第四十七話 君のリアクションを楽しむため、今はただ勇気を振り絞り。
【前回からの、
草木の薫り漂いながらも、静かなる刻。
同じ学園内でありながら、アナザーワールドのようなお昼休み。
その渦中に於いて、
「――えっ? 演劇部って、今やってる?」
と、重厚感のないノリで、
だから答える、
「やってるやってる、ミズッチは今まさに奮闘中、主に勧誘。良く言えば人集め」
と、俺は俺なりに、正直に。
「おいおい、勧誘も人集めも同じ意味。全然フォローになってないだろ? 考えてもみろよ。ここはお前の男気を発揮するチャンスじゃないか。いざという時に立てる男、女はそういう男に惚れるんだよ。……それにお前、
――って、いきなり何を言う、恭平!
でも、彼の話は続いて、
「ほらほら図星だろ、わかるぞ。何年お前と付き合ってると思ってるんだ? 何だったら協力してやってもいいんだぞ。演劇部に入ってほしいんだろ? この俺に」
急に上から目線。
恭平は調子に乗ると、すぐこれだ。……まっ、それに付き合う俺も俺だけどな。
「頼む。お前の力を借りたい」
「まあ、任せとけって。俺が演劇部を盛り上げてやる。それから瑞希先生との仲も……」
「あっ、それはいい。
俺が、俺の手で、ちゃんとケジメをつける」
……って、何のこっちゃ?
我ながら、何にケジメをつけるのかは、意味がわからないが、
「健闘を祈るぞ、我が友よ」
と、恭平は微笑むのだ。
……まあ、それ以上の詮索をしてくれなくて良かった。
「ありがとう!」
と、爽やかに、我ながら珍しく素直な返事。しかしキョトンとする恭平、その理由は、
「あれ、あのままでいいのか?」
と、その視線の先、またはその指をさす方向に、……見たものとは? そう、紛れもなく、あいつだ。――
その姿とは……「読書しながら眠ったようだな。睡魔との格闘の末、座ってた状態から崩れて、うつ伏せ。そのまま地面に転がりと……器用で見事な三段形状をこなし、スカートが捲れ上がって、それに――」と、これ以上の説明を台詞にするのは、その後の彼女による報復……ではなくて、純粋に本人が可哀想なので、ご想像にお任せ致します。
「恭平、悪いがここで一旦別れよう」
「ああ、先に教室へ行ってる」
その一言をもって、恭平は去る。
それを機に、このスペースにいるのは俺と、未だ眠っている海里だけとなった。
ニヤリとなっているのが、自分でもわかる。
下心……そんなものない。あるのはただ、ミズッチが頭に血が上って、この子の担当を俺に任せたこと。それと、あとは思い存分、
(フフフ……さっきの仕返しをしてやる。投げ飛ばされたのも込みで)
もうすでに、純白のパンツが露わになっている。そうとも知らず、ほんと、気持ちよさそうに眠ってやがる。「スカート捲ったの、俺じゃないからな」と、心の声を響かせ、ペチペチと、お尻をペンペンしてやった。
「……あんっ」
と、吐息と一緒に声までも、彼女は漏らして、
(おいおい、悩ましい声を出すなよ)
と、そう思う瞬間も、彼女は頬を赤らめて、よく見ると目尻に薄っすらと涙……
何かヤバいと思えるほど、何というのか、
何か知らないけど、気付くと俺は、彼女の捲れたスカートを慌てて直していた。
その序でに櫛……それから、リボン? 今日に限って何でか持参している。誤解しないでほしいし、「違うんだよ」と、幾度となく胸中で囁き続ける。リボンのカラーは黄色ということで、俺は、きっと……プレゼントを目論んでいたに違いない。
――それは、この間の御礼。
俺の誕生のアニバーサリーを精一杯に飾ってくれたミズッチへ。
でも今は、なすべきことをなす場面で、
まずは、うつ伏せになっている彼女の体の向きを、「ゴロン」と画面に字幕が出そうなイメージで横に転がしながら変え、地面に座らせるようにして上半身を起こした。
……ここで俺が思ったのは、何故か変形ギミックのあるプラモデル。
飛行形態から人型のロボット形態へ。――とても懐かしく、とは思っても、制作したのは半年前……まだ記憶には新しい方だ。何だか楽しくと思う傍ら、普通ここまでしたら眠りから覚めそうな気はするが、深いようで……まだ眠ったままなのだ。
(まあ、今起きてもらっても困るが。
張り倒されるか、投げ飛ばされるかのどちらかのイメージしかない)
と、そう思うなら止めたらいいのに……
何故か、ここで止めたら負けなような気がして、ロシアンルーレットを彷彿させるような遊び心と、スリルも味わいながら、変な期待をも湧き上がってくる。
それでもって、奇跡的に外れることのなかった眼鏡。
彼女の眼鏡……古風な黒縁を今外すと、あの日に見た素顔が露わに。
(このまま眠っとけば、結構かわいいのにな……)
と、またも素直な感想。この昼休みの間だけでもすでに二回目。――彼女の顔近く寝息がかかるほど、その瞬間からかな? ドキドキと……何故だろう? 胸の鼓動が高鳴ってゆく。顔も熱くなって……それを覆い隠すようにと、俺は彼女の三つ編みを解いた。
櫛で解く、滑らかに、エンジェルリング眩い彼女の髪。
黒、栗色とも思えるような麗らかな髪。……穢れを知らない純真無垢な感触、櫛を伝って指先を伝う。脳内への刺激は半端ない。それでも整える髪を、その髪を。無心の境地に至りつつも整え続ける。その結果、束ねてリボンで飾るなら……美しい仕上がりに。
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