシアにはケイトの手伝いで幽霊の成仏に一役買ってもらっている。」

とショウゴは言った。


下弦の月に弾かれるようにアリシアは歌っていた…


不可思議探偵。それは物と話すことができる探偵。彼らはまたどこかで活躍している。

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