第四十六話 二つの視点を用いて貴方へ贈る、それぞれの昼休みの様子。


【まずは早坂はやさか先生の視点。前回に引き続き】



 人が点々とする、ここ職員室から、


仁平じんぺい、お前とここで会うなんて、思ってなかったよ」


「俺もだよ、みつぐ


 ――二人は教師、

 でも今は旧友として、お互いのことを懐かしむ場面が展開されていた。


 この二人、キャラは被る。


 まずは眼鏡、長身……約五センチの差はあるけど、どちらも和風の趣。……そして、この二人は、かつての戦友。共に戦った仲なのだ。ある種の約束、それは、……まだ戦い続ける。今度は『必殺の情報屋』という立場ではなく、表舞台の先生として……



 その意味も含め、俺は、


「まあ、世の中は狭いってことだな」と、結ぶ。


「でもな、この嬉しいサプライズに、思いっ切り乾杯したいところだな」


「そうだな、今度のサタデーナイト、三人で乾杯しよか?」


 と、切り出す。

 仁平の顔色を見ながらだけど。


「三人? お前、奥さん連れてくる気か?」


 と、いう具合に彼は食いついた。俺の奥さんが誰なのか、もちろん彼も知っている。そう……そうだよ、奴と同じように。そう、あいつだよ。


「いや、リンダじゃなくて、ときだよ、覚えてるだろ?」


「鴇か、そういやこの間、あいつに会ったんだ」


「じゃあ、話が早いな」


「そうだよな、話が早いよな」


「例えば?」


「そう、例えば、あいつがサッカーチームを作って、俺も参加してることだ」


「なら、『お前も参加しないか?』って、勧誘するよな」


「うむ、その通りだ」


「まあ、仁平がサッカーやってるのは意外だったけれど、参加するよ」


 仁平のイメージは剣道だったし、

 情報屋での武器も剣道だったし、……まあ、それはそれとして、


「これで戦友が揃ったわけだ」


 と、仁平は結ぶ。ある種の予感、勘と表現するのが普通か? 見かけによらず拙い表現だ、お前も、俺も。まるでミラクルな感覚、あの頃にハートが戻る、気持ち良い程。



「戦友か」


「ああ、そうだ。俺たちのチームは『情報屋の集い』で、共に戦った友の集まりだ」


「じゃあ、まさか……」


「ああ、お前が思っているそのまさかだ。じゅん……丸清まるせい淳も

チーム仲間に――」


 淳は、俺や鴇が出会う前のリンダの……そう、リンダのボーイフレンド。つまり恋仲の関係だった。そのことは、そのことだけは、鴇には内緒にしていた。俺と鴇の間にある秘密は、この一件だけだと自負する。つまり、俺と鴇の仲は無二の親友というレベル。


 でも、そのことを、仁平は知っている。

 仁平もまた、俺と鴇と同じように、淳とは無二の親友というレベルだから。


「あと丸清結惟ゆい……と、その息子の和之かずゆき君と浩之ひろゆき君。俺の弟の庄平しょうへいと、瑞希みずき先生のお兄さんのみつる君。鴇と俺……つまり、あと二人。結惟は女性で、マネージャーなので試合には出られないし、まあ、お前が入ったから残り一人。そこは助っ人で補うだろうけどな」


 ならば、こうか。


「……淳は結惟と結婚していて、和之君は二人の正式な養子になっているってことだな」


 淳の武器はドライバーだった。


 結惟の武器は縦笛、吹き矢のように針を飛ばす技。――訳あり子連れの『情報屋』だった。そしてまた、リンダと出会う前の、初めての想い人だった。……もう、あくまで過去形。今はもう、二組の家庭を持つ。愛する我が子もいる、お互いもお互い。


 その過去は、もう想い出。

 でも、その過去があったから、今現在いまげんざいの結果に至っているのも見た通り。


「そういうこと。いずれにしても俺たち五人、『情報屋の戦友』が揃ったわけだ」


「じゃあ、乾杯は五人だ」


「そうだな、懐かしき日々を語りながら」


 ……そして、


 この会話にも出てこなかったが、出門でもん仁平は社会科の先生である。特に日本史は得意中の得意。仁平らしいといえば仁平らしい。また、吹奏楽部の顧問でもある。のちに演劇部との関係が深くなるのでは? という予感をも、この初夏の風に漂わせていた。



【同じ刻、川合かわい未来みらいの視点】



 そう、同じ刻。


 場所は比較的に静かな中庭、大自然にも似た草木は、大樹は避暑地の役目も担って、俺たちを少しでも直射日光から、紫外線から守っている。……まあ、そんな中でも、「何て長い昼休みなんだ」と思うところだけれど、できるなら突っ込まないでほしい。


 この話でさえも、

 後の大いなる意味を持つものだと、そう思って頂けるのなら幸いだ。


 実は此処にも異例は存在している。……出門先生の息子の恭平きょうへいも、この学園に通う生徒だ。そうであるなら先刻の転校生と同じ例を示している。先刻の転校生といえば、怪力女の……海里かいり。ただ育ちが日本かアメリカだけの違い、それだけなのだ。


 俺は今、恭平と一緒にいる。

 石製のベンチに二人、腰を掛けつつの語らい。いつもと同じ光景だ。


「なあ恭平、どこかクラブに入る気はないか?」


「そうだな、剣道部は廃部になってしまったし、他に入りたいと思えるクラブも見当たらないし、やっぱり帰宅部が一番かな、今夢中になれるものは」


 この瞬間、一瞬でも、恭平の言葉に共感するが、


 ……でも、やっぱりミズッチの顔が脳内にチラつく、『タイガー』になったミズッチの顔もセットでチラつく……それは多分、恐怖以外の何ものでもなく、只々恐怖。


「演劇部はどうだろう?」


 という具合に、とうとう言ってしまった。ミズッチの顔がチラつくおかげで。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る